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人間に完成体はいない。


どこか美人だって性格に難があったり、どんなに運動神経が良くても頭はからっきしだったりと人間はどこか欠損している。完璧なんてどこにもありゃしない。


不完全だからこそ、人間という生き物は完璧を追い求め生きていけるのだと思う。頭が良くなりたいでもバレーがうまくなりたいでも強くなりたいでもそう。どれも完璧を目指している。


なぜこんなことを考えるようになったのかというと、あることが原因である。


ひとつため息をつき、机の横にかけていた鞄を手に持ち腰をあげた。



「青根、部活行くぞ。」



コクリと頷く伊達高の鉄壁のひとつ、青根の横を歩く。向かう先はバレー部が使っている体育館の横にある部室。今日も寒い中、むさ苦しい男共と汗を流してバレーをする。


バレーをしている時もそうだ。誰も完璧にできる奴なんていない。だから皆で補ったり必死こいて練習したりする。


この世に完璧なんている筈ないと思っていた。










「お疲れっしたー。」



すっかり暗くなった空の下、ハリのない声を出して部室を後にした。腕時計をちらりと見ると約束の時間を数分過ぎていた。数分ならまあ大丈夫だろう、とのんびり歩いていた時だった。



「なあ聞いたか!校門のとこに女の子がいるみたいだぞ!」

「あの制服ってお嬢さま学校のとこだろ?!誰待ちかな!」

「ちょ、帰り声掛けてみね「君達ー?」」



会話の間に入り、肩を掴みニコリと微笑むと男ふたりの情けない声が上がった。ギロリと睨みつけるともう勘弁してくださいと涙目になったのでこれぐらいにしておこう。わかればいいのだ、わかれば。


そうだ、ここは女に飢えた工業高校。校門で待たせるなんて物騒だということをすっかり忘れていた。


校門に近づき、姿を発見する。そこにはあの人の姿があった。



「……お待たせしました、なしこさん。」

「あ、二口くん。」



ニコリと微笑む姿が神々しいこの人は某有名お嬢様学校在学のななしなしこさん。俺の一個上。そしてこの人が不完全に近い人間だ。


某有名会社の一人娘で成績優秀、運動神経抜群、性格よし、顔よし、スタイルよし。神々しい人だ。なんかいつも光って見える、気がする。


そんな人とまあお付き合いをさせて頂いてるわけ。電車の中で痴漢してる男がいてイライラしてその男を精神的に追い詰めたら、その男に痴漢されていたなしこさんをいつの間にか助けてたみたいで。そういういいことしたって感じが苦手な俺は急いで逃げようとしたが、なしこさんの誘いを断れず何回か会う度にまあ惹かれて、みたいな。


これ以上は思い出すのが恥ずかしいからやめておこう。


最近暗くなるのが早いので、生徒会の仕事があって遅くなるなしこさんに校門まで来てもらって送っていくのも日課のひとつ。本当は俺が迎えに行くべきなんだがなしこさんが遠慮するのだ。


そんななしこさんを横目でチラリと見るとたまたま目が合う。ニコリと笑った彼女が口を開いた。



「今日もバレーたくさんしてきたの?」

「あ、ああ、まあ、はい。」

「バレーって楽しいの?」

「楽しいっすよ。汗たくさん掻きますけど。」

「うふふ。」

「なんですか?」

「その汗、拭ききれてないよ。」



なしこさんがチョンッと俺の髪の先を触る。彼女の手には溢れそうになった俺の汗がついた。たったそれだけのことなのにドキリと心臓が跳ねる。



「……ありがとうございます。」

「いえいえ。でもちゃんと拭かないと風邪引くよ?」

「大丈夫、なんとかなる……ます。」

「無理して敬語使わなくてもいいのに。」

「……ん。」



なしこさんがまたクスクスと笑う。この人はよく笑う。そしてこの人が笑う度に俺の中の何かがくすぐったくなる。この痒みがまたなんともいい難い。


もうすぐクリマスマスだね、とまた笑うなしこさんの横顔を見る。街灯に照らされてよりキラキラと輝いていた。


それがあまりにもキラキラしていて。よくドラマとかで「君の方が綺麗だよ」とクサイ台詞を苦笑いで見ていた記憶があるが、いまならその台詞の気持ちがわかる気がする。


そのキラキラを俺のモノだけにしてやりたい。そう思って思わず腕を引っ張り、顔を近づける。あと数センチのところで我に返った。



「あ、す、すんません……。」

「……。」



そこらの女なら手は簡単に出せるのだが、相手は俺とは住む世界が違うはずの人だ。けして交わることのないふたりだったはずなのに偶然にも重なり合った結果のふたり。だからこそ大切にしたいし、迂闊に手も出せない。


掴んだ腕は離せないまま、顔の距離だけ取り横を向いていた。きっと俺は今顔が真っ赤なはず。らしくない俺がそこにいる。こんな姿見せられまいと顔を横に向ける。


しかしなしこさんから反応がなく、沈黙が続いた。だいぶ熱が引いたのでなしこさんの方を見てみた。



「……なしこさん。」

「な、なんでしょう。」

「顔、すげーにやついてますよ。」

「え?!」



片方の手でぺたぺたと顔を触る。


するとそこには笑っている年上のなしこさんではなく、女の子らしく顔を真っ赤にして下を向くいい反応をしてくれるなしこさんがいた。


その反応が嬉しくて、ズイズイと追求してみた。



「どうしてにやけてたんです?」

「え、いや、あの……。」

「してほしかったですか、キス。」

「ひえ、えっと。」

「だからそんなににやけてるんですか?なしこさん実は厭らしいですね。」



ニヤニヤしながら言葉を並べたように喋ればなしこさんは俺の予想通りの反応をしてくれる。これがまあなんとも楽しい。余裕を無くす人の顔を見るのは面白くて堪らない。


ニヤニヤしてる口元を押さえる。するとなしこさんが俺のシャツの裾を小さな手で引っ張る。



「ねえ、まだ?」

「え、なにがですか。」

「えっと、だから、あの……。」



えへへ、と笑い落ち着かない様子で言葉を続ける。



「キスの続き、してほしいのですが……。」



その言葉を聞いた瞬間に、俺はなしこさんの腕を引っ張りふたりの距離をゼロにした。


なしこさんを今まで完全に近いほどの人間だと思っていた。ところがそうでもない。彼女もまた俺たちみたいにどこか欠損していて、それを俺という人間で補いそしてここにいるのだ。


やはり完璧な人間なんてどこにもいやしない。







レディーゴダイヴァがいじらしく微笑む



「やっぱりなしこさん厭らしいですね。」

「……私だって女の子だよ?好きな人とキスぐらいしたいよ。」

「あの、歯止め効かなくなるので可愛いこと言わないでください。」




タイトル:まゐこさん
年上の夢主で二口くんオチでした !ありがとうございました!二口くん初めて書かさせて頂いたので雰囲気掴めてるか不安ですが読んで下さったら嬉しいです!
五万打企画ご参加ありがとうございました!これからも林檎がーるを宜しくお願い致します!


 
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