大学生設定
『やっぱ今日会いたない、行くんやめる』
そんなひとことのメールを送ったのは、待ち合わせの五分前。あれから一時間、いまだに返信なし。
(泣きそう‥‥)
あんなメールを送ったのは別に、構ってほしかったわけやない。
風邪を引いた。声がまるで出えへん。千歳は、前に、声が好きだと言ったから。こんな声、聞かれるくらいやったら寂しいの堪えてひとりぼっちで過ごすほうがマシや。
けど、無視は、酷ない?
‥‥考えてみたらおかしいことないねん。いつもデートいうても千歳んち行ってたらやって、泊まって、やって、だらだらして、ってお決まりパターン。俺が行く時間なんかもともと決めてて、五分前行動完璧な俺がインターホン鳴らしても寝とるなんてざら。むしろほぼ毎回。
これで終わりかも。そう思ったら怖くて怖くてしゃあない。でも、やっぱり会いたいなんて都合のいいメール送られへん。普段から会いたいのひとこともよう言えんのやで、言えるわけないやん。
「‥‥っ、ぅ」
文句なんかなぁんも言わへん、やるだけでも、子どもできひんくて中に出せるって思とってもえぇから、お願い、すてないで、千歳。
ゴホゴホ咳き込みながら考えるのはそんなこと。千歳、千歳、声、聞きたいなぁ。
「鍵もせんで不用心ばい、白石」
「ぇ‥‥ぁ」
「声、出やんとや?」
夢か現実かわからへん。けど、こんな妄想、アカンやろ。あぁもう、俺、いやや。千歳が好きすぎてこんなリアルな夢見んねや、もぉ、最悪。
「夢やなかよ白石、心配して来たったい」
「っ‥‥!」
「何でわかると、ち顔しとるね、わかるとよ」
俺白石んこつ愛しとうけん、ずっと見とっとやもん。
そう千歳は微笑んで俺の髪を梳いてから、額同士を合わせる。
「んー、熱も結構高いばい、とりあえず病院ば行こ」
「‥‥、っ」
「平気と、手ば握っとっちゃるけん、怖いことないばい」
別に病院が怖いて思てるわけやないねん。この夢的展開が想定外で怖いんやって。
千歳ん中で俺セフレポジやろ? 女の子と歩いとるとこも見たことあるし、それも毎度違う子やし、千歳の優しさがワケわからん。
「っ‥‥ぃ、ぇ」
「ん?」
「‥‥、‥‥」
「なぁして疑いよるとよ、‥‥信じて」
期待させんといてよって意味でじぃって見たら、困ったみたいに笑っとるし。もぉ、なんなん。
「中学んとき、白石に惚れてからは一筋ばい」
「っ?!」
「白石真面目っちゃろ、嫌われんの嫌やったけん、やめた」
「‥‥っち、」
びっくりして普段の調子で呼ぼうとしたら口にばっとでっかい手押し当てられて、声出したら喉余計悪なるけん喋らんでよかよって千歳、なんなんほんま。他に言われへん。
嬉しいけど急すぎるし、理解が追い付かん。まだ諦めんでえぇって、そういうことなん?
「白石はそげんこつ考えてなかったやろうけど、俺は真剣に白石と付き合いたかっち思っとうよ」
‥‥なんで肝心なとこ分かってくれへんねん。なんで声出ぇへんねん。千歳、俺、俺な。
急いで、テーブルに置きっぱなしにしとった紙の裏に走り書き。シャーペンの芯出すんももどかしい。
人に読みやすい字をっていつも心掛けとるけど、そんな余裕もあるはずない。
『俺やって千歳ん事ずっと好きやってんで』
「‥‥嬉しか、白石、モテるけん、」
俺なんか視界にもおらんち思っとったばい、なんてほんまアホちゃうこいつ。お前んことで何年悩んだと思ってんねん。でも、でもな。
「嬉しかぁ、白石〜」
でかい図体してこっちの負担も考えんとがばっと抱きついてくるこいつが、俺は愛しくてしゃあないねん。
「白石、こん紙ばちょうだい」
「‥‥」
「ラブレターばい!」
「‥‥、ゃ、」
「ありがとうね、白石」
いやいや、あげへんって目したの確実に気付いとったやろふざけんな。
(あぁそうや、結局強く言われへん俺が悪いんやでわかってるわ!)
__120911
白石のほうがベタ惚れなのが望ましい。
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