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その日は確か気分が良かったのだと思う。


まるでダメダメな女、略してマダオのわたしはよく仕事でミスを連発する。上司もそんなわたしを見てお怒りになる、それが当たり前の日常だった。


しかしその日は何故だか仕事にひとつのミスもなく上司に提出することができ、いつも怒る顔しか見ることのできない上司にその日はこれでもかというくらい褒められた。


やっとわたしも仕事に慣れ始めたのだ!わたしの機嫌は右肩上がりでそのまま落ちることを知らない。


更には残業残りが酷いわたしはいつも定時より1時間以上経ってから帰る。しかし何が起こったのかわたしの目の前に仕事はなく定時ぴったしに帰ることができたのだ。


機嫌は右肩上がりで更に上昇し、そのうきうき気分のまま行きつけの居酒屋へと入っていく。


いつもは愚痴しか零さないのだが、その日はとにかくペラペラとその日の出来事を一五一九噛まずに話すわたしは別人のようだったとか。


お酒も浴びるように飲み周りからはヤケ酒としか見られていないだろうがそうではない、とか内心ニヤニヤしていただろう。


まだまだ足りないと思ったときは居酒屋も閉店時間になり、仕方なく会計を済まし覚束無い足で歩いて帰った。



「うぃー、ひっく。うひゃ。」



もう悲しいくらい可哀想な酔っ払いのお姉さんにしか見えなかっただろうな。酒は弱いわけではないが強いわけでもない。あんなに浴びるように飲んだのはあれが最初で最後のはずだ。


いつもの帰り道とは違う裏路地を通り、家へと向かっていく。その途中だった。


ひらひらとした白い羽根、頭の上にぴかぴか光る綺麗な輪っか。あ、これって。そう思った時にはその子達はわたしの方を向いていた。



「あんれー?天使さんじゃなーい?あは。」



別に驚きはしなかった。酒を浴びるように飲んだせいで幻覚を見ている、はたまた既に夢の中なのかもしれない。夢の中と現実がごちゃまぜになっていた。



「僕たち探してるの。」

「...お姉さん、知らない?」

「見つけなきゃ、ダメなの。」



確か3人だったはず。その3人の天使さんがわたしの方に歩み寄ってきてスーツのスカートをキュッと掴む。まるで迷子になった小さな子供だ。


その行動の可愛らしさのあまりにしゃがんでニヤニヤしながら「んー?」と3人の天使さんの顔を覗いた。


その時だった。



「...お姉さん、アイツの匂いする。」

「お姉さん、アイツ知ってる。」

「お姉さん、アイツどこにいるの?」

「え?アイツ?アイツってぇ?ひっく。」



ギュッとスカートを握る力が強まる。その時には少し酔いが覚めていたのかもしれない。この力は子供が出せる力ではない、大人の力だ。


「おかしい、逃げよう」そう考えた時には遅かった。3人の天使は既にわたしを囲んでいた。



ガッ

「あっが!!」

「お姉さん、教えて。」



1人の天使がわたしの首をギリギリと掴み押し倒す。退けようと両手に力を入れるが2人の天使により押さえられ抵抗することができない。



「教えて。」

「知ってるでしょ。」

「隠しても無駄。」

「し、知らない...!わ、たしは、しら」



グッと更に首を絞める強さが増す。先程までなんとか声を出せていたわたしはその時は蚊の鳴くような声しか出なかった。


意識も遠のき視界も霞んでいく。次第に呼吸も浅くなり瞼を開く力ですら無くなっていく。


あぁ、人間死ぬ時ってこんな感じなんだ。そんなことを呑気に考えていた時、天使に異変があった。



「あれ、これ知ってる。」

「何だ何だ。」

「誰だ誰だ。」

「この匂い、知ってる。」



突然天使の首を絞める力が弱まる。わたしはその瞬間に天使達を振り払い、距離を開ける。


天使は逃がさないとでも言うかのように再びわたしの方を向いた。



「お姉さん、お姉さん逃がした。」

「逃がさない、アイツ逃がさない。」

「捕まえる、捕まえるのだ。」



最早天使なんぞ可愛いものではない、悪魔の方が余程お似合いの連中が一気にわたしを襲ってくる。逃げようかと腰を上げたが最悪なことに抜けている。


そんなわたしに天使達は迫る。


その刹那。



「3人かがりでお姉さんに迫るとか、発情期ですかコノヤロー。」

ドガァァァンッ



一瞬だった。一瞬の出来事だった。


男の人の声がしたと同時に目の前まで来ていた天使は壁にめり込んでいて、かわりに男の人の背中が目の前にあった。


彼はわたしの前で後ろ向きに仁王立ちに立ち、片手には木刀を持っていた。逆光のためよく見えなかったが髪は天パっぽく体つきも悪くなかった気がする。



「ったく、ついに出やがったか。」



男の人は溜息をつき、程よく筋肉のついた腕で頭をポリポリと掻いた。


というかえ、え、え、ちょ。何の話。え、ついていけないんですけど。


そんな言葉は出てこない。首を絞められて苦しかった上になんか訳のわからない人に助けられ味方かわからないしそもそも怖いし驚きもあり声も出ない。



「おい、逃げんぞ。」

「え、あ、ちょ。」



気づいた時にはひょいと持ち上げられて、軽い足取りでその場を後にしていたのだ。


その日の記憶はここまでしかない。いやしかし泥酔いでここまで記憶があることはすごいことなのだ。自分を褒めてやりたい。


とりあえず昨日のわたしが覚えてる限りのことを思い出してみた。うん、問題が多過ぎてどこからどのようにツッコめば良いのかわからない。


そして今のわたしの記憶は、



「ここ、どこ...?」



知らない部屋からのスタートとなった。







現れる



やはりわたしはまるでダメダメな女、略してマダオ。

いや、ただの運がない女なのかもしれない。

とにかく誰かわたしに昨日の夜から今日までのこと説明をしてください。



 
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