「なぁ恭弥、オレのこと、好きだろ?」

「っき、じゃな‥‥!」

 なんでだよ、とディーノが顔を歪ませる。素振りも態度も、ディーノが特別なのはディーノの目にも明らかなのに。
頑なに雲雀は認めようとはしなかった。
 ディーノもいつもなら好きかと訊いて、雲雀が視線を逸らしながら好きじゃないと言えばそれで笑って終わらせるのに、今日は、そうできない。
 いつもの穏やかな空気が嘘のよう、ピリッと刺すような雰囲気で冷たく射抜く。

「じゃあなんで、オレにさっきキスなんかしたんだよ」

「っ、するわけない、夢でも見たんじゃないの」

 そう、応接室のソファに長い体躯を伸ばして眠っていたディーノの唇に、雲雀のソレが、そうっと触れたのだ。壊れ物を扱うような丁寧さというよりは、初めて触れようとおっかなびっくりにおずおず、といったほうが正しいだろうか。
 一瞬だけ触れてそれから、きゅっと唇を噛み締めるところまで見ていたというのに、白を切るつもりらしかった。

「夢なわけねぇよ、だってオレ」

 眠ってなんかなかった。
 そうディーノが続けると雲雀は、可哀想なくらい目を見開いて、ディーノを見据えた。

「なぁ、恭弥、」

「っあなた、ズルいよ」

「‥‥」

「まるで僕を好きみたいに振る舞うくせに好きかって聞くばっかりで、自分は、どうなの」

「‥‥、確かにオレ、ズルいな」

 大人になると変に慎重になっていけないと、ディーノは自分を打ち明けた。
 十代の畏れなき頃とは百八十度違うのだ。守るものも、手放せないものも両手に余るほどある。

「好きだって言って、恭弥が離れていくのが怖かったんだ」

「‥‥どうして、僕が離れるの」

「オレを好きだろなんて、口に出してるほど余裕なかったんだよ、実際は」

 雲雀が押し黙り、ディーノとの間を拡げた。はは、とディーノは乾いた笑いを漏らす。これが怖かったのだと、胸の内で思っていた。
 だけれどそのディーノの気持ちとは正反対のことを、雲雀は苦々しげに呟いたのだ。

「好きだなんて言ったら、放せなくなる‥‥!」

「きょう、や?」

「あなたがいつか誰か女性と恋をして、家庭を持つそのときがきても、僕は」

 あなたを放せない。雲雀の、こころなし涙の張った瞳に捕らわれたディーノは視線を外せない。
 誰一人頼ることなく生きてきた雲雀恭弥の唯一の依存だとするならば、これほどの幸せがディーノにあるだろうか。

「‥‥あなたが僕のものになるって言うなら、言ってあげてもいい」

「お前も、オレのもんになってくれんのか?」

「僕はならないよ」

 さすが浮き雲とでも言うべきか、ある種予想の範疇内のジャイアニズムを発揮した雲雀に苦笑い。

「でも並盛くらいには大事にしてあげるし、愛してあげる予定」

「‥‥っそれ、ってさぁ」

 だいぶ愛されるんじゃねぇの、オレ。なんて、頬が緩んで仕方ないディーノに雲雀の冷ややかな視線が突き刺さる。

「ま、いっか」

「何が」

「好きだ恭弥、だから恭弥も、オレを好きになって」

「‥‥しらない」

「ええっ?」

 それはないだろうと言わんばかりのディーノを尻目につかつかと歩き出しながら、結婚したいひとができてもしらない、と小さく呟いた声は、不意を突かれ出遅れたディーノには届かなかった。


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勢いで書き上がったでのひば。
大好きでのひば。がんばれディーノ。



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