( 1/1 ) 私は一番隊の女隊士である。 一番隊は真選組の中でも前線に出ることが多くよっぽど剣術や体術の成績が良くないと入れてもらえない部隊である。私はそこに女隊士として初めて入ることができた。 入ったときはそれはそれはもう嬉しくて真選組の前線として働く一番隊に入れたことは鼻が高かった。これ以上の喜びはないと思っていた。 しかしそう思えたのも束の間だった。 「なにやってんでィ。立ち上がれ。」 「……っ!!」 「まさかもうギブアップかィ?こんなところでへばってちゃ前線として使えねーぜィ。」 「ま、まだ……まだぁっ!!」 パンパンと竹刀がぶつかり合う音が部屋全体に響き渡る。私は目の前の沖田隊長をどう負かそうか必死に頭を回転させていた。 一番隊に入った私は勿論男の人より圧倒的に力は弱く、刀を弾き飛ばされることは少なくなかった。そんな私を見て哀れに思ったのか沖田隊長直々に稽古について下さると言ってくださったのだ。 初めは嬉しかった。あの剣術では真選組一番と言われるあの沖田隊長から教えてもらえるなんてなんて光栄だと思った。 しかし私は忘れていた。彼がとんでもなくサディスティックなことを。 パーンッ 「あっ……!」 音を立て私の持っていた竹刀は沖田隊長によって弾き飛ばされた。諦めずに拾おうと背中を向けたのがまずかったと気づいたのは数秒後だった。 「敵に背を向けるたァいい度胸だ。」 スパーンッ 「……いったぁぁぁ!!!??」 やばい気配を感じた瞬間、私の背中を沖田隊長は竹刀で勢いよく叩いた。あまりの痛さに竹刀を取ることを忘れ、私は飛び上がり沖田隊長と距離を取る。 「ちょっと沖田隊長!?いくらなんでも痛いんですが!?」 「これぐらい痛くないと面白くないだろィ?」 「別に面白さ求めてないので平気です!!!」 「お前のためじゃねェ、俺のために面白さを求めるに決まってんだろィ。馬鹿か。」 「なっ……!!」 私が痛がる姿を見て楽しむ。ああ、彼は確かにそんな人だった。人の痛がる姿嫌がる姿を見て嘲笑う。サディスティク星の王子という異名があるくらいだから。 「ま、今回の稽古も決着ついたし。」 「……ひぃっ!!」 「またペナルティ、でさァ。」 「お、沖田隊長……!あともう一戦だけ!」 「戦場でもう一回は通用しやせんぜ?」 「うっ……!」 「さあ、ペナルティ楽しみやしょう。」 「……っ!!!??!」 「トシー。」 少し慌てた様子で近藤は土方のところへ駆け寄った。土方は片手に煙草と書類を持って振り返る。 「どうした、近藤さん。」 「なあトシ。またなんだよ。」 「……はあ?」 「この前言った夜中になると女の笑い声が聞こえるやつだよ!もしかして幽霊……。」 「……あー、すまん近藤さん。俺忙しいんだ。」 「嫌だァァァァ!トシ一緒に寝よう!!!」 「誰がおっさん臭いゴリラと一緒に寝るか!!!大体幽霊なんているわけ」 (ぎゃはははははっ!!!!ひいいい!!!) 「「…………。」」 「ききき、気のせいだろ。俺は部屋へ戻る。」 「えええ!!??トシーー!!!」 置いていかないでと泣き叫ぶ近藤を土方は縁側に置いていった。部屋へ戻る土方の足取りはいつもより少し早足だった気がした。 「お、沖田隊長……。もう、勘弁してください。」 「いや、まだいけるだろィ。ここはどうでィ。」 「……っ!!だめ、たいちょ……。」 「ほれほれほれほれ。」 「だめだって……。ひっ、 あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」 脇腹を擽る沖田隊長に「ごめんなさいごめんなさい」と笑いながら謝る私。傍からみたらこいつら頭おかしいのではないかと思われるだろう。 これは稽古の時間内に沖田隊長から一本も取れなかったとき、ペナルティとして私が最も辛く苦しいこちょこちょの刑に処すというルールだ。 サディスティック星の王子は手加減を知らないため自分の気が済むまでひたすらやる。ついこの間はやられすぎて腹筋が筋肉痛になった程だ。このままでは腹筋が割れてしまうだろう。 「もっ、勘弁してください……!!」 「なしこが一本も取れなかったのがいけないんでィ。ほれほれ。」 「ぎゃはははははっ!!!!ごご、ごめんなさいあひゃひゃ!!!」 必死に沖田隊長から逃げようと足掻くが強い力に押さえられ逃げることができない。ただひたすら擽ったいのを我慢するしかなかった。 そんな時だった。ぴたりと沖田隊長の擽る手が止まる。 「……お、沖田隊長?」 恐る恐る沖田隊長を見上げるとニヤリと嫌な笑みを浮かべる姿がそこにあった。思わず「ひい!」と声が漏れてしまう。 「なしこは危機感がないねィ。」 「ど、どういうことですか。」 「深夜に屋根のした二人きり、組み倒されてる状況。」 「え……?」 「やることはひとつしかないでさァ。」 そういって少しずつ近づいてくる顔。 こんなサディスティックなことをする彼だが顔はそりゃあもう美少年で非公認のファンクラブが街にできているぐらいだ。真選組のアイドルみたいな人。 そんな人の顔が数センチのところまで来ている。彼の吐いている息が唇に当たるぐらい、近い。 「お、沖田隊長……!」 ドックンドックンという心臓の音が鳴り響く。私は思い切り目を閉じた。今この目の前の状況が恥ずかしすぎる。 ちゅっ 降ってきたのは唇にではなく汗で湿った額だった。リップ音を鳴らして離れていく。 そっと目を開いてみるとニヤニヤした沖田隊長がそこにいた。私はまだ熱の残ってる額を両手で押さえる。熱が顔に集中しているのがわかった。 「その反応もたまにはいいんじゃねェか。」 「あ……ああ……っ!!!」 「次からペナルティはこれにしようかねィ。」 「!!??!!!?」 「っはは!」 沖田隊長は私を見て吹き出したように笑った。うまく声を出せない私の頭の上には「?」が浮かび上がる。 そんな私を沖田隊長は軽々と立ち上がらせそして耳打ちした。 「次は唇にするからなァ。」 それじゃあおやすみ、汗拭いてから早く寝ろ。 そう一言言って去っていく沖田隊長の背中を消えるまで眺めていた。そしてあの言葉が頭の中でもう一度リピートされる。 「!!?!!?」 開いた口がふさがらない、とはまさにこのことだ。 鞭という名の愛をください 彼は物理的に攻撃してくる鞭ではなく 精神的にダメージを与える鞭を打ってきました。 心臓が、頭が、あの人のことを考える度に痛いです。 タイトル:小泉ちゃん 沖田とギャグっぽく明るくというリクエストでした! こういう悪戯沖田は好きそうだなと思いながら書かさせてもらいました!書いててすごく楽しかったです!小泉ちゃん、素敵なタイトルとシチュエーションをありがとう( О )これからもよろしくね! リクエストありがとうございました!! |