「‥‥ねぇ、跳ね馬」

「どうした?」

 ホテルのロイヤルスイート、ディーノはソファの背に腕を上げ、その腕に頭を預けるようぴたりと座る雲雀。こうしていると雲雀の日頃のバイオレンスさはすっかり影を潜め、歳上の兄に甘える弟のようだった。
 吐息が触れてもおかしくない距離でディーノを見上げている。

「なんでそんなに日本語流暢なの」

「勉強したんだ」

「‥‥へぇ」

「何だよ」

「頭悪そうなのに、と思っただけ」

 普通ならムッとしてもおかしくない雲雀の発言にディーノはハハッと笑い、おまえなぁ正直すぎ、とまるでそんな素振り、一片見せない。
 顔良しスタイル良しに頭の良しまで加わるという、もはや足し算というよりも掛け算だ。そんな彼が選んだのがなぜあの並盛最強の雲雀恭弥だったのか。きっと本人にしかわからない。世界各国の令嬢や、その他諸々数え切れないほどの女性の憧れるドン・キャバッローネは、今、猛烈に恋をしている。そして最近実ったそれに幸せを噛みしめ愛の化身の如く雲雀に尽くす日々である。

「僕も、知ってるイタリア語あるよ」

「マジでか、何何?」

「ピピー、カッカ、意味は知らない」

「!おまっ‥‥、それ誰に習ったんだよ?」

「牛柄の赤ん坊」

「ランボのやつめ‥‥」

 雲雀のきれいな顔から飛び出したあらぬ下品な単語に口角が引きつるディーノだったが、ランボの身の安全のため意味は言わないでおいた。

「あ、あともうひとつ」

「今度はなに‥‥」

「ジュテーム、だっけ」

 意味は知らない、とさも事も無げに言うがディーノの耳には届かない。本当か否か問い質すかと思いきや固まったままである。ほんのりと赤くなったディーノを見て、きょとんとするしかない雲雀だった。

「恭弥、ソレ、フランス語だから‥‥っ」

「あ、そう、残念」

 残念だなんて露ほども思っていないふうの雲雀が呟き、あらぬ汗をかいたディーノははぁはぁと疲れ気味だ。

「イタリア語じゃ、ティアモ」

「ふぅん」

 じゃあ、ティアモ。
 子どもが復唱するのと同じレベルのソレであったけれど、ディーノのこころを掻き乱し、熱を上げるには十分過ぎるほどだった。


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こんな軽い愛してるはない。



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