次の日いつも通り起きたレーナは、いつも通り髪の毛を櫛で梳いていた。解れがなくなるまで梳いた時、珍しくハーマイオニーが起きてこないことに気づいた。ベッドを確認すると彼女はまだ寝ていた。スヤスヤと気持ち良さそうに寝るハーマイオニーの肩を揺する…が、起きない。 「…起きて、ハーマイオニー」 未だ寝ているパーバティとラベンダーを起こさぬよう、小さく声をかけるが中々起きない。最終手段だ、机の上にある分厚い本を手に取る。心の中で謝り、レーナは思いっきりそれをハーマイオニーに振りかざした。 「有り得ないわ!あなたって何でそんなに乱暴なのかしら」 朝食を取るレーナに向かって暴言が飛ぶ。あなたが普通に起きたらあんなことしなかったわよ、と内心悪態をつく。トーストを齧っていると、広間から出ていくハリーとロンが見えた。ハリーの手には箒が握られていた。ハーマイオニーはそんな二人を見るとおもむろに立ち上がった。 「私、先に行くわ!」 レーナは残りの紅茶をズーッと飲みながらハーマイオニーを見ていた。 朝食を食べ終わり、ハーマイオニーと合流すると案の定、彼女は機嫌が悪かった。レーナはこれ以上機嫌を損ねられると困ると思い、その日は話しかけないことにした。 次の日の朝目を覚ますと、ハーマイオニーは既に起きていた。目を擦りながらベッドから這い出る。 「…おはよう」 「おはよう、レーナ。寝癖がひどいわよ」 くすくす笑うハーマイオニーの櫛を借りる。今日は解れがすごい。顔を顰めて解れと格闘すること数分。 「もう大丈夫?」 「ええ、完璧よ」 その後は二人で朝食を食べ、授業を受ける。そんな他愛のない日々があっという間に過ぎていった。 ハロウィン当日、いつもと同じように起きてハーマイオニーと朝食を食べて授業のため教室に移動した。 一時限目は、フリットウィックの妖精の魔法の授業。今日から浮遊術を学ぶことになり、生徒達は皆、わくわくしていた。勿論レーナもその一人だ。二人一組で練習をすることになり、レーナは一人オロオロしていたネビルを誘った。 フリットウィックが言った通り、正確に言う。 『ウィンガーディアム・レヴィオーサ』 すると、羽がふわふわと宙に浮かんだ。隣に居たネビルが興奮しながらすごいよ、と言ってくれた。その様子を見たフリットウィックがグリフィンドールに加点をしてくれた。 授業が終わり、生徒が教室から出ていく中、レーナはネビルを優しく励ましていた。 「だから誰だってあいつには我慢できないっていうんだ。まったく、悪夢みたいなヤツさ」 ロンの声が聞こえ、咄嗟にロンとペアを組んでいたハーマイオニーのことを思い出す。サッと教室内を見渡せば、目に涙を浮かべ教室から出ていく彼女を見つけた。 「今の、聞こえたみたい」 「それがどうした?アイツに友だちがいないなんて今更だろ?」 確かにハーマイオニーはお節介だし、言い方が上からな部分があるけど、そのロンの言い方はあんまりだわ! レーナは前を歩くロンの後ろ姿をギロリと睨み付けた。 その日の授業全てにハーマイオニーは出席しなかった。レーナは図書館や天文台、空き教室などを休み時間に探し回ったが、結局見つけることはできなかった。 夕食に少し遅れていくと、テーブルの上には沢山のご馳走が並んでいた。ハーマイオニーのことが気になり、いつものように食が進まないレーナを見てパーバティが声をかけた。 「ハーマイオニーなら三階のトイレにいたわ」 「そうなの?…ありがとう!」 レーナはパンプキンパイを二つ手に取ると、女子トイレに向かった。 女子トイレに入ると、一つの個室が閉まっていた。レーナは扉の前に立ち、中に入るであろうハーマイオニーに話し掛けた。 「…ハーマイオニー、居るんでしょう?」 「……」 「ロンの言葉なんて気にしなくていいのよ。彼、あなたに嫉妬してるだけなんだから。…ねえ、出てきて」 「………レーナも思ってるんでしょう?私のこと悪夢みたいなやつだって」 「………確かにあなたはお節介だし、上からなところがあるわ」 そう言うと、中から大きな嗚咽が聞こえた。 「でも…そんなところも含めてあなたと一緒に居たいと思ったから一緒に居るのよ。…あなたは違うの?」 「…私もよ」 「だったら出てきて。