( 1/1 ) 「お布団干そうよ。」 そう言って素敵な笑顔で言うから、仕方なく暖かい布団から出て重たい布団を干したのに一体これはどういうことなのさ。 部屋の隅で毛布にくるまって眠っている彼女を見て、溜息をつく。彼女は俺が重たい布団を干している少しの間に猫みたいに毛布にくるまり寝てしまったらしい。 干そうと言ったのは彼女の方なのに行動しているのは結局俺で。いや、始めの方は手伝ってたんだ。手伝っていたんだけど重たい布団を干すのにちょっと手こずっちゃって。やっと干せたー、はい次の布団って言った時にはこの状態だ。嘘だろって声が漏れた。 「なしこ、ほらなしこ。布団干すんだろ?」 「んんー……。」 「なしこが布団干そうって言ったべ。ほら。」 そう言って無理矢理毛布を剥ぐと「いやー」と下から声が聞こえるが、聞こえないふりをしてポカポカお日様に当たるように干す。 おっ、この天気がずっと続けば今日の布団気持ちいいな。やっぱり干しておいてよかったと思った時はまだ彼女の意見に流されているのに気づかなかった。 「すがくん、おに……。」 「そんなことねーべ。はい、ちゃっちゃと着替えて。買い物行くよ。」 「まだ眠たいー。」 「俺を起こしたなしこが悪い。ほら朝ごはん作っとくから着替えてこい。」 ううっ、と唸りながら彼女は千鳥足で部屋へと向かう。酔っ払ったおっさんじゃないんだから。鼻で笑ってしまう。そして俺はキッチンへと向かい、朝ごはんの支度をし始めた。 なしこと同居し始めたのは一年半前。付き合い始めたのは二年前。お互い大学から近い物件を探していてちょうど見つけたこの部屋。なしことは高校の時からの付き合いでグタグタの俺らがよくこんなに付き合いが続くなって思う。いや、グタグタだから付き合いが続くのかもしれない。 俺は相変わらずバレーばかりで普段は彼女に構ってやれないのだが、今日はサークルが休みだったので、家でゆっくりしようと二人で話していたのに朝起こされて布団も干されたのでやることがなくなったので買い物へ出かけるということである。 「ねえ、買い物ってどこ行くの?」 パジャマを洗濯機に入れてこちらへ駆け寄ってくる彼女は首を傾げて尋ねた。俺が「さあどこだろうね」と適当に答えるとあれやこれやと候補先を上げていく。 「それ全部回ったら帰ってくるの夜だぞ。」 「いいじゃん!夜遅くまでデート。」 「せっかくの休みなんだから夕方には帰ってきて、家でゆっくりすんべ。」 「んー、別にそれでもいいけど。」 「布団も取り込まないといけないしね。」 「たしかに。」 テーブルの上に用意された朝ごはんを前に手を合わせて「いただきます」と挨拶をしてから食べ始める。少しぼうっとしている彼女だがこう言った挨拶はきちんとするそういうところが好きだ。 「今日のお布団絶対気持ちいいね。」 「だべ。ゆっくり寝れるな。」 「そう考えたら眠たくなってきちゃった。」 「起きろって。久しぶりのデートだぞー。」 「ん、頑張って起きる。」 少し眠たそうな目でふにゃりと笑うその表情は、なしこの好きな表情。ふんわりとその場の空気が和やかになるこの感じが好きだ。 朝ごはんを食べ終わり、身支度を終えた俺はまた狭い部屋の中なしこの名前を呼ぶ。 「なしこー、まだー?」 「もう少しー!ピアスがなかなか通らない!」 「もういいべ。早く行こう。」 「だめ、すがくんとデート行く時はお洒落したいの。」 「んー、それは嬉しいからもう少しだけ待ってるな。」 こうして俺の好きな人が俺とのデートのためにお洒落してくれるのは嬉しいことだし、頑張ってくれてるんだなって愛おしく思える。愛らしい小動物みたいだ。ただたまに見せる大人の女の表情をするなしこには弱い。ものすごく弱い。直視できない。 「お待たせー!」 「はいはい。じゃあ行くべ。」 ん、と手を彼女に差し出すと俺の手を見つめてきょとんと見つめて、俺の好きなふにゃりとした笑顔をしてやわらかい手が差し出した手を握り返す。その手をポケットに入れ歩き出す。 その時彼女の髪からふわりと香る、彼女独特の香り。優しくてぽかぽかしていてまるでお日様に干された布団の香り。ああ、これがお日様の香りっていうんだなと思った。 なんてことない休日。彼女とふたりきりで過ごす日常は時間の流れがとてもゆっくりしていて、彼女の香りに包まれて過ごすこの瞬間がたまらなく好きだ。 俺は幸せ者なんだなって、そう感じた。 優しさに包まれて眠る 帰ったらお布団を取り込んで 彼女の香りに包まれてゆっくり眠りにつくとしよう。 タイトル:のりたまさんより シチュエーションはお任せとのことでしたので、タイトルから想像(妄想)して書かさせていただきました!お待たせして申し訳ありません。大学生菅原との平凡な日常を私なりに妄想して書きました。干したての布団ほど素敵なものはないですよね!(笑)リクエストありがとうございました!! |