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ガンガンと鳴る頭を押さえて私は自分の机へと行く。会社の中には既に暗く、下の階に小さな明かりがついているだけだった。


その暗闇の中七色に光る小さなランプ。それは鞄の中から照らされていた。慣れた手つきでそれを手に取り操作する。すると画面には小さな文字が映し出された。



『悪い、ちょっと迎えに行くの遅くなる。』



私はその文章を見て少し頬が緩んだ。そして『大丈夫だよ。外で待ってます。』と打ち、携帯を閉じた。


最近銀時さんが携帯を持ち始めた。いつでもどこでも危ないときに連絡が取れるようにと。彼の携帯の中には私のアドレスしか入っていない。そのことが嬉しくて嬉しくて堪らなかった。


こんなほんの少しのやりとりでさえも私はこんなにも暖かくなれるのだ。


だけどさっきの夢の中での出来事。沖田くんが言った言葉が頭から離れない。一気に現実を突きつけられたその言葉はまだ夢を見ていた私にとってひどく残酷なものだった。



「あんたは人間、」

「わかってる.....。」

「旦那は今じゃ飛べる羽根もない堕天使。」

「わかってるって...。」

「お互い知り合ってはいけない存在なんでィ。」

「わかってるってば!!!!」



ガンッと力強く机を叩く。机を叩いた音と私の荒い息の音だけがその場に響いた。いつの間にか息が荒くなり足に力が入らずその場にしゃがみ込んでしまった。そして出てしまう嗚咽。



「わかってるんだってば...。」



じゃあこの気持ちはどうしたらいいのよ。はい、そうでしたねわかりました、で諦めきれる人じゃないんだって。私そんな聞き分けのいい子じゃないの。


あの人と幸せを感じちゃいけないの、あの人と共に歩みたいって思っちゃいけないの、あの人とこの先ずっと笑い合いたいって願っちゃだめなの。


この恋は押し殺さなきゃだめなの。



「そんなの....嫌だよぉ。」



隣にいることさえ願ってはならない、ましてや存在自体をお互い知り合ってはならない存在の人を私はこんなにも苦しく愛おしく感じる。


自分の震える拳をぎゅっと胸に近づけ包み込むように蹲る。人間というのは想いだけでこんなにも脆くなってしまうものなのだ。


その時だった。



「誰か、いるのか?」



ピカッと光るライトに自分が照らさ肩を上げるとそこには警備員の制服を着た人がいた。見た目は若い人であまり見たことないから新人さんなのだろうか。



「す、すみません。もう帰ります。」



ぐいっと袖で顔を拭き鞄に荷物を詰めて上着を片手に、早足で警備員の横を通り過ぎようとした。


しかしがしっと腕を掴まれ、私は足を止めさせられた。



「あ、あの...すみません。もう帰りますので。」

「いい匂いがする。」

「え?」



言葉の意味がわからなくて混乱している私をぐいっと引き寄せた。警備員と顔の距離はほんの僅か。恥ずかしくて顔に熱が集まってきた。



「は、離してください....!」

「この匂い、知ってる。」

「嫌だっ!!やめて!!」

「この匂い....。」



首筋に顔を埋め匂いを嗅ぐ。その行動があまりにも気味が悪くて泣きそうで吐きそうで。必死に腕を振り払おうとするが力が強くて叶わない。



「見つけた、見つけた。」

「......え?」

「極上の魂、みーつけた。」



その時、ニヤリと笑った警備員の顔がこの世のものとは思えないほど不気味で私は今更気づいた自分に後悔した。


こいつ、人間じゃない...!!



「見つけた、ついに見つけた。」

「離して!!嫌だァァァ!!!」

「極上の魂、見つけた。」

「いやっ.....。」



ニヤニヤと笑いながら迫ってくる。警備員は首に手をかけようと伸ばしてくる。


あぁ、もうダメだ。わたしの人生ここまでなのかな。それにしてもなんて呆気ない終わり方。もう少しいい終わり方させてくれてもいいじゃない。


そう、諦めて瞳を閉じた。




















「凛華ーーーーっ!!!」

パリィィィィィインッッ



突然響き渡る私を呼ぶ声とガラスの割る音。閉じかけていた瞳をふとそこに目をやるとそこには、



「ぎ、銀時さん......。」

「よお、待たせたな。」

「ったく、なんで俺がこんなやつの。」

「と、課長...??」



そこには天使の羽根を生やした課長とその課長を腕を嫌々ながら持ち現れたスウェット姿の銀時さんがいた。なんともアンバランスな組み合わせだった。



「凛華に近づくんじゃねェェ!!!」

ドゴォォォォオンッ



軽々しく私に引っ付いていた警備員を蹴りあげ、すぐさま私を抱きしめた。


一瞬の出来事で私は声がでず、ただ抱きしめられていた。カタカタと震えるのは私の体、だけではなく抱きしめている銀時さんからもきていた。



「よかった...。まじ無事でよかった...。」

「ぎ、銀時さん...。」



その暖かい温もりにやっと安堵の溜息が出る。そして目からボロボロと涙が溢れていった。それは銀時さんのスウェットを濡らしていった。



「ふえぇぇぇ。怖かったぁぁぁ。」

「すまねーな。俺も一人にするんじゃなかった。」

「 ぅ...。課長のせいじゃないですー。」

「いや、この夜の会社に女一人は危険だからな。悪かった。」



そう言われてポンッと頭を撫でられる。その行動でまた銀時さんのスウェットは濡れていく。



「そ、そういえば...。」

「ん?」

「課長も、その、人間じゃ、ないんですね...。」

「あ、あぁ...。そういえば言ってなかったな。」



そう言われた課長は頬をポリポリと掻きながら大きくて白い羽根をバサァッと大きな音を立てて仕舞い込んだ。仕舞った瞬間に出てくるキラキラとしたものにとても感動した。



「とりあえずコイツはこっちで預かるぞ。」

「あぁ、煮るなり焼くなり好きにしてくれェや。」

「あと姫路野。」

「は、はい!」

「コイツに何かされたとかあるか?」

「えーと...、なんか匂い嗅がれたり」

「「匂い嗅がれたり!!!?」」

「ひいっ!!」



ズイッと身を乗り出すように顔を近づけてきたふたりに情けない声が出る。二人は鬼の形相でこちらを見ていたので早く済ませてサッサと退散してしまおうと思い、早口で話した。



「な、なんか突然匂いを嗅がれて極上の魂がどうたらとか言って首を絞めてこようとしたところをお二方にお、お助け頂きました。」



次の瞬間、二人の顔は鬼の形相の顔ではなくなり目を見開いてこちらを見た。それは私から見てもものすごく驚いていることがわかった。



「極上の魂...??」

「は、はい。確かにそう言ってました...。」

「......。」

「な、なにか、ありましたか?」

「.....やべーな。」

「おい、てめーどういうことだ。」



ガッと課長は私たちを引き離し銀時さんの胸倉を掴んだ。銀時さんはただ抵抗せず冷たい目で課長を見ていた。私は腰を抜かしてその場から動くことができなかった。



「知ってたんだろ、このこと。」

「別に知ってようがなんだろうが俺の勝手だろ。」

「お前馬鹿か。これはそんな簡単な問題じゃねーぞ。」

「んなもん初めっからわかってらァ。」

「わかった上でこの行動か。とんだ馬鹿だな。」



バッと掴んでいた胸倉を離し、さっきの警備員を片手に再び羽根を伸ばした。この時もまたキラキラとしたものが周りに飛び散る。



「まあいい。また改めて聞かせてもらおうじゃねーか。」

「私情に首突っ込む男は嫌われるぜ?」

「誰も野郎に好かれたくねーから。」



ハッと鼻で笑う課長と目が合った。



「これを言い訳に遅刻すんなよ、姫路野。」

「は、はい!!」



そう言って課長はバサバサと羽根を大きく広げ、夜の空へと消えていった。私達はそれを消えるまで見ていた。


途中で銀時さんの方を向くと、自然と目が合った。そしてお互いどちらかともなく手を握り「帰ろうか」と一言呟き、会社を後にした。


全てそのままで。







助けてください



「おはようございまーす。」

「ちょ、凛華凛華!大変よ!」

「うん?どうしたの?」

「あんたの部署のところが一夜にして破壊されてるの!」

「えっ...(そういえばそのままにして帰っちゃった...。)」



 
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