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年を越して少し月が経ったこの頃、寒さは増していく一方でマフラー等の防寒具が欠かせない日が続いている。乾いた風が隙間という隙間に入り込み、温かさを奪っていく。それを奪い返すこともできず俺はただただ身を震わせているだけだった。


そんな俺は今学校の玄関、靴箱にいる。玄関ということもあり人の出入りがあるので風が入ってきたりと他の場所よりも寒い。早く他のところへ移動したいところだがそういうわけにもいかない。


思い浮かんでくるのは「今日一緒にかえるの楽しみにしてるね」と笑顔で俺に言う彼女、なしこの姿。付き合ってから随分月日が経ったけど一緒に帰るのは週に1回ぐらい。彼女も進学へ向けて一生懸命勉強しているらしく放課後先生を捜し歩いては質問攻めをしていると彼女の友達が教えてくれた。俺は小さい頃から続けている剣道のおかげでスポーツ推薦で行く大学は決まっている。その大学はどうやら強者揃いらしいので体をさらに鍛えるために部活に頑張って出ている。(週3だが俺にしては頑張って行っているほうだ)


お互い将来へ向けて忙しく、すれ違いの日々が続いていた。そんな日があっての今日一緒の下校だ。嬉しそうに笑う彼女がまた思い浮かぶ。口元が緩んでしまう。今これを誰かに見られたら携帯を見つめて笑っているただの変人だ。



「さっむ。」



携帯をポケットにしまい、暖かい息を吐く。すると後ろから声がした。



「あれ、坂田じゃん。」

「お、おう。」



そこにいたのはなしこといつも一緒にいる友達。なしこがいつも頑張っている姿を教えてくれるのもこいつだ。なしこは自分の努力している部分を隠しているわけではないがあまり口には出さずわかりにくい部分もあるので何かあった時にはこいつを通して聞くこともある。俺となしこのことを応援してくれているひとりでもある。



「なしこ待ってるの?」

「おう。時間まだだけど。」

「まだあの子掛かりそうだよ。」

「そっか。」

「ねえ、私もここで待ってていい?」

「彼氏待ちか?」

「そう、寒いからって車で迎えに来てくれるの。」

「ずり。」



ズビッと鼻水を啜りながら寒そうな校門を見る。乾いた風が玄関の窓をガタガタと揺らす。余計に外へ出たくない気持ちが大きくなった。今外に出たら絶対に凍えて死んでしまう。



「あれ、そういえば坂田ってもう決まってるんだっけ。」

「スポーツ推薦だからな。」

「えー、あんなに部活サボってるのに?」

「実力があんだよ、実力が。」

「才能ってやつ?」

「そんな大層なモンじゃねーけど。」



ははっと笑う。そしたらつられてあいつも笑った。そんな中身のない会話を少しした後、校門に一つの車が停まってこちらのほうを見ていた。



「あ、彼氏だ。じゃあね。」

「おう、じゃあ。」



手を振られたので振り替えす。その時車の中の人と目が合ったので頭を軽く下げると少し怪訝な顔をしながらも会釈をした。まあ自分の彼女が知らん男と二人きりでいたのであまりよく思っていないのだろう。あいつに悪いことをしてしまった。


数分してパタパタと走ってくる音が聞こえた。あ、あいつだ。なんてわかってしまう俺は相当気持ち悪いと思う。足音でわかるなんて。俺は振り向かず手遊びしているフリをした。するとすぐに声をかけられた。



「坂田くん、お待たせ!」

「おう。」

「寒い中待たせてごめんね!」

「平気。」

「帰ろうか。」

「ん。」



よっこいしょと声をかけて重い腰を上げたら「なんだかおじいちゃんみたい」なんて笑われてしまった。おいおいおじいちゃんって、俺はまだピチピチの18歳だぞ?見たいな顔したらへへっと悪戯っぽく笑った。











「……。」

「……。」



あ、あれ?今日はあんまり話しかけてこないな。マフラーで口元を隠すようあげるフリをして横にいるなしこを見る。いつものなしこならあのねそれでねえっとねと話の内容が無限大のように出てくるんだが、今日はいつも以上に大人しくずっと下を向いてばかりだ。何か大変なことがあったのだろうか。


ここは男としてちゃんと聞くべきだろ。いくらなしこと話してる時言葉が出ないからってこのままにするのは男として、彼氏として失格な気がする。そう思った俺は自分から話しかけてみることにした。



