散々な魔法薬学の授業が終わり、レーナがハーマイオニーと地下牢の階段をあがっていると、ロンとハリーが話し掛けてきた。

「あの…君のお母さんのこと、バラすようなことしてごめんね」
「気にしてないから…私は大丈夫」
「僕も、君の親のこと気にしないから!これからも…仲良くしようね」

頬をほんのりと染めながら言うハリーにレーナはとても嬉しくなった。マルフォイに啖呵を切ったはいいもの、実際は心配していたのだ。折角仲良くなったハリーやロン、ハーマイオニーとの仲が疎遠になることを。

「私のことも忘れないでくださる?…レーナ、私たち友達よ。そんなこと気にしないでいいのよ」
「ぼ、僕もだよ。レーナ」

自分は友人に恵まれている。レーナは三人と並んで階段を登っていった。





数日が経った。授業が終わり、食事を取ったレーナは図書館に居た。いつものようにキョロキョロと辺りを見渡し、今日もセドリックが居ないことを確認すると人気が少ない場所に座った。
思い返すのは数日前のマルフォイのあの言葉。確かに母は冷たいし、何だか怪しいとは思っていた。しかし、例のあの人についているとは思わなかった。…もしかすると、いつかは敵対することになるのだろうか。
考え出したら止まらなくなるので、レーナは頭をブンブンと横に振り、羽ペンを握った。
その後、閉館時間になるまで図書館に居たレーナがセドリックに遭遇することはなかった。ホッとしながら女子寮に戻ると其処には本を片手に困っているハーマイオニーが居た。

「ハーマイオニー、どうかしたの?」
「…レーナ!明日は飛行術の訓練があるのよ。私、箒に乗ったことなんてないから不安で…」
「何とかなるよ、箒なんて」

家で無理矢理兄達に箒に乗らされたことを思い出す。箒に乗るのは割りと得意であったため苦ではなかった。しかし、それよりもずっと読者や勉強の方が魅力的だった。
それでも心配なハーマイオニーはずっと退学だわ、とネガティブなことを言っていた。レーナは相手にするのが面倒臭くなり、寝ることにした。

「本を読んでも上手にはならないわ。…それよりも明日に備えて早く寝るべきだと私は思うかな。じゃあおやすみ」



次の日の朝食時も、ハーマイオニーは本で覚えた情報を周りの人に話していた。レーナは禄に聞いていなかったが、ネビルはずっと真剣に聞いていた様だった。

午後、訓練を行うためにレーナ達は校庭へ向かっていた。天気は晴れ、風もあまりなく箒に乗るには絶好の日和だった。
二人が授業場所に着き、少しすると白髪を短く切りそろえたマダム・フーチがやってきた。

「なにをボヤボヤしてるんですか。みんな
箒のそばに立って。さぁ、早く」

箒の横に立ち、ボロボロの箒を見据える。

「右手を箒の上に突き出し、そして、上がれ、と言う」

皆が口々に「上がれ!」と叫んだ。

「上がれ!」

レーナが叫ぶと箒は一回で手に収まった。周りを見渡すが、箒を手にしているものは少なかった。
次にフーチは、箒の端から滑り落ちないよ
うに箒にまたがる方法をやって見せた。そして生徒たちの列の間を回り、箒の握り方を直していった。スリザリンのマルフォイが間違いを指摘され真っ赤になっているのを見たレーナは内心ほくそ笑んだ。

「さあ、私が笛を吹いたら地面を強く蹴って下さい。箒がぐらつかないように押さえ、2メートルぐらい浮上して、それから少し前屈みになってすぐに降りてきてください。笛を吹いたらですよ――1、2の―――」

フーチが笛を吹く前に、ネビルが地面を離れてしまった。箒をコントロールすることができないネビルは、あっという間に空高く登っていってしまった。

「こら、戻ってきなさい!」

箒に掴まることでいっぱいいっぱいなネビル
にフーチの声が届くわけもなく。ネビルは声にならない悲鳴をあげて落下した。
幸い、手首の骨折だけで済んだネビルはフーチに付き添われて医務室に向かった。
二人が遠くに離れていった途端、マルフォイが大声で笑い始めた。

「あいつの顔を見たか?あの大間抜けの」

マルフォイの言葉に他のスリザリン生が囃し立てた。

「見てみろよ!」

マルフォイがネビルが落とした思い出し玉を掲げた。

「マルフォイ、それを返せ」

静かに怒るハリーに生徒達は静まり返った。

「それじゃ、ロングボトムが後で取りに来られる所に置いておくよ。そうだな、木の上なんてどうだい?」

「こっちに渡せ!」

「そんなに返してほしいんなら、自分で取りにこいよ!ポッター!」

マルフォイがニヤリと笑い、箒に乗り飛び上がった。安い挑発にのったハリーをハーマイオニーが止めた。

「ダメ!フーチ先生がおっしゃったでしょう、動いちゃいけないって。私達みんなが迷惑するのよ」

ハリーはハーマイオニーの制止を振り切って箒に跨り、高く飛び上がった。空中でマルフォイと向き合うハリー。

「こっちへ渡せよ。でないと箒から突き落としてやる」

「へえ、そうかい?」

ハリーは自身の発言通り、マルフォイに向かって飛び出した。それをギリギリでかわすマルフォイ。

「クラッブもゴイルもここまで助けに来ないぞ。ピンチだな、マルフォイ」

「取れるものなら取るがいい、ほら!」

そう叫ぶとマルフォイは思い出し玉を空中高く放り投げ、地面へ戻っていった。
ハリーは前屈みになって落下する思い出し玉に向けて急降下した。そして、地面スレスレの所で玉を掴み、間一髪で箒を引き上げ体制を立て直した。そんなハリーの姿にレーナは見惚れていた。
グリフィンドール生がハリーに駆け寄ろうとした時だった。

「ハリー・ポッター!」

ハリーが無事着地した後、マクゴナガルの声
がそこら中に響いた。走ってくるマクゴナガルに、ハリーの顔は見る見る蒼白くなる。

「まさか──こんなことはホグワーツでは一度も‥‥よくもまぁ、そんな大それたことを‥‥。首の骨を折ったかもしれないのに」
「先生、ハリーが悪いんじゃないんです」
「お黙りなさい」
「でも、マルフォイが」
「くどいですよ。ミスター・ウィーズリー。ポッター、さあ、一緒にいらっしゃい」

マクゴナガル先生は大股で城に向かって歩き出し、ハリーはその後をトボトボと着いていった。
その後、マルフォイがハリーのことを馬鹿にしたりして散々だった。レーナはハーマイオニーと校舎に向かって歩いている途中、先ほどのハリーの華麗な箒さばきを思い出しては目を輝かせていた。

夕食の後、マクゴナガルと何があったのかをハリーがロンとレーナに教えてくれた。


「ハリー、君すごいよ!最年少の寮代表選手じゃないか!チャーリーだって一年生のときには選手じゃなかった!」
「先生百年ぶりだって。でも、練習を死ぬ気でやらないと処罰について考え直される羽目になる」

凄い才能だ。レーナはご飯を食べるハリーを見て思った。今日初めて箒を触ったばかりなのに…。内心感嘆していると、ハリーを見つけた双子がやってきた。

「おい、ハリー!」
「ウッドから聞いたぜ!実は僕たちも選手なんだ」
「知ってるよ。ビーターだろ?」
「今年のクィディッチカップはいただきだぜ。チャーリーがいなくなってから一度も
取ってないんだよ。だけど今年は抜群のチームになりそうだ。ウッドときたら小躍りしてたぜ」

レーナは何度か話したオリバーが小躍りしているところを想像し、軽く噴き出した。そんなレーナを見て双子のどちらかが不思議そうに見てきたので適当に笑って誤魔化した。すると何を思ったのか頭をぐしゃぐしゃにされてしまった。
それから二人は親友のリー・ジョーダンに呼ばれて何処かへ行ってしまった。
レーナもそろそろ勉強をしようと図書館に向かうため広間を出た。




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