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今まではどうでもいい等と放っておいた女子力ってやつを大変気にしている。


髪をいつも一本に纏めるだけでなくちょっとアレンジを加えてみたり、化粧を濃くない程度にしてみたり、洋服も毎日スーツだけどその中で少しオシャレを取り入れてみたり体型を気にしてみたり。後は仕送りをしてくれる両親に体にいい野菜を送ってもらうよう図々しく頼んでみたり。意外にもそれは楽しいことだった。


何故急にこんな女の子らしくなったのかもわからない。両親にも「熱あるんじゃないの?無理してない?」と本気と書いてマジと読む声のトーンで心配された。なんだか泣きそうになった。


一体私はどうしたのだろう?考えてみるがよくわからない。考えすぎるのもなんだか面倒臭いので止めた。お気に入りのマグカップにコーヒーを入れる。これも私の最近の楽しみ。そして銀時さんがそれにいちご牛乳を入れるのを見るのも楽しみ。


楽しみがあるだけで人生はこんなに変われるものだと思った。



「凛華先輩、最近可愛くなりやしたね。」



仕事中、隣でカタカタとパソコンを打つ後輩の口から飛び出る言葉に私は開いた口が塞がらない、動かしていた手がピタッと止まる。その様子を見て「口の中見せるんじゃねェ。気色悪い。」と言われた。いっつもこんな憎まれ口しか叩かない奴がさっきなんて言ったよ、おいこら。



「え?え?私可愛くなった?」

「前よりかメス豚度が増してる。」

「おいこらそれどういうことだ。」

「言葉のまんまでィ。」



ハッと鼻で笑われる始末。ああ、涙が出てきそうだ。ちなみにこの子は2個下の後輩の癖に容量が良く私より一回り二回りも仕事ができる。おまけにルックスもいいし女性社員から人気が高い奴が私と同じ部署にいる。


勿論初めの印象は好評価だったがいざ関わってみればこんなもんだ。憎まれ口しか叩かない。おまけに馬鹿にされる、けど仕事はできるから文句は言えない。


ちなみに私の上司、土方課長とはお知り合いらしく時々ふたりが喧嘩っぽいことをしているのは見る。本当の喧嘩ではなく兄弟がやりそうな喧嘩のやりとりをしていた。



「姫路野ーーーー!!!!」

「は、はいぃぃぃぃ!!!!」

「おーおー、また説教かィ。」



いつもの条件反射で声が裏返りそうなほど大きな声で返事をする。隣ではココアを啜りながら余計な一言をぼそり。くそう、涙が出てくる。


私は椅子を急いで収め上司のところへ行った。今日も怒鳴り声が響く。皆さんごめんなさい。学習能力は一応あるのですが上手く使いこなせていないらしくご迷惑をおかけしてばかりで申し訳ないです。



「土方課長、なんでしょう。」

「実はな...。あれ、姫路野。」

「はい?」

「お前がなんか女っぽくに見える...。」



最近目が疲れてるからそのせいか、などと呟く課長に少しイラッとする。目の疲れのせいにしやがって。それでも可愛いと言われたことにあまり不満はないので良しとする。


それにしても一体なんだろう。あぁ、また怒られるのだろうか。今度はなんだろう。前書いた正式依頼の文書のミス打ちかな。そうだよね、ミスなんかがある正式書類なんかあっちゃダメだもんね、会社の恥だよね。


しょぼん、と顔を下げると急に勢い良く肩を掴まれた。予想もしていなかった事だったので思わず「ひぃ!」と情けない声が漏れてしまった。



「お前、よくやったな。」

「え、え、え?な、何がですか?」

「姫路野が以前から取り組んでいた企画があんだろ?あれの企画案半ば諦めで上の奴に出したらな、最終候補まで残ったんだ。」

「......え?ほ、本当ですか?」

「あぁ、本当だ。近藤部長から聞いた話だから間違いない。」



その瞬間、声にならない叫び声で私は叫びその場に崩れ落ちた。やった、私も半ば諦めだった。こんな子供騙しみたいな企画出しやがって、子供の遊び場じゃねーんだぞ。絶対そういうこと言われると思った。土方課長も顔に出ていたし私も顔に出していた。そんな企画が最終候補まで残っただなんて奇跡に近いに他ない。


自惚れに近いが私のアイディアは上司達の目に留まるほど成長したのだ。



「やったぁ....。」

「良かったな。毎日怒鳴らせる部下がここまで成長するとはな。」

「ふえええ。課長も色々ずみまぜんでじだぁぁ。」

「お、おいおい、泣くなよ。」



ずびびー、いい歳こいて鼻が垂れるのは恥ずかしい。それを阻止しようと鼻を思いっきり吸った。大きな音が響く。やだ、恥ずかしい。



「よかったですねェ、凛華先輩。」

「う、うん...。これでやっと沖田くんに馬鹿にされない。」

「いやいや、最終候補まで残っただけですからねィ。俺なんてあんたの何倍も企画通ってまさァ。」

「え、うそ。」

「本当だ。こいつの企画は何個も通ってる。」

「......で、でも、それでも。」

「はいはい、頑張りやしたねー。」



あまりの嬉しさに腰が抜けてしまった私の頭の撫でる沖田くん。その沖田くんを余所に私は他の方向を向いた。ちょうど私の家がある辺りの方向だ。


そしてふと思い浮かぶあの人の顔。思い出す度にぎゅうっと胸が締め付けられる。それと同時に自然と口元が緩んでしまう。このこと伝えたらなんて言ってくれるんだろうな。


早く、夜にならないかな。























ブルッと震える寒さが続くこの頃は外で待たすのも悪いので、会社の中で待っていて欲しいと言った。本当はこんな寒い中迎えはいいと言いたいところだが、私がそれを言うと「奴らが襲ってくんぞ?」と言われて恐怖心が溢れ出て渋々お願いする羽目になってしまう。


