「じゃあもう一度……ワーロック法が制定されたのはいつ?」 夕食後の図書館の一角に二人は居た。ここ数日で二人の距離は確実に縮まっていた。レーナはセドリックに対して緊張するようなことはなくなり、傍から見ればまるで兄妹のように仲良くなっていた。 出された問題は、先ほどは答えられなかったものだ。いくら魔法史が苦手とはいえ、同じものを連続して間違うのは自分のプライドが許さない。うんうんと唸りながら答えを導き出す。 「………1709年!」 思いの外、大きな声が出てしまった。慌てて口を塞ぐと、隣からクスクスと小さく笑う声が聞こえる。ムッとして口を尖らせるが「正解だよ」セドリックのその言葉に、すぐに口角は上がった。 「レーナは物覚えは良いみたいだから、こうやって復習していれば大丈夫だよ」 「セドリックの教え方が上手だからだよ」 確かに物覚えは良い方だが、これまでは魔法史を勉強しても中々覚えれないことが多かった。しかしセドリックの教え方ではすんなりと頭に入ったのだ。 そんなレーナの言葉を本気にしていないセドリックは軽く笑っていた。 「本気で言ってるのに…」 ハーマイオニー達と授業を受けて、ご飯を食べて、セドリックと二人で図書館で勉強をする。そんな日々をレーナは過ごしていた。 十一月のある土曜日、グリフィンドール生はみな朝から興奮していた。なんと言っても今日はクィディッチの試合だからだ。しかも、相手はスリザリンだ。 レーナがハーマイオニーと大広間で朝食を取っていると、緊張した面持ちのハリーがやってきた。ハリーが百年ぶりの一年生シーカーだという噂はとうに広まっていたらしく、殆どの人がハリーを見ていた。食欲がないハリーにハーマイオニーとレーナはトーストを食べることを薦めたが、それには手を付けなかった。 席から立つハリーにレーナは一言「頑張ってね」と声をかけた。頼りなく頷いた彼の背中をパシっと叩いた。 レーナはハーマイオニーとロンと試合を観ることにした。二人の横に座ると、いよいよ試合が始まった。 「さて、クアッフルはたちまちグリフィ ンドールのアンジェリーナ・ジョンソン が取りました――何て素晴らしいチェイ サーでしょう。その上かなり魅力的であ ります」 「ジョーダン!」 「失礼しました、先生」 双子の親友であるリー・ジョーダンがマクゴナガルに厳しく監視をされながら実況をしている。 三人がドキドキしつつ試合を観ていると、先取点がはいった。得点したのは、レーナも仲が良いアンジェリーナだった。 ワッと湧くグリフィンドール生。大歓声に混じってレーナも声を上げた。 「ちょいと詰めてくれや」 ハグリッドがやってきた。レーナ達がどうにかしてハグリッドの席を確保すると、そこに座った彼は首から下げた大きな双眼鏡をぽんと叩いた。 「俺も小屋から見ておったんだが……」 ハグリッドは小屋から競技場に来たらしい。余程ハリーの初戦を観たかったようだ。 上空でスニッチを探すハリーが居る。それはオリバーと決めた作戦らしい。 「さて今度はスリザリンの攻撃です。チェイサーのピュシーはブラッジャーを二つかわし、双子のウィーズリーをかわし、チェイサーのベルをかわして、ものすごい勢いでゴ……ちょっと待ってください――あれはスニッチか?」 そう実況した途端に客席がざわついた。レーナも何度かスニッチを見つけた。 ハリーはスニッチを見つけると急降下した。スリザリンのシーカーも同じく見つけたようで追いかけるが、ハリーの方が速かった。 ―――しかし、次の瞬間グリフィンドール席から怒りの声が湧いた。 スリザリンのマーカス・フリントがわざ とハリーを邪魔し、ハリーはコースを外れてしまった。 「何あれ!卑怯よ!」 レーナも他のグリフィンドール生と同じように叫んだ。 そんなこんなで、試合が進んでいった。 そしてスリザリンのビーターが打ったブラッジャーをハリーがすれすれで交わした―――途端に、急にハリーがガクッと揺れた。不自然に揺れる箒。ハリーはそれに必死にしがみついていた。 「ねぇ、何だかハリーがおかしいわ」 「あれがハリーじゃなけりゃ、箒のコンとロールを失ったんじゃないかと思うわな……しかしハリーにかぎってそんなこたぁ……」 ハグリッドは双眼鏡でハリーを見た。 「ぶつかった時にどうかしちゃったのかな?」 「そんなこたぁない。強力な闇の魔術以外、箒に悪さはできん。しかも 相手はニンバス2000だ、生徒であるはずがない」 ハグリッドがそう答えると、ハーマイオニーはすぐさま双眼鏡をひったくり、観客席を見だした。 「ハーマイオニー?こんなときに何してるんだよ!」 ロンが顔を青くしながら言った。 「思ったとおりだわ……スネイプよ、みてごらんなさい!」 ハーマイオニーがそう言うやいなや、ロンは双眼鏡を奪った。 レーナも目をこらし、観客席を見た。 そこにはハリーから目を逸らさず、呪文であろう何かを呟くスネイプが居た。 「箒に呪いをかけてるんだわ」 ハーマイオニーははっきりとそう言ったが、レーナはそうは思わなかった。トロールでの一件で、彼はきっと悪い人ではないと確信していたからだ。レーナが考えを巡らせていると、いつのまにかハーマイオニーが居なくなっていた。 「あれ?ハーマイオニーは?」 「…ハーマイオニーならスネイプを止めに行ったよ」 急いで反対側の観客席を見ると、クィレルにぶつかってからスネイプのマントに火を付けるハーマイオニーがいた。 すると、ハリーの箒の揺れがピタリと止んだ。そして、ハリーはまたも急降下した。 ――ハリーは口元を手で覆った。そして懸命に何かを吐き出そうとしていた。…出てきたのは金色のスニッチだった。 「スニッチを取ったぞ!」 ハリーはそう叫ぶと、高々とスニッチを掲げた。 「グリフィンドール、一七〇対六〇で勝 ちました!」 波乱づくしのハリーの初戦は大歓声と拍手に包まれて終わりを告げた。 試合を終え、談話室でお祭り騒ぎをした後、レーナ以外の三人はハグリッドの元へ行ってしまった。勉強でもしようかと考えたが、今はそんな気分ではなかった。レーナは寮に戻ると、同室のパーバティやラベンダーと先ほどの試合について話に花を咲かせた。 |