「‥‥なぁ、もし」

「どうした?」

 思い詰めた顔で獄寺が、俺の上にのし掛かる。あぁ、また、なんか、夢でも見たんだ。
たまにこうしてひとりで溜め込んで苦しくなって溢れ出して。涙じゃない。たぶん、涙を流さないプライドが、獄寺を苦しめる。

「結婚したい相手、見付けたら」

「獄寺‥‥?」

「‥‥オレのことは殺してってくれ」

 蔭っていた月が顔を出して、獄寺の横顔を照らした。頬には涙の筋。獄寺が泣いてるとこ、初めて、見た。
 頬に野球でゴツゴツした指滑らせたら、添えるように獄寺の指が重なった。中学の頃にはもう爆弾いじってた指なのに、きれいなまま。
 自分が泣いてることに気付いてなかったのか、濡れてることにはっとして、引き剥がそうとするけど躱してそのまま引き寄せる。重ねた唇が一瞬ひくついて、閉じた目蓋が、今度は俺の頬に涙を零した。

「なんか、嫌な夢見たか?」

 いつもなら関係ねぇとか、つっぱねるのに今日はぽつぽつ話し始めた。

「お前、結婚して、割と可愛いカミさんもらってガキもいて‥‥日曜は野球、教えてたりしてて」

「なーんか絵に書いたような家族だなー」

「‥‥‥‥」

「その俺は、獄寺をいらないって?」

 ふるふる、と首を振るから、俺の鎖骨で銀髪が散る。パサパサ当たるのが擽ったいけど、獄寺は一生懸命心音でも聴いてるみたいだったから、引き離したり、できなかった。

「いらねぇって言えばまだ良かったんだ」

「ん?」

「お前が結婚しても、オレらは今のままで、オレが呼んだらお前はすぐ来るけど泊まらない」

「‥‥‥‥」

「オレが可哀想でお前はオレを離せない、オレは、それを利用して」

「獄寺、」

「‥‥お前が家族裏切んのを、ダチの顔して見てた」

 この手の夢はよく見るがリアルで今回はやられたなんて強がってるけど、見た数だけ傷付いてる。
 俺の所為なのは明らかなのに、俺は、手放せない。結婚する気も獄寺以外の相手もいないけど獄寺がさっきの夢を獄寺が夢だって割り切れなかったのもわかる気がする。結婚しなきゃならない状況になったとき、それでも獄寺以上に好きになるとは思えない。きっと、今まで通り獄寺に漬け込んで、隣から離れない。離さない。離せない。

「もし、もしもな?」

「ん」

「俺がそういうひと作ったら、さ、俺を殺せば?」

「んでそうなんだよ、てめぇは」

 幸せになって剛安心させてやんなきゃいけねだろ。つらそうな顔して吐き出す言葉は、目に見えない、テグスみたいに獄寺の首を絞める。外そうとするけど、すればするほど獄寺の首にきつく絡むみたいだ。

「親父は、俺が二番目に好きな人と一緒になっても、幸せじゃない」

「‥‥」

「だから獄寺のことも親父のことも幸せに出来ない俺が贅沢言うけど、そんな俺は獄寺のそのきれいな手で殺して」

「山、本」

「俺も、獄寺が俺以外にも相手作ったら、殺す」

 な、そうしよう、俺が言うのに獄寺は呆れ顔で、コイツどうしようもねぇバカだ、なんて憎まれ口。素直な獄寺は可愛いし、泣いてる獄寺にも欲情したけど。やっぱり元気な獄寺が、いい。

「‥‥今更ひとり殺したくらいでなんともねぇけど、殺させんなよ」

「もちろん」

「十代目が悲しむし、オレの仕事も増えるからな」

「そうだな、獄寺、これ以上働いたら過労死しちまうよな」

「結果オレも死ぬのかよ」

「ははっ」

「笑えねーよバカ」

 笑えねーなんて言いながら笑ってる獄寺を見て安心した。そっかぁ、ずっと一緒にいたから気付かなかったけど、俺らももう結婚意識する歳なのな。ツナももうすぐって言ってたっけ。 ラル・ミルチとコロネロも、結婚してずいぶん経つな。

「つーかさぁ、獄寺?」

「なんだよ」

「結婚すっか」

「‥‥んっとに、どうしようもねぇなお前」

「そんなにどうしようもねぇ?」

「あぁ、大馬鹿だ、正真正銘」

 オレを選ぶなんてって、口に出して言ったのは、きっと無意識。本当は問い質したいとこだけど、やっとよくなった機嫌をわざわざ悪くするのは非常に危険だ。

「俺にしとけって、幸せにするから」

「‥‥そらそうだろ、幸せにしてやんのはオレだ」

「ははっ、だな、うん」

「幸せにしてくださいっていつか言ってきたら、考えてやるよ」

「獄寺、俺を幸せにしてください!」

「はやっ!プライドねぇのかお前!」

「獄寺が俺を幸せにしてくれんなら俺が獄寺を幸せにすればいいんだから、話早いじゃん」

「‥‥もういい、言ってろよ」

 獄寺はもぞもぞとベッドに潜る。気は済んだらしい。うつらうつらしてきた獄寺の髪に指通したら、乱暴に払ったあとに指、絡ませてくるんだから堪らない。可愛い。

「なぁ獄寺、俺、お前殺したら俺も死ぬよ」

「‥‥、はは」

 たっぷり黙って、乾いた笑いのあと獄寺の閉じた雌からもう一筋涙が零れたのは、見ない振り。

「だから俺も親父も、末永く幸せにしてください」

 噛んだ唇も、腹に入った右ストレートも、愛しいよ、獄寺。

(指輪はサプライズにすんのがいいのか、それとも一緒に選ぶべき?)
(って獄寺に訊いたら、サプライズの意味調べて出直せって笑われた)


__120425
獄寺くんの笑うポイントがほんとはわかってて、わざとバカな振りしてる山本ください(笑)



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