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ビュオオオオッ



寒い風が私の体を冷やそうと隙間という隙間から侵入し体温を奪っていく。その奪われた体温をまた作ろうと暖かい息を吐き、マフラーで口を隠す。


吐いた息は白いものへと変わっていき空を舞う。美しい光景だ。もうこんなに寒い季節になったのか。季節が変わるのは早いものだなと染々思った。



「凛華、なにボーっとしてんだ。行くぞ。」

「えっ。あ、う、うん!」



銀時さんの声で我に返り、数メートル先にいる彼のところまで駆けって行く。冬は寒い。だから夏よりも厚着になり少し走りにくい。冬に走るのは面倒くさいと知った時だった。


今日は少し街へ出て色々な買い物をしている。料理に興味がない私は料理道具が最低限のものしかない。それを見て銀時さんは「あれがない、これがない」と文句を言うので(ごはんを作ってもらっているのであまり文句が言えない)街に出て必要な物を買いに来た。


この街で一番大きいデパートへ銀時さんの持っている原付バイクで行き、デパート内をうろちょろ歩いて見回っている。



「おっ、あそこなんかいい感じじゃねーの?」

「っ!か、可愛い!」



可愛らしい雰囲気のお店を見つけ、その中へ入っていく。中は雰囲気通りで可愛らしいものばかりでどれも私好みのものばかりだった。



「これとか可愛いんじゃね?」

「これで銀時さんが料理するの?」

「....あー、それはねェわ。」

「意外に面白いかも。ねえ、これ持って持って。」

「......。」

「プックク...。い、いいよその感じ。」

「どこがだよ、違和感ありまくりだろこれ。」



他に面白いものはないかとキラキラした目で見ている時だった。



「......これ。」



目に付いたのはマグカップの取っ手が腕となりもうひとつのマグカップと腕を組んでいる何とも可愛らしいマグカップだった。顔も可愛く取っ手も可愛い。


しかしそれはどこからどう見てもカップル専用のマグカップだった。それを見てふと銀時さんを思い出す。


右側の寝ぼけた感じの目をしているマグカップは銀時さんを思い出させる。仮に右側のマグカップが銀時さんだとして、それと左側の通称私マグカップと腕を組んでいる。


想像しただけでも顔が熱い。私は何勝手に一人で妄想をしているのだろう。真っ赤になった顔を隠そうと手で頬を覆った。



「なになに、それ欲しいの?」

「ふえっ!!?」



突然妄想の中に登場していた人物の声がしたものだから、変な声が出てしまった。後ろを向くと大声で笑うのを必死で堪えてる銀時さんがいた。



「ふえっ、って...。ふえっ...。」

「う、うるさいなぁ!」

「プクククッ。で、それ欲しいの?」

「え、いや、これは、別に....。」



そう言ってマグカップから目を逸らす。片方だけ欲しいけど片方だけでは販売していない。ふたつ揃わないと意味ないからだ。けど、もし銀時さんとペアで買えたらなんて馬鹿みたいな考えが浮かぶ。



「ふーん、へぇー。これ可愛いな。」



すると後ろから抱きつくようにそのマグカップを手に取る。突然のことだったので私の心臓が痙攣を起こした。ビクビクと震える、体全体に伝わる。


銀時さんは後ろで「ふーん、へー」と間抜けな声しか出していない。もしかしたら気づいていない?心臓音がドクドクではなくドッドッドッと激しく鳴り始める。銀時さんにいつ気づかれるか不安で仕方が無い。


そんな気も知らずに彼はさらりと言葉を吐き出す。



「これ買わねェ?」

「えっ。」



彼は見本を元あった場所に置き、横長の箱をひとつ手に取る。淡々と動作が流れていくのに少し戸惑う。



「でもそれ、カップル用だよ?」

「カップル用でもさ、これ俺らにぴったしじゃね?」

「確かにこれ銀時さんに似てると思ったけど。」

「おっ、奇遇。」



そう言ってニヤリと笑う銀時さんを不思議に思って見た。彼は寝ぼけた感じのマグカップではない方、つまり目が大きい女の子の方のマグカップを指差す。



「あれ、凛華に似てるなって思ったわけ。」

「わ、わたしに?」

「そっ。ほら、あのいっつもニヤニヤしてる感じとか似てんだろ?」

「ニヤニヤじゃない!ニコニコ!」

「自分で言ってるし。」



ニコッと笑う銀時さんに不覚にもやられてしまった。私は下に俯きぎゅっと服を握る。そして銀時さんを見上げた。



「これでココアとか飲んだら美味しいだろーな。」

「そ、そうだね。」

「よし、これ決定。他は何買うかなー。」



彼は近くにあるカゴにカップル専用のマグカップを入れ、片手で持つ。こういう時だけは行動が早いらしい。


そして急にカゴを持っていない手を私に差し出した。



「??」

「人、多くなってきたから。」

「え、あっ、その....。」



やめて、それ以上したら本当にカップルみたいだよ?そんなことは言えない。だってこの行為すっごく嬉しいから台無しにしたくないから。


戸惑いつつもそっと手を出す。恐る恐る手を出す私に痺れを切らしたのか勢いよく手を掴み私の歩幅にゆっくりと歩き出した。



「銀時さん、なんかムカつく。」

「えっ、なんでよ。俺なんかしたか?」

「した、色々して私が色々負けてる。」

「ん?なんの話?」



不思議そうに見る銀時さんに頬を膨らませ怒っている感じに見せたら笑われた。ハムスターみたいだって。褒められてるのか貶されているのかよくわからないから怒ることもできない。そこもまた悔しい。


そう笑ってまた料理道具探しの買い物が始まる。あっちへ行ったりこっちへ行ったりフラフラと。銀時さんの広い背中を見つめながら私はついていく。



「.......なにニヤけてんの?」

「なんでもない。」

「変なやつー。あ、これとかどーよ。」

「いいね、ふたりで使えそう。」

「じゃあこれも買っていくか。いや待てよ、あっちにもなんかあんぞ?」

「あっちも見てみよーよ。」

「そうだな、あっちにも行ってみるか。」



ゴトゴトッ



歩く度にカゴの中で音を出しながら揺れるマグカップの箱を見て、私はニヤケが抑えきれなかった。







参りました



「なあ、まだ俺の事ムカつく?」

「んー?ムカつくよ。」

「え、本当に俺なんかした?」

「銀時さんに色々されたからなあ。」

「あ、もしかして掃除サボって昼パチンコ行ってたこと?」

「......え、掃除サボって行ってたの?」



 
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