う‥‥と呻くような声が隣から聞こえる。今までならそんなことがあればキレて蹴り出すか迎えを呼んで置き去りなんて当たり前だった。そりゃあ今そうしないのはここが自室だからという理由もあることはあるが、それ以前に自室のベッド寝ることは愚かメイキング以外で触らせたのも初めてなので、その程度に心は許しているというのが、蹴り出さない真意であったりする。
優しく揺り起こすような繊細さは持ち合わせていないため、揺さぶり起こすようにしておい、と声をかけた。
「魘されてンの?」
ふるふる、と翠の髪が揺れて否定が返される。魘されているどころか、眠っていないようだった。こちらに背を向け、うずくまるように小さくなっていて。
「おいカエル」
どうやら様子がおかしいと、元々よく効く夜目で首元を見れば、普段から汗など殆どかかない恋人がびっしょりと汗をかいていて。
すぐに額を触るが熱はないらしい。体温が高いとはいえ自分の手の方がよっぽど体温が高かった。
「‥‥少し、お腹が痛いだけなので‥‥」
掠れる声で気にしないでください、なんて殊勝なことを言ってみたり、その声が今にも消え入りそうに小さく震えていたり。しおらしさに、やはりただごとではないらしいと腹に手を添えた。
息を呑んだのが空気の揺れで伝わった。それも気にしないで、さするように腹に触れてみたり、じんわり温めるように手を置いてみたり。そうしているうちに一度、ふぅ、と息を吐いて。動向を見守るうち気付けば手の甲に、フランの一回り小さな手が大事そうに重ねられていた。
かと思えばすやすやと寝息が聞こえて、ハッとする。
「は‥‥? なにコイツ王子に腹さすらせてんの」
(なんかむにゃむにゃ眠ってっけど‥‥王子なんかムラムラして目覚めてんだけど)
苦し紛れに舌打ちをひとつして、誤魔化すように小さな恋人を強く抱き寄せる。
「明日覚えてろよ、ぜってぇ泣かすかんな」
聞かせるでもなく呟いて、無理矢理瞼を下ろした。
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腹をさするシチュエーションに萌えた結果。
ベルといえど、恋だとか愛だとかいとしさを知れば、優しくできると思うのです。
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