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「ここに秤がありまさァ。」



パチンと指を鳴らして出てきたのは小さな秤。秤は左右にゆらゆらと静かに揺れている。


それを下に置き、沖田は説明を続けた。



「右が人間界、左が天界としまさァ。人間界は常に天界と魂でバランスをとって存在しているんでさァ。今は魂の代わりに先輩の好きな苺置きやすね。」



そう言って再び指を鳴らして苺を出し、左右対称になるよう苺を置いた。まだゆらゆらと揺れているがほぼ均等にバランスを保てている。



「凛華先輩、さっき死んだおばあちゃんにも会えるとか言ってやしたね。代わりに先輩のおばあちゃんを生き返らしたとしやしょう。」

「あ....。」



沖田は左側の苺を右側にひとつ移動させた。秤はぐらりと少し右側に傾く。



「他にもその方法を知った人間があれよこれよ蘇らせろと言う。すると右側はバランスを崩し、天界は滅びる。」



ガシャンと大きな音を立てて右側に一気に傾く。それがなんだか恐ろしく思えた。



「天界が滅びると死んだ人間の魂が人間界に永遠に彷徨い続けることになる。そうなると今度は世界のバランスが崩れ天界だけでなく人間界も滅びてしまうってわけでさ。」

「それでもお前はまだ蘇らせてェとか常識を覆すような馬鹿の戯言を言うか。」

「い、いいません...。」

「ならいいんでさァ。」



はい、どうぞ。と秤に使われた苺を渡される。それを口に含むと甘酸っぱい液体がじゅわりと口いっぱいに広がった。その感じが好きなのに今はただ気味が悪くて仕方がなかった。



「俺は昨日、その捜査途中であの糞野郎と会ってしまった。急に奴が走り出すから何かと思えばお前が襲われていた、ということだ。」

「そう、だったんですね。」

「間一髪ってやつですねィ。それで昨日の取り調べで何かわかったんですかィ?」

「ああ、それが奴は雇われ屋らしくてな。雇われた奴について詳しく知らないらしい。ただ極上の魂を見つけ次第報告しろと言われていたみたいだ。」

「その連絡先は調べんたんですかィ?」

「調べたが残念ながら番号は既に変えられていた。」

「ちっ。なーんだ。」



私が死者を蘇らせることができる極上の魂を持っているやつだと言うことがわかった。それを狙う奴がいて私は前々から天使に襲われていたということも理解した。


でもひとつ疑問がある。



「銀時さん.....。」

「ん?旦那がどうかしたんですかィ。」

「あの、その極上の魂のことって一般の天使達皆知っていることなのですか。」

「いや、普通は知らないでさァ。俺らも今回依頼されて詳細を聞かされて知ったことばかしだしねィ。」

「あ?そういえばそうだな....。」

「は?どうしたんでィ、ふたりとも。」



きっと土方課長も気づいたに違いない。私も今疑問に思ったことを土方課長も疑問に思っている。



「なんで銀時さんは極上の魂のこと、知ってるの?」

「なんで奴は極上の魂のこと、知ってやがるんだ?」



ふたりの頭の上には?がたくさんあるに違いない。昨日の会話を思い浮かべれば尚更だ。


昨日土方課長も冷静さがなかったためその時は疑問に思わなかったみたいだが、今考えてみればおかしいことに気がつく。


一般の天使は知らない、ましてや平和を守る警察さえもあまり知り得なかったことなのに自称牢屋に捕まって逃げて追われている銀時さんがこのことを知っているかのような口ぶりで昨日話していたのだろう?


もしかして銀時さんは私が極上の魂を持っていることを最初から知っていて、私にわざと近づいた。



「頑張ったじゃねェか凛華!」

「おかえり凛華!」

「凛華!」

「凛華ーーーーー!!!!」




今までの優しさなんかは全て極上の魂を得るための目的を果たすためだった?だとしたら今までのは全て嘘?でもなんのために?


私は一気に血の気が引き、全てを否定したい衝動に駆られた。そんなの嘘だって、絶対違うって誰か安心されてくれるような言葉をください。



「.....総悟、奴は後どれくらいで来そうだ?」

「うーん、ザッと30秒ぐらいですかねィ。」

「ほう、そりゃあ本人に聞いた方が早ェな。」



そう、土方課長が口を開いてニヤリと笑った時だった。



ガチャッ ギィィィ



屋上の重たい扉がゆっくりと開かれた。







信じたくないです



「凛華、とお前らじゃねェか。随分探した。凛華から返信ねェからまた何かあったんじゃねーかと思ったぜ。」

「あっ....、銀時さん...。」

「ちょうどよかった。お前に聞きたいことがあったんだ。」

ニヤリと笑う土方課長に銀時さんはニヤリと笑い返した。



 
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