( 1/2 ) 「......寒いね。」 「......あぁ、そうだな。」 元旦、といってもさっきなったばかりだが。 神社には初詣に来た人で賑わっており、とにかく人混みがひどい。目が回るのではないかというくらい。 そんな中私たちはそことはかけ離れた隅のところで踞っている。 わたしもトシも都会に住んでいながらどうも人混みは苦手。だからわざわざ人気もなさそうな神社を選んで眠たい中歩いてきたのに、これじゃ意味ない。 「トシ、ごめんね。我が儘言ってついてきてもらったのに。」 トシは会社の同僚。初めは見た目が怖くてビビりなわたしは絶対近づけない、と思っていたのだが接していくうちにすごく心優しい人だとわかった。口は悪いけど相手のこと気遣ってくれる優しい人。 いつの間にか好きになってて、気持ちを伝えた。 そして今このような関係になってほぼ1年。月日は本当に過ぎるのが早い。 「トシ、人混みひどいしもう帰ろうか。」 苦笑いしながらトシにそう言った。すると彼は怪訝な顔で言った。 「あ?何言ってんだ。」 「はい?」 うんしょ、という言葉で立ち上がりわたしの方に手を差し出す。 「せっかく来たんだ。行くぞ。」 「え、でも人混み、」 「んぐらい平気だ。おら。」 「きゃっ!」 腕を掴まれ立ち上がらさせる。そして指を絡まさせ人混みの中へと飛び込むように入っていく。 「離れないよーに、な。」 「......うん!」 嬉しくってわたしはぎゅっと手を握り返した。 ーーーーーーーーーーー...... 長い長い大蛇の列に並び長時間立ちっぱなしで、ついに先頭まで来た。妙な達成感が湧いた。 「お賽銭、お賽銭......。」 財布の中からとった5円玉をお賽銭箱に放り投げ、2回大きく手を叩いた。そして瞼を閉じる。 「(今年もトシと仲良く楽しく過ごせますように......。)」 ただこれだけ。これだけのことなんだけど幸せになれるんだよなー。 閉じていた瞼をそっと開け隣のトシを見る。トシも必死に目を閉じて眉間に皺を寄せて手を合わせていた。 その横顔にさえもわたしの胸は疼く、くすぐったいぐらい。 「......凛華、行こうか。」 「う、うん。」 横にはけ小さな段差に座り込む。 はいた息が白い息に変わるのを見ていた時だった。 「凛華はなんてお願いしたんだ?」 「わ、わたし?」 「お前以外に誰がいるんだよ。」 「......わたししかいないね。」 ははっ、と小さく笑い答える。 「トシと今年も仲良く楽しく過ごせますようにって。」 「......ほー。それだけか?」 「え?」 「他になんかあるんじゃねーの?俺からもっと愛されたいとか。」 「な、ななななな!!そ、それはあるけど、でも、いや、あの......。」 「顔真っ赤にしやがって。」 クツクツと笑いわたしの頬を優しく撫でる。 「じゃあトシはなんてお願いしたのさ。」 「俺か?」 うーん、と唸り頭をポリポリ掻いて横を向いて。なんだか落ち着きがない。そして寒さで赤いのか恥ずかしくて赤いのかよくわからない。 そして、わたしの手を握りそっぽ向いて答えた。 「これからも、ずっと、凛華と過ごせますように。」 「普通じゃん!」 「言っとくがな、」 ぶすっとした顔で彼は言った。 「この先も、ずっと、って意味だよ。」 「どういうこと?」 ますますわからない。 頭にはてなを浮かべるわたしにトシは顔を近づけて、そして唇が触れる。 「凛華、結婚してくれねーか。」 そう言うあなたの顔は今までで一番輝いてかっこよかったよ。 誓いのきすを わたしは目に涙を浮かばせながら大きく大きく頷く。 「......こちらこそ、よろしくお願いします。」 そう言って再び重なる二つの影を神社にいる主は微笑んで見ていたにちがいない。 |