きらきらのふたり




バイト中、常連客に尻を撫でられた。笑ってやんわり手を離させたが顔はきっと引きつっていたし、不快感と不潔感と、様々な感情が入り混じる。涙がでそうだったし、同じくらい吐きそうだった。
いつもどおり迎えに来てくれたベルフェゴールを見て、どれだけ安心したことか。お疲れさん、と笑って手を伸ばしてくれて。
夜半とはいえ手を握るのは躊躇われて、でも離れたいわけではないのでぴったりと隣を歩く。
けれど、口を突いて出るのは可愛くない憎まれ口ばかり。
「別に迎えなんか頼んでませんのでー」
「‥‥じゃあそうやって、ヘラヘラ笑って男の相手してりゃいいじゃん」
「ん、な‥‥」
「ベタベタ身体触らせてれば?」
「見、てた、んですかー」
もういいよと強引に握ってくれていた手は離れ、つかつかと前に行ってしまう。
ぴったり隣を歩けていたのは自分に合わせてくれたからだったんだと思い知る。
元々のリーチの差にプラスで身長差。本当ならいつものペースでベルフェゴールの隣を歩けるはずがないのに。
五メートル、十メートル。どんどんと置いていかれ、でも走って追いかけることができなくて、差は開くばかり。急にベルフェゴールが立ち止まった。
「フラン」
夜の道で、ベルフェゴールの声はよく響いた。叫んだというわけではなくて、冷えた空気の間を凛と通った。
「十秒以内にゴメンが言えたら、許してあげる」
「‥‥っ」
「十、九、八、七‥‥」
街灯に照らされた金髪とスーツの後ろ姿は、芯の通った背筋とは裏腹に足は気怠そうに立っている。
はっと我に帰ると三、とベルフェゴールが紡いだ。弾かれたように地面を蹴って、後ろ姿目掛けて飛びついた。ごめんなさい。いつもの威勢はどこへやら、蚊の鳴くような声で告げた。
「しゃあねぇな」
「‥‥っセン、パイ」
「ほら、帰んぞ」
こっちは明日も仕事なんだよと苛ついたふうに言いながらも、くしゃりと後ろ手に髪を撫でてまた手を握ってくれたことに安堵する。
言葉以外は本当に優しいと、つくづく思う。指先を包む手のひらの温度も、歩調も、触れた指先もハグもキスも。フランのすべてを優しく溶かしてしまうようなそんなひと。
歳上なのにどこか子どもっぽさの抜けないところも好きだと、フランは指先に力を込めた。
「えらいスナオじゃん、ししっ」
「‥‥ミーはいつも素直ですぅだ」
「はいはい、エッチん時はな」
「っしねばか!」
ふん、とそっぽを向いてしまったフランの、知らないやりとりが実はあった。
ベルフェゴールがフランのバイト先に着き、少しだけ垣間見えた店内の様子。閉店後のため客はおらず、フランと、店長のルッスーリアで片付けをしているところだった。
その一瞬、フランの顔色の悪さが伺えたのはきっとベルフェゴールだけだっただろう。外を掃除に現れたルッスーリアを捕まえ、話を聞く。
『あらベルちゃん、今日は早いのね』
『あぁ、んなことよりフランの顔色、ありゃ何だよ』
『あー‥‥今日、ね、普段からフランちゃん贔屓のお客様が、フランちゃんのお尻触っちゃって』
『‥‥へぇ、チャレンジャーだな』
それとも自殺志願者かぁ、と間延びした声に明らかな怒気と殺気を含ませたベルフェゴールは如何にも冷静なマジ切れといった風情だった。
『ベルちゃんには言いたくないからって口止めされてたのよ、だから、言ったのは内緒ね?』
『んで隠すかな、あのバカフラン』
『センパイに嫌われちゃうって、それで泣きそうだったのよ』
『‥‥マジでバカだなアイツ』
フランを嫌うなんて絶対に有り得ないとベルフェゴールは自負していたから、その発想が謎ではあったが同時に胸が軋む。
でもその実予想よりずっと愛されていることに内心浮かれていたりして。
意地っ張りはお互い様。フランが素直に好きだと言えないのと同じよう、ベルフェゴールも歳上のプライドか、余裕のない自分を知られたくない。
だから一瞬でフランの顔色が悪いとわかったことや本人に聞けずルッスーリアに尋ねたこと、尻を触ったその手を切り落としてくれようかなどと割と本気で思っていることはフランにはトップシークレットなのだった。


__120413
ルッスとベルは大学の先輩後輩っていう裏設定があったりなかったり。
でもベルセンパイがフランに過保護とか普通に萌える。大学まで送りで帰りお迎えとか非常に萌える。やばいテンション上がってきた。




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