ベッドに沈んでいく、疲労感たっぷりの身体に心地よさを覚えているところに。
のし掛かるのは上司兼恋人のベルセンパイ。
「あのー‥‥超ー聞きたくないですけど、なんですかぁ」
「ししっ、夜はこれからだぜ、カエル」
「今日は無理ですー、マジで無理ですーいやガチで」
「じゃおまえ、ヤんのと有幻覚出すのどっちが楽?」
「有幻覚のが百万倍楽ですー、センパイ絶倫野郎なんで」
ししっ、なんてまた笑ってセンパイは、じゃあ話が早ぇわなんて意味のわからないことを曰う。
本当、センパイがバカで困りますー。ミーがいくら有能多才でデキル男だとしても、限度ってもんが。
「寝ていーからフランの有幻覚だしといて、王子そいつとヤって寝るし」
「‥‥センパイの色欲の強さには恐れ入りますー、じゃあハイ、ドウゾ」
渋るのも妬いてるみたいで口惜しくて、すんなりだしてやった。ボンっと音を立て現れた自分の紛いもの。自分を出すのはそんなに難しいことじゃない。センパイはこっちを一瞥してソファに偽ミーの手を引いて行った。
センパイの形のいい唇が、偽ミーの首筋を辿る。鎖骨、胸元、ちらちら見える舌に、ミーの肌のほうがぞくりと粟立つ。あぁもう、ヤダ。
ねぇそれはミーに似てるだけですよ。それはセンパイのこと、ミーの百分の一も知らないし、好きでもないんですよ。
言いたい言いたい、言いたくない、言えない。もうヤダ。
「あ‥‥っん、ん」
「ここがいいんだ?」
「んんぅ、ん」
「ししっ」
センパイの指先が、偽ミーの顎を掬う。唇がどんどん近づいて。
キス、しちゃう‥‥!
相手が有幻覚でも、今まで何万回してたとしても、それだけはイヤだ。ね、触らないで。視ないで。舐めないで。
気付いたらミーはパチンッと指を鳴らし幻覚を解いていた。
「おーいカエル、何してくれてんだよ」
「バカになった水道みたいにフェロモン垂れ流してるのが部屋にいたんじゃ、ミー疲れてるのに眠れもしませーん」
「へぇ、じゃ、眠れないならオレの相手してくれんだよな」
「‥‥ほんっと、超色欲堕王子」
「ししっ、最初から素直になってりゃ、無駄な体力使わねえで済んだのになぁ?」
バカガエル、って微笑むのには腹が立つ。もちろん。けどそれよりも、センパイの指も視線も舌も唇も独り占めしてるこの状況が、そんなの相殺するくらいに嬉しい。
触って。視て。舐めて。キスして。ミー以外にしないで。ミーにだけ、して。
「アイツよりたくさん喘げよ?」
「‥‥っ、さい、てい‥‥」
「あー、やっぱさっきのカエルより興奮するわ」
「ん、や‥‥センパイっ」
「なに?」
鎖骨に牙剥くからミーは顔を歪めながら、両手の指をベルセンパイの髪の毛に通す。顔上げて向き直ったセンパイに、悔しいけど泣きそうになりながら懇願した。もちろん、聞き入れてもらえるとは思ってないが。
「や、やさ、やさしく、してくださ‥‥っ」
「‥‥ししっ」
ミーの耳朶噛みながらいつもより低く甘い声で囁いたことばはなんと、りょーかい、っていう意外なものだった。
「やさしーくしてやるよ、朝までな」
薄く敏感な肌を這うセンパイの指に視線に唇に舌に、早くも泣き喘がされながら、朝までということばを死刑宣告のように聞いていたミーだった。
(センパイにだったら何されても、いいんだけど)(ミー天の邪鬼だからごめんなさい、許してください)(好き、好き、ねぇセンパイ、大好き)(絶対言えないけど、)
__120429
こうなるのを見越して有幻覚出してとかだったらひどい鬼畜だとおもう。がんばれカエル。
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