学生の客が増えた。フランの大学とは元々近い立地だし、何より大学名がよくでる。そして先週頭にはついにフランも来て(待ってたわけじゃねぇ、ただ、ちょうどヒマな時だったってだけ)、ただ、問題がいくつか。
 まずフランが来るときは絶対、女連れ。眼帯をつけたか弱そうで少し薄幸そうな、‥‥日本人と思われる可愛らしい女の子。
 でも来た日には今日行ったんですよーなんてあっけらかんと言うんだから、悪気はないんだと思う。
 が、いい気がするかと問われれば答えは言わずもがな。
 それからもうひとつ。付き合うことになったその一瞬後に訊かれ答えた職業はウェイター。‥‥実際のところ、ケーキを作っているのは自分だ。要は自分はウェイターではなく、パティシエ。しかも、この界隈で知らない者はいない店長が、自分。
 店内での製菓が自分の仕事で、ウェイターではないのだから厨房から出るわけがない。厨房からある程度客席が見えてはいるが、マネージャーのスクアーロも、ベルフェゴールの短気な性格を熟知しているので用がない限りホールには出るなとの指示の下、ホールに出ることはまずないので出会すほうが珍しいことで。

「あー、ちょうど休憩じゃね?」

「バター足んなくなって買い出し行ったからそんときか?」

「今日遅番」

 こうして適当にやり過ごしているが‥‥誤魔化す言葉に、最近困っている。
 もちろん最初に嘘を吐いたが悪い。そのくらい、ベルフェゴール自身にもわかってる。隠した理由は、単に恥ずかしかったからというのと、傲慢この上ないと取られても仕方ないが事実自分のケーキは毎日飛ぶように売れている。フランのなかで、ケーキがメインになるのも、危惧のひとつ。
 自分のルックスの良さも自覚済み。ケーキを作るのが仕事なのに、ルックスを目当てに客に来られるのが嫌だからメディアへの露出もいまのところゼロだ。
 我ながら勝手だとは思う、けれど。
(ケーキも俺の一部みてぇなもんなのに、ケーキにフランを取られたくねぇって俺いくつだっつの)
 チョコレートを流し込みながら、舌打ちとそのあとに、あまりの狭量さに溜め息も零れた。

『今日はこっち十一時には上がるから残業すんな。ルッスーリアには言っとく』

 工程が一段落したのでそんなメールを打ってすぐ、ルッスーリアにもフラン残らせたら殺す、とメールを作成し見返す間もなく送信した。フランのバイト先は、どこかで聞いたことがあると思ったら高校時代の先輩の店だったのだ。当時から敬うような言葉を使ったこともなければ今も同様。
 フランがバイトの日は、フランを家まで送ったあと恒例になりつつあるお土産と称したフランのことを考えながら作った甘ったるいケーキを、喜んで食べるところを見届けてそれからキスを何度かして帰る。
 泊まるとなればベルフェゴールの家のほうが広く勝手もいいので、互いの次の日の休みが重なった日に限られる。フランは夕方をバイトに充てるため朝から授業、ベルフェゴールも昼の開店に間に合うように出勤するので、仕方がない。
 フラン用に、ブランデー抜きのものを作るのも忘れずに。もう少しフランは未成年だし、見たところ、強くなさそうだ。前に少しブランデー入りのケーキを食べて真っ赤になっていたから。
 味見して、あまりの甘さにげんなりする。作るのは好きで仕事にしたが、食べるのはあまり好きじゃない。どうしても食べるならカカオの多いハイビターと決めているベルフェゴールに対し、ハイミルクを最も好んで食べるフラン。全てが逆だが、逆だからこそ惹かれたのかもわからない。歯車はうまく噛み合っている。
 ベルフェゴールの、たったひとつの嘘を除けば。
 ふぅ、と紫煙を吐き出しながら、自分の作ったケーキを幸せそうに食べるフランのきらきらした笑顔を、思い出していた。







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