( 1/1 ) 「出掛けるぞ。」 そう言ってわたしの部屋に入ってきたのはわたしの隣の部屋に住んでいる大学生の坂田銀時。近所にある教育関係の学部にいる。 彼とは年が少し近いのでそこそこ仲がいい。時々相手の部屋に行って遊ぶことも度々。そいつが今目の前にいる。 「え、なに?わたし寝起きなんだけど。」 「バイク買ったからドライブ行こうぜ。」 「ちょ、話噛み合ってない。」 「ほら、着替えてこい。待っててやるから。」 話が一個も噛み合わないまま扉はバタンと音を立てて閉まった。わたしは「待って」と手を伸ばすが既に遅い。 しばらくして溜息をつき支度をするために布団から出た。タンスから適当に服を漁り着替えて髪を手でさっととかす。 洗面所へ行き少しお洒落をしようという気分になったので、髪を少し巻いてお化粧も薄くして準備完了。ポケットに携帯を入れて玄関の扉を開けた。 「お待たせ。」 「ったく、遅ェ。」 「女の子は準備がかかるもんだよ。」 「そういうもんなのか?」 「てかなんで部屋には入れたのよ。」 「おばさんが入れてくれた。」 あの野郎、年頃の娘の許可なしになに男を部屋にあげてんだ。家に帰ったら注意しておこう。わたしももう年頃の女の子なのだから。 エレベーターで下に降りて待っていたのは大きなバイク。すごいと感動してじっと見てたらヘルメットを渡される。それを被り銀ちゃんの手を借りながら後ろに乗った。 「あ、ありがとう。すごいね、これ。」 「すげーだろ?バイト頑張った成果。」 「これのために頑張ったの?」 「まあね。」 銀ちゃんもヘルメットを被りハンドルに手をかけるとドゥルルルと低くエンジンが唸り、反射的に銀ちゃんに抱きついた。 「お、なになに。今日はいつもより積極的じゃね?」 「いいから早く出発して馬鹿天パ。」 「へいへーい。さあ、どこ行こうかなー。」 ドゥルルルとまた唸らせ銀ちゃんはバイクを発進させた。初めて乗るバイクは大きくていつ落ちるかビクビクしていたがとても楽しい。 その楽しさを知らせるようにわたしは銀ちゃんの服を持っていた手に力を入れた。 しばらくすると見えるのは海、海、海。どうやら海沿いを走っているらしい。 「銀ちゃん!海!」 ドゥルルル しかしわたしの感激の言葉はバイクのエンジン音にかき消される。だけど彼は海を一目見ると楽しくなったのかバイクを唸らせスピードを上げた。 途中にある停留所に止まり、わたし達はバイクを降りた。そこは海を一望できる最高の場所だった。 「き、綺麗...。」 「だろ?この前ドライブした時に見つけた。」 自信満々に銀ちゃんは答え、わたしの頭にぽんと手を置いた。そしてぐしゃぐしゃと掻き混ぜるように撫でる。 「ちょ、せっかく整えたのにぐしゃぐしゃしないの!」 「いんだよ。それでも可愛いから。」 「......なにそれ。」 馬鹿みたい、そう一言呟き銀ちゃんとは逆方向を向く。今わたしの顔は絶対というほど顔が赤い。それがバレたらまた面倒くさいことになりそうだから。 「なあ、凛華。」 「な、なに。」 「どうして俺がわざわざ二人乗りのバイク買ったと思う?」 その問いに対して疑問を持ち「なんで?」と聞くために銀ちゃんの方に顔を向けた。 その瞬間だった。 ちゅっ、と小さなリップ音と銀ちゃんの手がわたしの前髪をあげて額に当たる暖かい何か。 わたしは固まって動くことができず、数秒後離れた銀ちゃんを丸い目で見た。 「いい加減気づきなさい、鈍感。」 「え、あ、え...。」 「言っとくけど俺ロリコンとかそんなんじゃないから。」 そう言って耳まで真っ赤にして笑った銀ちゃんを見て、わたしもなんだか笑いがこみ上げてきた。 絶景ポイントのところはわたし達の笑い声で包まれていった。 僕が見た世界のはじっこ 美しく光り輝く壮大な海と それに負けないくらいの貴方の笑顔がありました。 |