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「じゃあ、今日の日直は……ななしだな。」

「はひぃっ!」



ノートに向けていた目線を上に上げると、目線があったのは意地悪そうな担任の先生。一応目が合ったので「はい」と小さく返事すると嫌な笑みを浮かべた。


性格は顔に出るというのは本当らしい。意地悪な先生ほど意地悪なことを言うみたいだ。その担任の先生は日直である私に言った。



「放課後、これを社会科準備室に返しといてくれ。はい、以上。解散。」



先生の言葉でガタガタと椅子を引いて教室を出ていく生徒。取り残されたのは私と社会科準備室に返す大きな地図と資料の山。どう見ても女の子一人で運ぶのには何往復もしなきゃいけないくらい量が多い。


本屋に寄ってゆっくり家で読む予定が台無しになった私は深い溜息をついた。一人じゃ無理だということを伝えればよかったのだがそれが無理だったから今がある。


昔から男の人は苦手だ。


特に何されたわけでもないが、男の子と話す時にすごく吃ってしまう。目を見て話せないし段々顔は赤くなるし、最終的にその場から逃げてしまう。


男の子は苦手なので当然彼氏もできたことがない。年齢と彼氏がいない歴がイコールで繋がってしまう悲しい方程式が出来上がる。



「んしょ。」



溜息をついても荷物が減るわけでもないので、とりあえず往復さえすれば荷物は片付くわけなので。早いことさっさと終わらせて帰ろう。


持てる分の資料を持って、社会科準備室へと向かう。


廊下に出るとグラウンドで部活をしている生徒の声やガールズトークなのだろうか、女の子の笑い声が響いたりしていた。その空間が何故か好きだなと思った。


ガラッと社会科準備室の扉を開けるとそこには人影があった。



「あ、ななしさんだ。」

「??」



目の前が資料の山で塞がっているので誰か良く分からない。挨拶をしようにも顔が見えないので戸惑ってしまう。


すると目の前にあった資料の山のほとんどがひょいと誰かによって持たれた。持っていた重量がふと軽くなった。



「これじゃ目の前見えないべ。よく持ってこれたな。」

「あ、菅原…くん。」



そこにいたのは同じクラスの菅原くんだった。彼は部活の途中なのか黒いジャージを着て資料の山の一部を持っていてくれていた。


ニコリとしわくちゃに笑う菅原くんにつられて、へらりと笑う。すごい、キラキラしていてとても眩しい笑顔をしている。目がチカチカした。



「あり、がとう。」

「いいえー。あ、これどこ返すの。」

「えっと、その棚の右の上の……。」



ここー?と言いながら棚に資料を返してくれる菅原くんの背中を見ながらふと広い背中だなとまじまじと見てしまう。


背中には白い文字で「烏野高校排球部」と書いてある。あ、菅原くんってバレー部だったんだ。


バレーとかクラスマッチ以来してないな。あの時私全然役に立たなかったな。ボール間違えて掴んじゃったり顔にあったりすごく散々だった気がする。おかげで初戦敗退とかしちゃったんだよな。あれは黒歴史だ。


そんなことを染々考えていると「ななしさん?」と名前を呼ぶ声が聞こえる。その声に気づき自分の世界に帰ってきた時、目の前には菅原くんの顔が近くにあった。



「うっ……わぁ?!?!」

「俺、何回も呼んでんだけど?」

「ごご、ごめんなさい!ぼうっとしてました……!」



ひえ、びっくりした。目の前がまたチカチカする。今度は眩しさじゃなくて目の前に男の子の顔が近づいたのにびっくりして、自分の声のでかさにもびっくりした。二度吃驚。


そして徐々に顔も熱くなってくる。恥ずかしいのもあるが男の子に慣れていないため、男の子と接する行動ひとつひとつが新鮮で緊張してしまう。



「……。」



するとその様子をじっと見ていた菅原くんと目が合う。目が合って逸らすのも気まずかったのでニコリと笑えば、彼もニコリと笑う。


そして徐々に私との距離を縮めてきた。



「え?あ、あの、菅原くん……?」

「ななしさんって、面白いね。」



言った言葉の意味もよくわからないが、彼の今している行動も意味がわからないのでそれを回避しようと後ずさりをするがいつの間にか背中が壁にペタリとくっついた。


今の菅原くんは私が知っているほんわかした雰囲気を持っている男の子ではなく、まるでお腹を空かして飢えている肉食動物みたいなオーラを出している。


そんな菅原くんは逃がすまいと私の横に手をついた。



「なんかふんわりしてたり、顔赤くなったり笑ったりしてさ。」

「?」

「そういうのって勘違いする男多いよ?俺でもギリギリなのに。」

「か、勘違い……?」



ガンッと壁に膝をつく体勢になると、私と菅原くんの距離は一気に縮まった。


彼の瞳がさらに近くなり、瞳の奥底がギラリと怪しく光るのを私は見逃さなかった。ごくりと唾を飲む。



「これは覚えておいて。男はみんなオオカミです。」

「は、はひ。」

「さっきみたいなこと、俺以外の前でしちゃダメだよ。」

「……え、えっと、さっきみたいなの、とは?」

「顔真っ赤にさせたりニコニコしたりするの。それ、俺の前だけにしてよ。」

「え、ええ??」



どうしたんだろう、急に。追い詰められた状態にある私はただ必死に頷くことしかできなかった。頷くことでも精一杯だった。


「本当にわかったのかなぁ」と不満げに漏らす菅原くんが距離を均等に保つと同時に私は緊張が解けてその場に座り込んでしまった。なんだったの、今の菅原くん。



「ななしさん。」

「はひぃ!?」



肩を震わせ見上げるといつものふんわりとした笑顔、だがどこか怪しい雰囲気を出している菅原くんがいた。



「これからよろしくね。」

「は、はい……?」



今まで同じクラスだったのにどうして改めてよろしくなんて挨拶をされたのだろう。


挨拶をして満足そうな彼は「資料運び手伝いたいけど部活行かないと。ごめんね。」と一言謝って社会科準備室を後にした。顔が真っ赤のままの私はそこに取り残されたままだった。


ああ、これだから男の子は苦手だ。







羊の皮を被ったオオカミにご注意を



女の子が予想しない行動を突然するのが心臓に悪すぎる。



タイトル:なつさん



男の子慣れしてない夢主が男の菅原を見るお話でした。
少し解説をしますと最後に菅原が「よろしくね」と言ったのは、ななしさんのこと気になるからこれからたくさん絡むからという意味です!はい、わかりにくくてすみません。
書いてて男を見せる菅原はとても楽しかったです(  О  )
リクエストありがとうございました!


 
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