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この思いは私の墓場まで持っていくと決めた。


だって叶う見込みもないし、そんな希望も欠片というものもない。


私は、至上最悪なやつに恋心を抱いてしまった。しかし後悔はしていない。


だが時々もし、本当にもしかしたら、という想像をしてしまう。


もし、あなたがテロリストなんて馬鹿な真似をしていなかったら。


もし、わたしが馬鹿な幕府の犬になっていなければ。


この恋は少しぐらいは、叶う余地はあったのかな?


こんな疑問誰に問うても答えなんて返ってこない。







ーーーーーーーーーーーー......







「た、高杉......!!」


「ちっ、幕府の犬か。」


私達はこの時初めて出会った。白い雪が光って空を美しく舞う時期だった。


まだ真撰組に入りたてでやっと右左がわかった頃だった気がする。


その時はひとりで真夜中見回りをしていた。パートナーのやつは他の仕事が立て続いてしまったらしく、仕方なく女私はひとりで見回っていた。


ゴトッ


「?」


不審な音がしたのでその場に駆け寄ったら、あいつと出会った。


最初に出会ったあいつは赤紫色に染まっていた。とても美しいと思ったのは今でも内緒。


「だ、大丈夫なの?」


「......はっ。幕府の犬に、心配されるたァ、俺も、落ちた、モンだ。」


「減らない口ね。」


私は彼に近寄り、肩にのっている白い結晶をはらった。


「どこ怪我してるの。」


「......は?」


「日本語わかる?どこ怪我してるのって聞いてるの。」


上着やコートを脱ぎ彼に被せる。肩幅が足りないが仕方がない。とりあえず暖かくなればなんでもいい。


「お前ェ、自分がなにしてんのかわかってんのか。」


「こんな怪我してるのに敵味方関係ない。」


そう言って顔を覗くと、苦い顔をしながら腹を指差した。


私はそっと腹を触る。どうやらそこまで深い傷ではないらしい。


「包帯があってよかった。」


とりあえず見つかっては不味い、私は彼を肩で担ぎ裏通りに移動する。そして傷口を水で洗い包帯を巻く。


高杉は最初から最後までずっと黙っていた。


「ん、できた。」


「......。」


「あんたさ、お礼言えないの。お礼。」


「......ども。」


「どーいたしまして。」


私は腰を上げ膝のゴミを手ではらう。


「んじゃ。」


用事も終わりその場を立ち去ろうとした時だった。


「待て。」


後ろにはヨロヨロになりながら立つ高杉がいた。


「なに?倒れそうだよ。」


「......なんで助けた。」


「は?」


「お前、真撰組だろ。俺はお前らが探してる過激攘夷志士だ。」


お馴染みのつり目で私を睨むように見る。


「......そんな怪我してるやつを逮捕するほど私は残酷な人じゃない。それに真撰組だからっていう考え方好きじゃない。」


「あぁ?」


「私は『私』の考え方で生きてくの。」


んじゃ、とズボンのポケットに手を突っ込み小走りした。


「......。」


「うぅ、あー、寒ィ。」


これがきっかけというやつだ。


それから月日は流れ、あの白い結晶がキラキラ光る季節も何回も過ぎていった。


私はその度に思い出す。あの白と赤紫の光景を。


すごく、綺麗だった。


そして思う、また見てみたい、会ってみたいと。どこに惹かれたとかはよくわからない。けどあの光景、あの低い声を思い出す度に私は震える。


はあ、と身体の中の暖かい息を外に出す。それは白くなり空へと消えていった。


その虚しさがなんだかあっけなく、悲しい。


「......会いたいな。」


その言葉さえも空の彼方へと消えていった。


そんなときだった。


「......よお。」


背中から低い声で掛けられる。私は固まって振り向けなかった。


「......こんなところに来て、大丈夫なの?」


「俺がそんな簡単に捕まるわけねェよ。」


「そうか。そうだよね。」


ザッ ザッ


雪の上を歩く音がする。その音は徐々に近づいてきた。


「なにしに来たの?」


「返しに来た。」


そして背中が暖かくなり顔が私の顔の横にある状態になった。つまり抱き締められている。きっと今の私は顔が林檎より真っ赤だ。


「ちょ、離して、誰かに見られたら、」


「誰も見やしねーよ。」


そう言って私の手に持たせたものは、


「包、帯?」


「あんとき、のやつ。」


「......い、意外と律儀。」


「うっせー。」


あぁ、こうして話すのはあの日以来だ。思えばあの日から私は狂い始めた。


私は真撰組、彼はテロリスト。そんなことわかってるのに。


「......またな。」


ふわっ、背中から暖かさが消える。しかし私は振り返らなかった。


「また、ね。」


次会うときはお互い敵同士。そう心に言い聞かせながら私は道を小走りで歩く。


温もりが冷めないように。







雪恋心







あれからあなたは私の目の前に現れない。

私は今日もこの雪の中、敵のあなたを待ち続ける。




ベゴニア
花言葉:片思い、親切、ていねい


 
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