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はあぁぁ。


大きな溜息が出る。それはまるで体の中の悪いものやいいものを全て出し切った感じ。いや、悪いものだけでていってくれればいいのだけれど。


ふあぁぁ。


今度は大きな欠伸がひとつ。それもそのはず。昨日は寝れる環境にいれなかったからだ。


あれから今日は仕事だと気づき自称用心棒坂田さんの家を飛び出すこと数時間前。


勿論大遅刻なわけで上司にはこっぴどく怒られた。他の周りの人は「あぁ、またか」みたいな目をして通り過ぎていく様をわたしは横目で見ていた。


そして大遅刻の罰として一番面倒くさいコピー係を頼まれること数時間。



ビビーッ

「ああぁぁ!!また詰まったァァ!!」



このオンボロコピー機はとにかく詰まることが多く皆面倒くさくてやらない、いや、やりたくないの方が正しいだろう。だから新人に任せることが多い。


ブツブツ文句を言いながら詰まったところに手を突っ込み原因のものを取り除いていく。そして再びコピー開始のボタンを押した。



ビビーッ ビビーッ

「.......うああああ!!!」



再び鳴るエラー音。その音にむしゃくしゃして頭を掻き毟る。


この作業だけで今日一日が終わりそうな気がしてきた。




















「そ、それでは、お先に失礼、します。」



勿論仕事はコピーだけで終わらず何のイジメか机に戻ったら大量の資料。それを簡潔に纏めとけなどと鬼のような指令。わたしはひたすらパソコンと睨めっこをしていた。


まだ数人残っている会社の人達に挨拶をしてカバンを持って上着を着てエレベーターへと乗る。そのひとつひとつの行動さえ疲れが溜まっていく。


あぁ、帰ったら何を食べよう。そういえば洗濯物も洗って干さなければ。やることが多過ぎる。


頭の中で悶々とやることを考えながら会社の出入り口の自動ドアの前に行った時だった。



「......遅くね?」

「は?」



どこかで聞いたことがあるような声。顔を上げると大きなカバンを持ってマフラーに顔を埋めた黒いニット帽を被った男の人がいた。



「だ、だれ?」

「もう忘れたのかよ。坂田だよ、坂田。」

「...あぁ、坂田さん。」



そういえば忘れていたこいつの存在。今日仕事があまりにも忙しすぎて考えている余裕すらなかったこの自称用心棒。


わたしはぺこりと頭を下げ家へ帰る道を歩いていった。その後ろを自称用心棒はついてくる。



「ちょ、どこまでついてくる気ですか。」

「え、どこってお前ん家まで。」

「驚いていることに不思議です。」

「昨日言ったろ?お前襲われる可能性あるって。」

「だからって何も家まで来なくても...。」

「油断するとまたやられるぞ。」



そう言って坂田さんは首を締められるポーズをする。未だに生々しい感触を覚えている首はあの日のことを思い出させるように締まった気がした。


寒さからか昨日ことからかぞっと寒気がする。そんなわたしの隣に坂田さんは来て頭をポンと置くとポケットに手を突っ込んで一緒に歩いた。



「姫路野さんって、いつもこんなに遅いの?」

「そう、ですね。大体これくらいです。」

「ふーん、昨日は早かったのに?」

「あれはたまたまですよ!たまたま早く終わったんです。」

「で、お酒をガバ飲みしてたと。」

「ちょっと!それ忘れてください!」

「いやー、あの飲みっぷりはすごかったわ。」

「ちょっとォォォ!!?」



そこでふと思う。


坂田さんは天使は匂いに敏感だと言っていた。なら今もこうして近くにいるのはより一層わたしの危険を高まらせることなのではないか。


そのことを坂田さんに問うてみた。



「あー、今は平気。匂いとか気配とかそういう天使が敏感になりそうなものは消してる。」

「そうですか...。」

「あの日はたまたま油断してたっつーか、忘れてたっつーか。」



ガジガジと頭を掻き毟る。そのせいでニット帽がズレそうになったので慌てて被り直す。その慌てた姿が面白くて笑った。



「...んだよ。」

「いや、坂田さん面白いなって思って。」

「姫路野さんはからかいやすいけどな。」

「そ、そんなことないですよ!」

「いーや、あるね。大いにあるね。」

「あーりーまーせーん!」



ぎゃあぎゃあと騒いでいるといつの間にか目の前にはわたしが住んでいるアパート。団地の中にある小さなアパートがわたしの住んでいる場所だ。とくに古びているわけでもなく会社からも徒歩20分とまあまあいい距離なので結構気に入っている。



「じゃあ坂田さん、わたしの家ここなので。」

「へー、ここか。道のり覚えねーとな。」



ん?なんで覚える必要があるんだ?少し疑問に思いながらわたしの家がある2階まで階段で上がる。坂田さんは未だについてくる。



「ちょ、どこまでついてくる気ですか。」

「いやいや何言ってんのお嬢さん。危ないのは帰り道だけじゃなくて家の中もよ?」



にこりと笑う坂田さんにわたしはひくひくと肩頬が上がる。わたしの頭の中で思っていたことが徐々に現実になろうとしていた。



「お世話になります。」

「嘘でしょ...。」



お母さん、お父さん、わたしは昨日あった男と一緒に住むようなだらしない娘に育てられた覚えはありません。







失礼します



「あ、別にお前が俺の家に住む形でもいいけど。」

「結局わたしは坂田さんと同棲することは逃れられないのですか!?」

「当たり前だろー。いつ敵が来るかわかんねェんだから。」

「そ、そんな...。嘘でしょー。」

「残念ながら現実です。受け止めましょう。」



 
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