でもここ最近奴らが襲ってくる気配もない、と銀時さんは言っている。でもこの街には確かに奴らの匂いがするらしい。だから近くにいるのは間違いないと言っていた。


定時より少し遅め、会社の自動ドアの前まで駆け足で行くとそこにはニット帽を被った銀時さんがいた。彼を見た瞬間、ぐっと頬の筋肉が上がりスピードも次第に早くなっていく。



「銀時さん!お待たせ!」

「おう、どうした。いつもより元気じゃねーか。」

「それがねー、聞いてよ!実はね!」

「こいつの企画案が最終候補まで残ったんでさァ。」



私の言おうとした台詞を後ろをスーと気配なく通った奴が奪い去る。私は驚きのあまり固まってしまった。銀時さんもポカンとした顔をしている。



「つーか、最近帰るの早いと思ったらいつの間に男ができたんでさァ。」

「ちがっ....!!」

「あっ、そうか。最近色気づいたと思ったらこいつのおかげか。」

「いや、だからあの「総一郎くん!!?」」



私の言葉を遮り口を開いたのは私の目の前にいる、銀時さんだった。銀時さんは驚いた顔で沖田くんを見る。


え、お知り合い?でも名前間違って呼んでいるよね?それでもお知り合いってことは、沖田くん実は......?



「あり、旦那じゃねーかィ。久しぶりだねィ。」

「な、なんで総一郎くんがこんなとこいんだよ。」

「総一郎じゃありやせん、総悟でさァ。」



そう言うとゴオッと沖田くんから気が伝わってくる。それが殺気なのか何なのかよくわからないが背中がゾッとするようなものだった。


銀時さんは私の前に立ち、沖田くんに話しかけた。



「やめてくんねーかな。そうやって挑発すんの。」

「別に挑発なんてしてやせんよ。ただのお遊びでさァ。」

「ガキのお遊びにしちゃァ、ちょっとお痛がすぎるぜ?」

「すみませんねェ、ガキだから加減がわからなくって。」

「ところで何の用だよ。」

「企業秘密でさァ。まあ、アンタのことについては何も言われてないんでそんな警戒しないでくだせェよ。」

「......。」

「じゃ、お先に。凛華先輩。」

「あ、う、うん。お疲れ様......。」



斜めにかけた鞄を整えマフラーに顔を埋めて彼は会社から出ていった。その瞬間彼は肩の荷が降りたかのように溜め息をついた。その大きな背中を見つめる。


暫く見つめると思い出したかのように帰るか、と呟き歩き出した。私もその横を歩き出す。


沖田くんとどういう関係なの。一体何があったの。どうしてあんな気を張っていたの。聞きたいことは沢山あるが言えず終いでもじもじしていた。


すると銀時さんの口がゆっくりと開かれた。



「沖田くんはな、俺が上にいたころに知り合ったのよ。あいつら上で武装警察なんて役柄で。まあ、こっちで言う警察みたいなもんなんだけど。それ実はお上様が作ったもんでなァ。」

「えっ...、ということは沖田くんは天使で、お上様に追い掛けられてる銀時さんを追ってきた?」

「って思ったんだがどうやら違うらしい。他に仕事があるっつってたな。それに俺の事は耳に入ってるらしいしな。けど仕事じゃなかったから放棄したと。」

「じゃあなんでここに?」

「......そうさねェ。」



手に顎を当てて考えるが、数分立つと「わかんね」と口に出し降参とでも言うかのように両手を上に上げた。私もわからない、一体どうしてここに来たのだろうか。大切なことだからと悩むが何も知らない私が悩んだところで何も解決はしない。



「そういえば企画案最終候補まで残ったんだって?すげーじゃん。」

「あ、うん。でもまだ最終候補止まりなんだけど...。」

「けど今までの凛華の仕事っぷり聞いてたらかなりすごいことだと思うぞ?」

「そ、そうかな...。」

「そうだよ。よく頑張ったな。」



そう言ってニカッと笑う銀時さんを見て、ああ幸せだなって思えた。単純なことだけど幸せを身近に感じれたことにまた幸せに思う。幸せは移るって本当のことだったんだ。



「よし、じゃあ今日はお祝いに凛華の好きな奴作ろうかな。」

「やった!ハンバーグ!!ハンバーグがいい!!」

「.......ガキだなァ。」

「ガ、ガキじゃないもん!」

「はいはい、ハンバーグな。チーズのっける?」

「もっちろーーーん!」

「.......ぷっ。本当ガキ。」

「だから違いますー!」



まだ銀時さんについてわからないことがある。だけどそれを無理に知っていこうとは思わない。物事には全てタイミングがある。そのタイミングを上手く掴んで話を聞けたらいいなと思ってる。けど気になるものは気になる。



「......。」



明日、沖田くんに話聞いてみるか。話を聞いてみてそれで疑問が解決する鍵が見つかれば私も銀時さんもきっとスッキリする。


明日が来るのに少し緊張しながら、いつもの道をふたり並んで帰っていった。







あら、お久しぶりです



「うふふ、おいしーい。」

「そらァ、よかったわ。」

「あー、幸せだなァ。」

「小さい幸せだなァ。.......?」

「どうしたの銀時さん?」

「い、いや、別に。(雑魚天使達の気配が消えた...?)」



 
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