こんな所で言うのもあれなんだけど、パンプキンパイを持ってきたの。食べましょ」 ギィ、と音を立てて扉が開いた。レーナは微笑んでパンプキンパイを見せた。 「…不衛生よ」 そう笑って言ったハーマイオニーの目は大きく腫れていた。その目では広間に行きづらいから寮で食べましょう。そんな話をしていると、不意に悪臭が鼻をかすめた。 「…変な匂いがするわ」 「本当だ、何なのかしら」 低い唸り声が聞こえてきた―――ナニカがトイレに入ってきた。カタカタと震えるハーマイオニーを庇うようにしていると、ナニカがやってきた。 トロールだ。4メートルはあるであろう灰色の醜い巨大。思わずハーマイオニーが叫んだ。 「―――きゃああああああああッ!」 棍棒を振り回し近寄ってくるトロール。 レーナは壁近くにハーマイオニーを寄せ、その前に立ちはだかった。その間にもトロールは扉や洗面台を破壊していく。飛んでくる破片を避けるが全ては不可能だった。…死ぬのか、そう思ったレーナの目にトロールの隙間から二人の友人が見えた。 「こっちに引き付けろ!」 ハリーはロンにそう叫ぶと足元に散らばっている瓦礫を投げつけた。瓦礫をぶつけられたトロールは、キョロキョロと辺りを見渡している。ハリーを見つけたトロールが棍棒を振り下ろそうとした瞬間、ロンが金属パイプをトロールに投げつけた。 「早く走れ!」 ハリーが叫ぶがハーマイオニーは恐怖からか、壁から動くことができない。 ハリーの声に逆上したトロールは狙いをロンにかえた。咄嗟にハリーはトロールに飛びつき、大きな鼻の穴に杖を突き刺した。トロールは棍棒を振り回して暴れている。 そしてトロールがハリーを振りおとそうと棍棒を振り上げた。 「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」 棍棒がふわりと浮き上がる。それは宙高くに上がり、勢い良くトロールの頭に落ちた。 トロールはふらふらすると、どさりと倒れた。 「ハーマイオニー、大丈夫?」 「わ、私は大丈夫だけど。あなた、破片で怪我してるわ…」 ローブや頭、顔に付いた破片をハーマイオニーに取ってもらっていると、バタバタと複数の足音が聞こえてきた。 すると、マクゴナガルがトイレに入ってきた。次にスネイプとクィレルが。トロールを見るなりクィレルがその場に座り込んだ。 「一体全体あなた方はどういうつもりなのです」 マクゴナガルの怒りに満ちた声がトイレに響く。 「殺されなかったのは運がよかった。寮にいるべきあなた方がどうしてここにいるんですか?」 レーナはどう答えていいのかわからず、下を向いた。 「マクゴナガル先生、聞いてください。――私の、私のせいなんです」 「ミス・グレンジャー?」 ハーマイオニーは声を震わせていた。 「私がトロールを探しに来たんです。…私一人でやっつけられると思ったんです──あの、本で読んでトロールについてはいろんなことを知っていたので」 レーナはハーマイオニーの嘘に驚いて目を見開いた。 「もし、三人がここに来て私を見つけてくれなかったら、私、きっと今頃死んでいました」 「ミス・グレンジャー、なんと愚かしいことを。たった一人で野生のトロールを倒そうなどと、どうしてそんなことを考えたのです?」 ハーマイオニーからは、続く言葉がでなかった。 「ミス・グレンジャー、グリフィンドールは五点減点です。…あなたには失望しました。怪我がないならグリフィンドール塔に帰った方がいいでしょう。生徒たちが、さっき中断したパーティーの続きを寮でやっています」 「ミス・クルーガーは怪我をしているようなので我輩が連れて行きます」 レーナはスネイプに連れ去られるようにトイレをあとにした。 「…どうしてあの場にいた」 「…ハーマイオニーがトイレに居ると、聞いたので」 「そうか。…あまり心配かけさせるな」 それから話すことは一切なかったが、レーナは何だか心が暖まるのを感じた。医務室に着き、レーナをマダムポンフリーに渡すとスネイプは何処かへ行ってしまった。 処置が終わり、レーナは寮へ帰ろうとしたが、それは許されなかった。 「ミス・クルーガー、今日は大事をとって此処にいなさい」 有無を言わさぬその言い方に、レーナははい、と答えるほかなかった。 |