( 1/1 ) 銀魂高等学校剣道部。 ここの地元の人に聞くと一度くらいは名を聞いたことがあると言うほど、わたし達の剣道部は名を轟かせている。 毎年強豪校として恐れられていたが今年はさらに強い選手が入ったため、他の高校は更に恐れているとの情報を耳にした。 勉強はできないがスポーツなど体を動かすことが得意な人達が集まるここ銀魂高等学校では今日も生徒たちが懸命に練習をしていた。 「はぁぁぁ!!!」 「えいやぁぁぁ!」 パンパンッ ダンッ 甲高い声や竹刀がぶつかり合う音、足を踏み込んだ音が剣道場全体に響く。音は跳ね返りわたしの耳を貫く。思わず顔をしかめた。 今日も相変わらず凄い音だなと思いながら、淡々と慣れた手つきでマネージャーとしての仕事をこなしていく。3年もしていればベテランだ。 そんな中ふと視界に入るのはいつもわたしに付き纏ってくる後輩、沖田総悟。 いつもは怠そうにおちゃらけて手に負えない後輩だが部活の時だけは防具をつけて、真剣に取り組んでいる。その姿がまた女子に人気なのである。ギャップ萌えというやつだろうか。 「...黙ってれば格好いいのにね。」 ふう、と溜息をつき手首につけている時計を見た。そろそろ休憩の時間になる。手に持っていたタオルを後輩マネージャーに預けわたしは飲み物の準備をした。 準備をし終えたちょうどいい時間帯に部員の休憩時間が始まる。マネージャーはその時ひとりひとり名前が書いてある水筒を渡していく。 「凛華先輩、俺のとってくだせェ。」 神業並みの早さで部員に水筒を渡している時だった。顔を上げるとタオルを首にかけた沖田がいた。わたしは再び水筒に視線を戻し答える。 「沖田の水筒はあっちよ。」 「ならとってきてくだせェ。」 「わたしは今こっちで忙しいの。自分で取りに行きなさい。」 「俺は凛華先輩から貰いたいんでさァ。」 その時隣の後輩から「きゃあ!」等如何にも女子って感じの悲鳴が上がる。そうか、女の子ってやつはこういうのに弱いんだね。 わたしは仕方なく隣の箱から沖田と名前の書かれた水筒を見つけ出し、愛想なく渡す。 「どうぞ。」 「ありがとうごぜェやす。」 水筒を渡したとき手が触れ合った、それがいけなかった。 ガシッと乱暴に手首を掴まれ無理矢理引っ張られる。行き先は剣道上の出口、外への入口だ。 「え、ちょ...。」 「休憩終わるときには戻りやーす。」 足が縺れないように必死に体勢を整えるわたしを無視して彼はズンズンと歩いていく。後ろから同級生の土方の怒鳴り声も聞こえたがお構いなし。 連れてこられた場所は体育館の裏側。何故こんなところなのかと疑問に思いながら無理矢理沖田の横に座らされた。 「ちょ、なんでここまで来て飲まなきゃいけないのよ。」 「たまにはいいじゃねェですかィ。」 「わざわざ面倒臭いことしなくても。」 「まあまあ。」 そう言って沖田は大きな水筒を片手で持ちぐびぐびと喉を鳴らして飲んでいく。もう片方の手は未だにわたしの腕を掴んだまま。 喉仏が上下に動く度飲んでいるのだとわからせる。それにあんな大きな水筒を片手で持ってるごつごつした大きな手。 それをぼうっと眺めていた。その視線に沖田が気づきニヤつく。 「なんですかィ、見惚れやしたか。」 「んなわけないでしょうが。」 「その割には目が合いやせんけど。」 「気のせいよ。大体あんたみたいな餓鬼に誰が見惚れるってのよ。」 「餓鬼、ねィ。」 サァと気持ちの良い風が髪の間を通り抜けていく。あぁ、なんて心地の良い風なんだろう。汗をかいていたしちょうどいいタイミング。 見えない風を目で追っていると、突然ぐいっと力強い何かで引っ張られた。犯人は何かわかっている。 引っ張られたわたしは沖田の腿のところへダイビングしてしまった。そのまま体を仰向けにさせられる。視界は沖田の顔で埋まっていた。 「え、な、何よ...。」 「凛華先輩。」 「は、はい。」 彼の顔がいつもよりも真面目で思わずいつもの強気なわたしの態度が弱々しくなる。 心臓が高く跳ねるように鳴る。今なら口から心臓が出てきそうだ。 そんな中沖田はゆっくりと薄い唇を開く。 「年下だからって甘く見ると痛い目みやすよ。」 え、という言葉はわたしの口の中で消される。 いつの間にか視界は彼の首筋で額には暖かい何かと小さなリップ音。数秒後離れた彼の顔はそれはそれは楽しそうな如何にもドSって感じの笑顔を浮かべていた。 「さあ、帰りやすか。」 わたしの体を起こしそのまま何事もなかったかのように立ち去る沖田を、わたしはただポカンとした顔で見つめていた。 油断は禁物 「な、なんなのよ、あいつ...。」 唇を当てられた額にそっと手を伸ばす。 そして先程の出来事が頭の中でもう一度再生される。 「...沖田ってあんなに大人っぽかったっけ?」 タイトル「年下だからって甘く見ると痛い目みますよ」 |