( 1/1 )
 


俺は最低な人間だって、いつもそう思う。


そのことを思う度に俺の頭の中に出てくるのはなしことの思い出。


家でゴロゴロしながら借りたDVDを一緒に見たり、慣れないプリクラ機に入ってプリクラを撮った時もあった。時には互いの意見がぶつかり合って腹正しかったこともあるし、泣かせたこともある。いい思い出もあればなしこに対して悪かったななんて思い出もある。


瞳を閉じて瞼の裏にこびりついてるのは笑い泣きながら俺を見るなしこの姿だった。



「別れよう?」



その言葉に俺は最低なことにラッキーと思った。


その当時の俺達は喧嘩をすることが多くなり、一緒にいる時間に嫌気が指している頃だった。大概喧嘩は些細なことばかりだが会えば喧嘩ばかりを繰り返す、それならお互い会わないほうがいいよね。と会う機会を減らしたりもした。


そんな時俺は色々相談に乗ってくれてる女の子が気になっていた。なしこみたいに我が儘じゃないし女の子らしさがあるしふんわりしてるしなしことは正反対の人だった。この子と付き合ったら今より絶対幸せになれるよな、なんて考えるようになった。


その時間が積み重なって1年と半年付き合った俺達はなしこの「別れよう?」の言葉で関係を断ち切った。なんともあっけない終わり方だった。


互いにもう過去を振り返らないと約束をして、携帯の中の連絡先を消した。写真や画像も消去。季節のイベントやらで交換したプレゼントも捨てた。


こうして俺の周りからはなしことそういう関係になった証拠のものは全て消え去った。



「銀時、お前就職だっけ?」

「ああ、そうだけど。」

「ななしさ某有名大学から推薦もらったんだって!」

「へえー。」

「あれ、反応薄いな。」

「だって興味ねーし。」



こうしてなしこは俺の前から消えていった。俺達の関係は跡形もなく消え去ってしまったのだった。その当時の俺は相談のってくれていた女の子と付き合ってたし幸せなカップルでいたから。過去はもう知らない。


じゃあ何故今になってこんなことを思い出しているのか。答えは一つしかない。


あの日々に戻りたい。ただそれだけ。













「……んぁ?」



ガタンゴトンと線路を走る音にふと目を開けると優しい夕日が窓から差し込んでくる。その窓の奥を見るとどこか懐かしい景色が広がっていた。



「あっぶね、寝過ごすとこだった。」



まだ完全に開いていない瞼を擦り慌てて電車を降りる。顔を上げるとこれまた懐かしい駅がそこにあった。


就職して早数年。俺は今転勤して地元から離れている。今日は連休がとれたので久しぶりに地元で過ごそうかと思い、帰ってきたのだった。


ここの駅は昔からひとつも変わっていない。


駅の改札を通り左側にふたつのベンチがある。ああ、ここで帰り道電車が来るまで二人で喋っていたっけ。あまりにも喋るのが楽しくて何本か電車逃したこともあったよな。こんな幸せを簡単に手放した俺はなんて馬鹿なのだろうか。


失って初めて大切さに気付くとはまさにこのことか。


ふうと溜息をつき改札を抜けた時だった。



「っ。」



息を飲んだ。俺の目線の先は昔懐かしいふたつのベンチ。そしてそこに座っているのは昔から変わらない、いや少し大人っぽくなったなしこの姿があった。


タラリと冷や汗が垂れる。今更声なんて掛けられるはずがない。俺はコイツに別れを言わせるまで追い詰めて挙句の果てに他の女と付き合った。そのせいかそのことも長く持つことがなかった。


どうしようと動くことができない俺についになしこは気づいた。そしてあ、と驚いた顔をして口を開いた。



「銀時じゃん。久しぶりだね。」



へらりと笑うその顔は昔から変わらない。まさかもう一度笑顔を向けてもらえるとは思えず「おぉ。」と素っ気ない返事しかできなかった。



「あれ?地元から離れたって聞いたけど?」

「あ、あぁ。ちょっとした里帰り。」

「そうなんだ。」



ふーんと口を尖らしてそっぽをむくなしこ。ああやっぱりコイツは変わらない。会話が続かなくて気まずくなると口を尖らせてそっぽ向く癖はどうやら直ってないらしい。



「それにしても久しぶりだね。」

「本当だな。元気してたか?」

「もちろん。この通りピンピンよ。」



そう言ってヘラッと笑う彼女を見て、俺は今まで溜めていた言葉が漏れた。



「……ごめん。」

「なにが?」

「……高校ん時、お前わかってたんだよな。俺にほかに好きな奴がいるって。」

「うん。」

「だからお前から別れ切り出したんだろ?それに気づかなくて、その……ごめんな。」

「あー、そんな昔の話。いいよいいよ別に。」



グサリと音を立てて心臓に突き刺さる。


「昔の話」なしこの中ではあの日の出来事全てが昔の話となっていて今とは全く関係のないものとなっているのだ。つまり俺とは違い全く未練もなく引きずってもいない。吹っ切れているのだ。それに比べて俺は…。



「昔は若かったから恋路のひとつやふたつしとかないとね。」

「あ、ああ……。」



その時ガタンゴトンと大きな音を立てて来た電車。それを見てなしこは「やっと来た」と声を漏らしベンチから立ち上がった。そして俺の隣をスッと通り改札へ向かう。



「なしこ……!」



俺はいつの間にかなしこを呼んでいた。なしこはその言葉に振り向きもせず「なに?」と一言言った。俺はその背中に言葉をぶつける。



「連絡先、それぐらいは教えてくんねーか……?」



これでも精一杯頑張った方。まだ未練タラタラですなんて情けないことは言えないからせめてこれぐらいだけは。そう願っていた。



「あー、別にいいよ。」

「まじか。」

「え?いらないの?」

「い、いや、普通に断られるかと思った。」

「そんなわけないじゃん。知り合いに連絡先教えてって言って断る奴いないよ。」



またその言葉がグサリと突き刺さる。今度は心臓を打ち抜いたかもしれない。なしこの中での俺は同級生から恋人にそして一気に知り合いへとガタ落ちしていたのだ。


連絡先を交換し、それじゃあと背中を向けなしこは電車の中に入っていってしまった。


その電車が見えなくなるまで見てる俺はある決心をした。



「壊れたならまた一から作り直せばいい……。」



またこの関係を作り直すことはできる。そう確証できたのは連絡先を教えてもらったからだった。知り合いだから教えてもらっただけだがこのチャンスを見過ごすわけにはいかない。


俺は少しにやけながらも複雑な思いで地元へと足を踏み入れた。







その後ろに



その後ろにいたお前の姿はなくて

必死に足掻く俺に見向きもしないお前が前を歩いていた。




タイトル:riaさんより



恋人の関係だったが坂田に好きな人ができ関係が崩れ、数年後別れたことに後悔し再び関係を築こうと足掻くお話でした。とびっきり切なくとのリクエストでしたがいかがでしたでしょうか?私なりに切なくしてみました!
リクエストありがとうございました!


 
  もどる  
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -