(嘘、吐いてる)
 フランには、帰る家がない。孤児院で育ったフランは親の名前は愚か、顔すら覚えていないのだ。そして孤児院でも浮いていたフランに居場所を与え、特別に守るでもなくただそこに置いてくれた人。それが六道骸だった。名前の売れた不良だと知ったのはずいぶん経ってからで、そのときにはもう絆のようなものができていて。
 居場所がなかったからこそ六道に城島、柿本と、それにクロームとは家族のような心地だった。不良だったからとかそんな理由だけで、気取らない自分を受け入れてくれたその場所を手放すことなんて考えられなかった。
 卒業後六道は在宅で働いていて城島はその雑用をし、柿本は同じ大学に院生として在籍している。
 由緒のゆの字もないような自分が、ベルフェゴールに釣り合うはずがないのはわかっている。けれど、本当に知らなかったのだ、ベルフェゴールが王子だったなんて。
 付き合ってすこしして、食事に行ったとき。初めてきた敷居の高いレストランでそわそわするフランを余所にベルフェゴールは慣れたもので、ただ座るだけの姿からすら気品が漂っていた。一日や二日でどうこうできるはずもない。 フランも、六道骸からテーブルマナー、ジャッポーネで食事をする際の箸までそれはそれは厳しく叩き込まれていたので恥はかかなかったものの、年上の余裕はこうもあるものなのかと思っていた。
 そして会計時に投げるよう雑に放ったカードは見たことのないものだった。雇われのウェイターだなんて言うのに、プラチナカード。目を疑い、そして瞬かせるフランに、帰り道何気ない会話のなかで、ベルフェゴールはひとこと、事も無げに言ったのだ。

『だって俺王子だもん』

 聞けば、双子の弟らしいベルフェゴールは兄とは犬猿の仲だったそうだ。そしてエスカレートしていく親の監視に嫌気が差し、家を出たのだと。王子だったからできていたことを数多思い知り、屈辱も、様々味わったが戻る気はなかったと、事も無げに言っていた。拾ってくれたオーナーをボスと呼んでいること。マネージャーの怒鳴り癖がひどいこと。ふたりとはたまに飲みに行ったりするらしい。いろいろな話をしてくれる。
 ‥‥そんなひとなら、自分がどこの出でも気にせず隣に置いてくれるかも知れない。けれど、そんな淡い期待もすぐに消える。ベルフェゴールに相応しいのがどのような相手なのか、そんなの考えるまでもない。
 そのとき初めてフランは自分を捨てた両親を恨み、そして、どうすることもできず唇を噛んだ。
 その日の帰り、いつものように仕事を終えてバイト先まで迎えに来てくれたのに後ろめたさと申し訳なさから視線を合わせることができなくて。
 顔色が悪いと心配して覗き込んでくるベルフェゴールから逃げるように帰った。フラン、と呼んでくれているのに、初めて応えなかった。
(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい)(好きになってしまってごめんなさい、でも)
(好きなんです、せんぱい)
フランの頬を大粒の涙が、きらきら、降った。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -