( 1/1 ) 「あっちゃー。すっかり遅くなっちゃった。」 気がつけば外も足元が良く見えないくらい真っ暗で、時計の針もいつも帰る時間よりも遅い時間を指していた。 机の上に広げていたノートを鞄の中に片付け、帰る支度をする。 もうすぐテストがあるので部活も試験発表中はしていないのでこうして学校に遅くまで残って勉強をしている。家ですれば良いのだが何分家には誘惑がありすぎて勉強どころではなくなってしまう。 それに今年は学生の中で最も分かれ道の受験がある。だから早く後輩マネージャーに仕事を覚えてもらいたいのだがまだまだ未熟みたいで。 本気で勉強の方がやばくなったら引退させてもらおうと思っているが今はそんなことは考えていない。部活が楽しくて楽しくて仕方ないのだ。 暗い学校内を転けないよう恐る恐る足元を確かめながら歩き、玄関に行って靴を履く。そして歩きだそうと顔を上げた時だった。 「みーっけ。」 「ぎゃああああ!!!?」 驚きすぎてぺたんとその場に尻をついてしまった。 心臓はバクバクと口はパクパクと冷や汗だらだらでその人物を見た。 「いいですねィ、その叫び声。」 「おおおお、沖田!!あんたね!!」 「興奮しまさァ。」 「ば、馬鹿じゃないの!!」 あー、びっくりした。とりあえず知っている人でホッとする。実は暗くてなにか出るのではないかとビクビクしていた。まさかの沖田に驚かされたが。 「凛華先輩、いつまで座ってるんすか。」 「沖田が驚かしたからこんなことになってるの!」 「はいはい。」 そう言ってクスクス笑いながら手をそっと私の前に出した。 え、沖田が手を出してる。あの沖田が。これは絶対何かしら罠があるに違いない。 沖田を疑い、手を添えず手と彼を交互に見ていた。 「ったく、」 「きゃっ!」 腕を捕まれぐいっと沖田の方に吸いよられるように起こされた。私の体はそのまま沖田の胸へ飛び込んでしまった。 パッと見た感じはひょろひょろしてて弱そうなのに引っ付いてみるとさすが剣道をしているだけあって筋肉がある。手もゴツゴツしていて掴まれている腕に熱が集まる。 「ほら、帰りますぜ。」 「....え、あ、う、うん。って、へ?」 腕から離れた手は今度私の手に移動し、指をさりげなく絡ませた。 「ちょ、私沖田と帰る予定じゃなかったんだけど。」 「たまたま帰る時間と方向が同じなだけでィ。」 「そ、そっか...。」 なんだ私、別にこの後輩と帰ることなんてこんなドキドキすることでもないし今まで通りの自然体でいけばいいのに。なんだろう、この焦りは。心臓も痛いし手汗もなんかかいてきたし。 もしかして、を考えては頭を振ってそれを消す。そんなことはない、ただいつもと雰囲気違うからそれで、と言い訳を探しては納得しようとする。 「沖田、もう手離していいよ。」 「別にいいじゃねェですか。このまんまで。」 「いや、恋人みたいでなんか、悪いじゃん?」 「じゃあ離してみなせェ。」 そう言って得意げに笑うから悔しくて絡んだ手を離そうとするが、力強く握られていて離れない。 「んぐぐぐぐっ!!」 「ほれほれー、頑張りなせェ。」 余裕そうに口笛を吹いて隣を歩く沖田を睨む。そして余計闘争心が燃えた。 しかし引っ張っても引っ張っても力が緩むことはなくただ私の体力が奪われていくだけだった。それでも負けじと沖田の指を動かそうとするが動かない。 ちょ、力強い...。 「くそう、年下の男の子に力負けるなんて...!」 「クククッ。」 「私の方が先輩なのにー!」 「凛華先輩。」 歩く足を止めて沖田は繋がれた手を引っ張った。バランスが崩れそうになったがいつの間にか腰に添えられていた手によってそれは阻止された。 繋がれた手をそっと口元へ持っていく。沖田の息が私の指にかかり、心臓が高鳴る。そんな沖田と目が合い、私は逸らすことができなかった。 そしてゆっくりと口を開く。 「先輩後輩の前に男と女ですから。」 「っ。」 「力の差もあって当然でさァ。」 そう言ってニコリと微笑んで絡んだ手を再び力強く握る彼を見て、後輩としてではなく 初めて男の人として認識した。 こんなにも違う 「 っ、な、なんか悔しい。」 「これに懲りたら俺に勝とうと思っちゃダメですぜィ。」 「いや、なんかひとつくらいは勝てるはず!」 「あと凛華先輩女の子なんですから、もう少し帰り気にしてくだせェ。」 「どういうこと?」 「....女の子が暗い中ひとりで帰るのは危ねェでしょう。」 タイトル「先輩後輩の前に男と女ですから」 |