ベル→←フラ




「あれ、ベル先輩は‥‥」

「ベルちゃんなら昨夜から帰ってきてないんじゃないかしら?」

 もう、若いんだから、なんてルッスーリアはフリルのうるさいエプロンを翻しながらオーブンから焼きたてのスフレチーズケーキを取り出した。

「フランちゃん、すぐ食べてもきっと美味しいけど、冷やしてからにする?」

「あ、今食べたいですー」

「はぁい、どうぞ〜」

 もごもごと頬張りながらおいしいですと伝えるとまるで女子さながらにあらありがと!なんてハート飛ばさんばかりの勢いで投げキッスなんぞ飛ばしてきたのでシカト。
 せっかくおいしいケーキを食べているのに‥‥思い出して、溜め息が漏れる。


(やっぱり‥‥‥‥)

 先輩が帰ってこないのなんてざらな話。かっこいいし、モテるし、お金あるし王子だし、遊ぶオトモダチなんかきっとたくさんいるんだろう。
 任務に行って、女の子と遊んで、毎回知らないシャンプーの匂いを纏って帰ってくる。

「はー‥‥」

 ミーはといえば、ヴァリアーにきて右も左もわからないところにおもしろ半分で(半分どころか完全に面白がって)構い倒してくる先輩がうざくてうざくて仕方なかったはずなのにいつの間にか嫌よ嫌よも状態になってて。まぁ、まんまとこころを奪われたってわけだ。
 とは言っても別に先輩にそんなつもりはさらさらなくて。ミーが勝手に誑し込まれただけなので何とも言えない。思えば一目見た瞬間にキレイな人だと思ってしまった時点でこちらの負けは決まっていたようなもので。‥‥事実、今まで見た誰よりもキレイだった。


「なんかいー匂いすんだけどー」

 帰ってきたかと思えば、ミーのケーキをさも自分のもののように食べ始めた。いやいやそれミーのだし。ミーのフォークだし。ルッスこれ王子好きーなんて、意識してるの、ミーばっかりで嫌になる。
 ‥‥部屋、戻ろう。立ち上がったら腕掴まれるし‥‥もう、なんなの。

「何カエル、怒った?」

「別に怒ってないですー」

怒ってるんじゃない。ただ自分の間抜けさに呆れてるだけ。ぐるぐる考えてんのはミーだけで、この人はなぁんも考えてない。
ただ、同じフォーク使うのを厭わないくらいには、好かれているらしいとそんな低次元なことで喜んで。
 ‥‥全く、バカみたい。

「怒んなって、ほら、最後の一口あーん」

「はっ? い、いらなっ‥‥そこまで食ったならもう全部食えってんですよー‥‥!」

「だってカエルめっちゃ見てるから」

「元々ミーのケーキなんだから見ようがどうしようがミーの勝手だろ!」

「はいはいあーん、」

器用に顎抑えて口ん中押し込まれて。もう、意味、わかんない。
お前が何の気なしにやってることにこっちは期待しっぱなしの振り回されっぱなしなんだよ‥‥!!

「これカエルの食いかけだったから間接キッスじゃんな?」

「はぁ‥‥っ? 今更間接なんか気にするタマかよ、クソ堕王子」

「あは、バレた?」

「‥‥本当、早めに死ね」

 言い残して自室のベッドに潜り込む。
 あぁもう、次の瞬間こんな気持ち、消えてなくなってたらいいのに。
 この堕王子のことなんかキレイさっぱり忘れて、ミーのことめちゃくちゃ好きな人のこと、好きになるんだから。この際老若男女は問わない。
 うつらうつらしてきた意識を躊躇いなく手放した。



「早くオマエ、王子のこと好きになれよ」

「王子がほしいって、オマエの口から言えよ、そしたら」

(――王子オマエだけのものになってやる)

「‥‥――、クソガエル」




ほっぺたに何か、落ちた気がした。


_121009
両片思いは鉄板。
優位に立ちたい王子だけど外野から見たらただのヘタレっていう(笑)



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