どうしよう、と表情には出さずに考えを巡らせる中、ふっと後ろから抱きしめられる。この体温、この匂い、知って‥‥

「ったく探したぜ、クソガエル」

「、なっ‥‥せんぱ、い」

「俺との約束反故にしてまで六道骸と遊んでたのか? え?」

「それ、は‥‥その、」

「電話も通じねぇわ約束の場所にもこねぇわ、何なの、お前」

「‥‥っ、」

「しかもソレ俺があげた服じゃん、当てつけか?」

「‥‥っそんなの!!」

 センパイが悪いんじゃないですか、ミー楽しみにしてたのに任務って嘘ついてまで女の人と‥‥っ腕組んで歩くわ、き、キスまでしやがって!この堕王子!ほんっとサイテーですこのやろー!
 早口に言い切って、ぜえぜえ息しながら唇を噛む。だって、ミーは師匠に会いに行くのやめたのに。センパイがやめろって言うから、ですー。でもセンパイはアジトにミーをひとり置いて、女の人と遊んでたんだから。ひどい。だったらミーを日本にやって好きなだけ遊べばいいんですよー。言うこと聞いたミーばかみたい。別に、センパイに告白されたときからわかってた。オンリーワンじゃなくてワンオブゼムだってこと。ミーは好きだけどセンパイは嫌いじゃないだけだってこと。
 いまだってセンパイがこんな郊外まで追い掛けてきたのは、ミーが約束反故にしたのが気に障っただけなのに。

「‥‥っ」

「泣きてぇのこっちなんだけど、一番嫌いな任務ブチ切れる寸前で堪えて待ち合わせ場所行ったってのにどっかのクソガエルとは音信不通でこの王子を三時間待たせた挙げ句他の男と一泊?」

 殺してやろうかまじで。そう言ってセンパイは、ミーの頸元にいつものオリジナルナイフを当てた。ひやりとした感触と、背中を伝わった汗。‥‥ヤバいですー、これ、人生二度目の堕王子のガチギレですー。でもそんな状態の中、消え入りそうな声で、聞き逃してもえかしくないような音量で言った、俺から逃げられると思うなってのひとことに、ミーの胸がぎゅっと締め付けられた。

「六道やその取り巻きと、何もなかっただろうな?」

「あ、るわけ‥‥な、」

「‥‥ったく、気ぃ揉ませんなよクソガエルの分際で」

「じっ自分はどうなんですか、女の人と‥‥!」

「だから任務だっつってんだろ、あの女いい気にさせて情報吐かせんのが昨日の任務」

 王子あの任務が一番嫌いと言った顔の歪み方ったらない。化粧粉臭い女がわざとらしい上目遣いで甘えてくるのを、あたかも恋人のように許して必要な情報を引き出す。そんなことこの堕王子にできるのだろうか。どうせ、やることやってきたんでしょ。あぁもうミー本当になんでこんな人好きなんだろう。

「あぁ、お前いつ見たのかしんねぇけどキスとかしてねぇからな、王子キスとか嫌いだし」

「うそばっかり‥‥いつもあんなに、」

「お前だからだろ、俺フラン以外にしたことない」

「は‥‥っ?!」

「お前以外にしたいと思ったこともなければしたこともない、まじで」

 そりゃお前が来るずっと前の段階でセックスはしてたぜ、けどあれは用足すのとあんま変わんねーじゃんって言葉に眩暈。なにこの人の恋愛観‥‥意味わかんないですー。
 お付き合いとセックスはセットじゃなくても、キスとセックスはセットでしょ。流れ作業じゃないですかそこ。本当に理解できない。でもその眩暈に拍車を掛けたのは、思いがけずミーが初めてのキスの相手だったっていう衝撃の事実。‥‥初めてであの上手さって、やっぱりセンパイ天才なのかも。まぁ他の人知りませんけど。

「目に睫毛入ったとかヌルい誘いに合わせてやってたから、ソレだろ」

「‥‥‥‥」

「今までならついでに食っちゃったりしてたけど‥‥いざ押し倒したらお前が泣くかもって思ったのと暗がりでもブスで気が殺がれたので半々」

「‥‥そ、ですか」

「他にお前が引っかかってることは?」

「ない‥‥ですー」

「じゃ帰るぞ、王子寝てねぇからイライラする」

 いやもうサイテーだろこいつ。本当に最も低いで最低。最も悪いとかじゃなくて最も悪で最悪。でもこんな最低最悪堕王子の特別扱いは、悪くない。思ったよりミーのこと好きなの、ねぇ。なんて、つい。
 表にはいつの間にかヴァリアーお抱えの黒塗りのベンツが停まっていて、後部座席に乗り込むや否やミーに腕を回してセンパイは爆睡。
 よく見ればセンパイも昨日の服のまま。しかもちょっと土とかついて汚くなってるし、ずっと待っていてくれた?‥‥まさか。この堕王子がそんなこと、するはずがない。だけど三時間って時間提示がすごく気になる。‥‥まぁ、いいか。
 端に追いやったミーの膝の上に頭を乗せ完全に横になって眠るセンパイの髪の毛に指を差し入れる。
 くしゃりと握って、こころの中で呟いた。
(ミーから逃げられるなんて、思わないでくださいねー)


__120902
まともな恋愛観してなさそう、ベルさん。



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