独り寝の〜設定
いつもなら騒がしいヴァリアー邸。だが今日はいつもと様子が違った。
普段は夜更けまで皎々と明かりが点き、騒々しい屋敷が今日はまだ夜半だというのに(尤も暗殺部隊に時間の観念はないが)ひっそりと静まり返り、時折ひっく、とすすり泣く声がする。
隊員には早々に部屋に戻り静かに過ごすよう指示を出してある。今、ベルフェゴールは任務でジャッポーネだ。
文句を云いつつも、最近はすっかりベルフェゴールと眠るのが習慣となっていたフランは久しぶりに談話室で居眠りにしては少し深い眠りに就いていた。
気付いたスクアーロが抱え部屋に運んだまでは良かったのだが。
部屋を出て扉が閉まる寸前、すん、と鼻を啜る音が聞こえたのだ。
「せん、ぱ‥‥っ」
「‥‥ゔぉ゙ぉ゙い゙」
部屋から離れようとするとフランが鼻を啜るものだから、仕方無しにスクアーロがソファで眠ったのが一昨日の晩。
けろりとした顔で何ミーの部屋で眠ってるんですかーなどとフランが宣った時には一度刀を抜いたが苛立ちの勢いでナイフを投げる誰かよりスクアーロはさすがに大人で。抜くだけに止まったのだった。
ちなみに昨日の朝は、結局部屋に顔を見せなかったスクアーロにザンザスが当たり散らして手当たり次第に物は投げるわでヴァリアー邸はある種いつも通りの喧しさを発揮した。
『フラン、今晩はベスターを貸してやる』
『へ?』
『そこの肋の浮いたようなカス鮫よりは数百倍隣に置いて寝心地がいいだろう』
『え、わーい』
『どおいうことだクソボス!!』
噛み付かんばかりのスクアーロの傍らで、一度一緒に眠ってみたかったんですーなどとフランは暢気にも喜んでいる。ルッスーリアを除き誰ひとりとして、ザンザスが嫉妬していると気付いた者はいなかったのだ。その夜のフランの眠りが浅かったことはベスターしか知らない。
そして今晩。変わらず談話室惰眠を貪るフランを先日同様スクアーロが見つけたが、二度同じ過ちは冒すまい。あの朝はザンザスに当たられ災難だったと、思い返すとまた苛立つので考えないことにするが。
「ルッスーリア、ありゃあどうすりゃいいんだぁ」
「あらあら‥‥フランちゃん、ベルちゃんにべったりだものねぇ」
「ベルの奴、いつまでジャッポーネにいるつもりだぁ」
「今回の任務、ひとりなら一週間は堅いって言ったのあなたじゃない‥‥とりあえず部屋に運んで、それから考えましょ」
そうして部屋に運び、フランの部屋にスクアーロとルッスーリアとでああでもないこうでもないと小声で話し合っている。これが、静かなヴァリアー邸の顛末だった。
すんすん啜り泣く新米幹部に、ボンゴレ最強暗殺部隊の幹部たちがオロオロしている様子は微笑ましいが。
これからどうするべきか倦ねていると、ひゅん、と銀の物体が二人の顔の間をすり抜け壁に突き刺さった。
「フラン泣かせたの、誰?」
「帰ったかぁ゙、ベル」
「誰泣かせたの、スクアーロ?」
「テメェがいねぇって泣いてんだろぉがぁ!!」
「‥‥なんだ」
「早くどうにかしろぉ゙‥‥」
フランに歩み寄ったベルフェゴールは、馬乗りになりそしてあろうことかフランの口元に手を当てた。そのきれいで、意外と大きな掌はしっかりとフランの鼻も口元も覆っている。
「ゔお゙ぉい、ベル‥‥?」
「よくあるんだよなー、王子が任務の帰り遅くなったときとか夢見わりーと水飲みにキッチン行っただけでこんなん」
ほーんと、一人前なの口だけ。
言いながら数秒ののち、苦しさに目を開いたフランの唇から一度手を離すと焦点が合うまでに両手を顔の横に縫い付け、瞳を覗き込んだ。
鼻先が微かに触れるような距離。
「おい、王子帰ってきてやったから泣くな」
「べる、せんぱ‥‥い」
「シャワー浴びたら戻る」
「はーい‥‥」
額にちう、と唇を落とすとベルフェゴールは満足げに笑って振り返った。
「まだいたんだ、もういいよ戻って」
「んまぁっ」
「ってん、めぇクソガキぃ!!」
「フラン寝てるから静かにしろよ、つーかもう戻れ」
わなわなと怒りに震えるスクアーロだったが気に留めるふうでもなくベルフェゴールが二人を追い出した。
(ししっ、フランかわいーの)
王子とカエルが特別同士になる、少し前のお話。
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可愛いフランもたまには。
そしてスクちゃん動かしやすくて大好きだけど、濁点のタイミングが難しくて出しにくい。
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