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「うーっ、さみぃ。」



肩を上げガタガタと震わせ、マフラーで口元を隠す。これをするしないでは暖かさが違うのだ。


寒い寒い廊下をできるだけ早歩きで行き、いつもの場所へと向かう。そこに近づくにつれて高く響く音が大きくなっていく。


寒さで凍えた手をポケットから出し、必死でドアノブへと手を伸ばして扉をあけた。



ガララッ

「うーっす。おはよござ、」

「何がおはようございます、だ!」



扉を開けこっそり入ってきて挨拶したつもりなのに後ろから頭を叩かれた。痛みに耐えながら後ろを振り向くとそこには剣道部副部長である大串くんがいた。



「あ、大串くんおはー。」

「なにがおはー、だ。今何時だと思ってやがる。」

「え?時間が知りたいわけ?今はなー、8時。」

「剣道部の朝練は何時からだ。」

「7時半くらい......?」

「7時10分からだゴラァァァァ!!!」



竹刀を振り回して怒鳴り散らす大串くんを見て剣道場で練習している人は「ああ、またか」という目で俺達のことを見ていた。


コイツに見つかるとロクなことがないからわざと裏から入ってきたのに運が悪かったのか今日は裏で待機していたらしい。案の定見つかってしまった。



「今日という今日こそは許さねェェ!!」

「まあまあ落ち着けって大串くん。」

「俺は大串じゃねェェ!!土方十四郎だァァ!!」



パシーンパシーンと竹刀を床に叩きつける。そして再び始まる長々とした説教。その説教を聞き流し、俺はただ大串くんの後ろの方で女の子に囲まれている凛華を見ていた。


今日も凛華は女の子に囲まれ、凛華スマイルといったものを振りまいている。本人はただの笑顔だと思っているがファンからすればその笑顔すら輝かしいらしい。笑顔に名前まで付きやがった。



「聞いてんのかてめーは!!」

ゴンッ

「いってええええ!!?」



大串は竹刀を持っていない方の手で俺の頭を勢いよくぶん殴る。想像以上に痛かったので声も想像以上に大きくなってしまった。



「てめーなにしやがんだ!!」

「こっちの台詞だ!毎回毎回同じこと何回も言わせやがって!!」

「んなの一々聞いてられっか!!」

「学習しろ学習を!!こんなことになる前に!!」

「あぁ!?てめーさっきから聞いてたらゴチャゴチャうるせーな!!よし、ここはこれで決めようじゃねーか。」



とうとう頭にきた俺は周りにいたやつから無理矢理竹刀を奪い取り大串くんに向けた。その姿を見てか彼もニヤリと笑い黙って構えた。


俺たちの間にさっきまでのテンションはない。イライラは募るばかりだが。俺は持っていたリュックやマフラー、コートを脱ぎ捨て楽な体勢を作り、息を整える。



「いざ、」

「神妙に」

「「勝負!!」」



力強く床を蹴りあげた時だった。



「あっ、銀時!」



横から凛華の声がする。だが今は振り向けない。しかし俺はいつだって凛華優先。これもさっさと終わらせなければ。


竹刀で大串くんの攻撃を止め、足を引っ掛ける。彼の足は見事に床にはついていない。それを瞬時確認した瞬間、凛華のところまでダッシュした。



ズダーーーン

「こんのっ、坂田ァァァァ!!!」



大きな地響きと怒鳴り声を背に俺は凛華のところまで行った。凛華の周りには既に女の子達がいない。着替えにでも行ったのだろうか。



「銀時!」

「おはよ、凛華。」

「おはよう、銀時!」



そして次の瞬間だった。


ちゅっ、と頬に当たる柔らかいもの。俺の思考は一瞬にして止まった。いや、俺だけではない。きっと剣道場にいたみんなの思考が止まったに違いない。


俺はギギギと首を凛華の方まで動かし彼女を見た。彼女の頭の中はきっと「?」を埋め尽くしているに違いない。いやいや、俺が「?」だから。



「おま....っ。」

「どうしたの?そんなに顔真っ赤にさせて?」

「だ、だから、そういうのを人の前で軽がしくするなァァ!!」

「えっ、でもアメリカじゃ普通だったよ?」

「ここは日本!This is Japan!こういうのはまだ慣れてない初な奴ばかりなのォォ!!」

「そ、そうなんだ!」

「って前にも説明したぞ!?」

「ごめん、私記憶力ないからさ。」

「それで済まされるか!?つか俺以外のやつにするなよ!?」

「え?お父さんお母さんもダメ?」

「お、お父様お母様は可!それ以外は不可!」

「りょ、了解です軍曹!!あ、そろそろ時間だから着替えてこないと。」



また教室でね、そう去っていく凛華を見送った後俺は床を見つめた。


本当は後ろを振り向いてリュックとマフラーとコートを取って教室へ行く。行きたい。しかし俺は後ろを振り向くことが怖かった。


それでも勇気を振り絞って恐る恐る後ろを振り返ると、



「......ぶっ!!!」

「あははははっ!!!」



爆笑してるやつらがいた。きっと今の俺は顔が真っ赤に違いない。ズンズンとわざと足音を大きくたたせリュックとマフラーとコートを取り靴を履く。未だに奴らは爆笑してる。


その時、ふと肩に置かれるのに気づいた。俺は振り向きもしないで動作を止めた。



「坂田、お前色々苦労してんな。

 ......ぶはっ!!」

「うるせェェ!!前髪V字型ァァ!!」



今日の朝はたくさん叫んだ気がする。そのせいで喉が少し痛い。声も少し掠れている。そこまで叫んだから当然職員室まで聞こえていたらしく、



「坂田ァ、後でちっと職員室来いー。わかったなァ?」

「ま、まじかよ....。」



体育の鬼、とっつぁんに呼び出されてしまった。どうやら俺の叫びでキャバクラのお姉ちゃんとの電話が楽しめなかったらしい。それの反省文を書かされる始末となった。







挨拶のキスもほどほどに



「これも帰国子女の特権、てやつかな。」

「何ごちゃごちゃ抜かしてやがる。早く書けィ。」

「へいへーい。俺が叫びすぎたせいでとっつぁんの
キャバクラのお姉ちゃんとの電話の妨害を...」

「おーい、そこはキャバクラのお姉ちゃんじゃなくてお友達にしとけィ。」

「えっ、なんd『バキューーーン』」

「わかったな?」 「は、はい...。」



 
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