「‥‥え? フランの隠し事って、ソレ?」

 こくこく頷いたフランはギュッと目を瞑り、唇を噛んでいる。虚を突かれたことにより毒気を抜かれ余裕がでてきたベルフェゴールは、とりあえず唇が切れてはいけないと、親指で唇撫でて止めさせた。
 その行動に力一杯瞑っていた目をいっぱいに見開いて、大きな目からは涙がぼろぼろと零れた。
 ベルフェゴールは写真立てを指差し、訊ねる。

「この女のことを俺は聞きたいんだけど‥‥?」

「クロームねーさんは、同じ院で育って、それだけ‥‥っですー」

「なんだよ‥‥俺の店、連れて来てたから」

 歯切れ悪く言うベルフェゴールに、涙の落ち着いたフランがきょとりとした目を向ける。
 あまりに罰が悪くて拘束していた手首を離し顔を背けながら横に座った。

「俺の、店? って、そもそもミー、お店でセンパイと会ったことないじゃないですかー‥‥」

 フランの口調も、力なくではあるが普段どおりに戻りつつある。
 そして先のフランの言葉に安心して、フェアじゃないと感じたから。フランの腕を引き起こしてやって、ごめんと小さく呟いた。

「俺も嘘ついてる」

「え‥‥」

「雇われのウェイターじゃなくてパティシエ、で、あれ俺の店」

「はぁっ?」

「ちなみにあのケーキも廃棄じゃなくて俺がフランの為に洋酒抜きの特別レシピで作ってたやつ」

「とく、べつ」

「割と有名店だし、廃棄なんか出ねぇもん」

 いよいよ意味がわからないと言ったふうにぱちぱち瞬きをして、それから合点がいったように笑った。だから甘い匂いがするんですね、なんて。
 天才と囃されスイーツ界の王子なんて呼ばれて、女ならわんさか寄ってきた。彼女ら相手に本気になったことは一瞬たりともなかったけれど、自分が身体だけを求めているのは棚に上げ相手が『スイーツ界の王子』を隣に置くためにその彼女の座を狙うのに腹が立ち。
 最初は咄嗟に出た嘘だったが、時間が経つにつれフランの気持ちの比重が、いつかベルフェゴール自身を上回りベルフェゴールの作るケーキに傾くのではないかと思って、なかなかに言い出せなくなっていた。

「俺が持ってくるケーキ、じゃなくて、ケーキを持ってくる俺に、フランの中でだけはなりたくなかった」

「ベル、センパイ‥‥」

「でもフランならそれでもいい、そのうちケーキなんかより夢中にさせりゃいーんだし?」

 そう思えたとき、全てが吹っ切れたのだ。たとえフランの気持ちがケーキのほうに傾いたとしたって、またこちらを向かせればいいだけの話。離しさえしなければ、不可能じゃないと気づいてからは驚くほどすんなりその気になった。

「‥‥ミーが甘いもの好きになったのは、センパイを好きになったからですー」

「は?」

「センパイ甘い匂いするから、甘いものいっぱい食べたのかと思って‥‥」

「ねぇよ、バカ」

 しししっといつものように意地悪く笑うベルフェゴールの隣で、フランもくすくす笑っている。
 笑うフランの唇にベルフェゴールが自身のそれを重ね、空気がしんと静まり返って色を帯びた。

「フラン‥‥」

「えっ、あ、‥‥っんで、さっきから名前」

「呼んじゃ問題あんのか?」

「だ、だって今までカエルだった、から、緊張‥‥」

「ししっ、かわいいやつ」

 フランの顔は真っ赤に染まっていて、その頬から鼻先、そして唇へと口付ける。赤みの差した頬はそれでも口角は普段よりずっと高くて。
 ‥‥フランの表情が晴れればそれだけで、ベルフェゴールの世界はきらきらと輝く。
(マジでこんな気持ち、初めてなんだけど)

「フラン、」


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