「あ、あのさ、」

「ん?どうしたの坂田くん。」

「その…」

「?」

「なんか、あった…?」

「え?」



そう言うと物凄く驚いた顔をしてこっちを見てきた。俺は目が合わないよう前を見ながらマフラーで口元を隠す。なしこはいつもの慌てた姿ではなく少し焦ったような顔をして口を紡ぐ。もしかして言いにくいことを聞いてしまったのだろうか。



「ほ、本当にね大したことないんだけどね!なんか、こう、悔しいなって思ってね。」

「うん。」

「えっと、坂田くんが靴箱で待ってるところ見えてて声かけようと思ったんだけど、楽しそうに話してたんだよね。その、私と話してる時よりすごく笑顔だし話しやすそうだし。」

「ん。」

「もしかして私坂田くんにとって邪魔かな、なんて思ってたらなんか落ち込んじゃって。」

「ん。」

「えへへ、ごめんね。なんか暗い話になっちゃって。忘れてね私の思い込みだし気にしないで!」



その時初めてなしこの顔を見た。そこにいたのは俺の方を一切見ず下を向いて涙目になって一生懸命笑っている彼女がいた。


なしこ、と名前を呼ぶ前に俺は彼女の腕を掴んでいた。冷たい風が俺の手の温かさを奪っていくが今はそんなことどうでもいい。掴んだ腕に力を込めて掴む。すると彼女から「少し痛いかな」と呟く声。その少し震えた声を聞いて初めて気がついて力を弱めた。それでもまだ離さない。



「あー、えっと…」

「ごめんね。ちょっと目にゴミ入っただけだから。」



いや、その言い訳はおかしすぎるだろ。じゃなくてちゃんと、言葉で伝えないと。でないと彼女だってわかんない時がある。どの言葉を使おうか頭をフル回転させて出来上がった言葉を一つ一つ出していく。



「俺は、」

「うん。」

「なんとも思ってない奴と話すのは何も考えずに話すから、楽、だけど。」

「うん。」

「なしこと話す時は、その、色々考えて話さねェとおかしなこと言って幻滅させるかもしれねーし、恥ずかしいこと言ってしまうかもしれねーし。」

「そんなことないのに。」

「そんなことあるかもしれねェから、中々言葉が出てこなくて、えっと」



あー、他になんて言えばいいんだ。このままダラダラ続けると言い訳してるみたいに聞こえるしかと言ってそんな感じって突き放すとなんか冷たい感じがするし。俺の気持ちが中々伝えることができない。


すると隣からクスクス、グズッと笑っているのか泣いているのかわからない声が聞こえた。



「私なりに解釈したことを言っていい?」

「あ、ああ。」

「つまり坂田くんは私のことが大好きすぎて話すときも中々言葉がでないってこと?」



なーんてね、て少し恥ずかしそうに笑う彼女にそうですとでも言うように頷く。するとみるみる顔が赤く染まっていく。それがいつも以上に愛らしく感じてそっと冷たい手を頬に添える。予想以上に冷たかったのかビクリと肩を震わせた。


視線が交わる時間が長く続く。彼女の目からは涙はもう流れていないが涙の膜が瞳を覆っておりいつもよりキラキラと輝いていた。それがとても素敵に思えてそっと瞼に唇を落とす。彼女の長い睫毛が俺の皮膚に当たって誘惑するように擽る。


そっと離れるとさっきのキラキラとした目をパチパチさせて俺を見るなしこがそこに居た。そんな彼女をもう見つめることができず、見つめられていることが耐えられず腕を掴んでいた手をなしこの手にうつし絡ませてポケットに突っ込み、少し早歩きで歩き出した。



「だから言ったじゃん。」

「な、なにを?」

「俺はなしこが思っている以上に好きだって。」



その言葉を聞いてなしこが少し後ろで「聞いてないよ!初めて聞いた!」なんてぎゃーぎゃー騒ぐがそんなの知らない。聞く耳を持たない俺は足が縺れないよう早歩きで行く。


バレないように横に目をやるとさっきの落ち込んだ姿はそこにはなく、少し頬を赤らめて笑顔が絶えない横顔がそこにあった。







君の横顔



その横顔をずっと隣で見ておきたいなんて

言えるのはいつの日なんだろうね。




タイトル:くるみさん



くるみさんより口下手彼氏の坂田視点でした!坂田視点は書く予定がなかったのでこうして書く機会をもらえてよかったです!書いていて本当に楽しかったです!リクエストありがとうございました!


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