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「凛華せーんぱい。」



廊下を歩いているとゾッとするような甘い声にわたしはいつも苦笑いもできないほど苦い顔をする。周りから見たらそれはそれはひどい顔をしているそうな。


そんなことわかっているはずなのにこいつはわたしの周りをくるくると回るようにしつこく付き纏う。



「凛華先輩、無視ですかィ。」

「...凛華よ空気となれ、空気と一体になるのだ。」

「凛華先輩が空気になったら全部吸い込んで俺の体内で留めさせときやすね。」

「ななななんて、おそろしいことを!わたしを自由にしてあげて!」

「自由にさせたら先輩が野郎に吸われるでしょう?他の野郎になんて吸わせたくねーですもん。」

「.......こいつは、全く。」



彼の名を沖田総悟という。彼はルックスが非常によく先輩後輩先生と人気の幅が広く非公認ファンクラブまでできており日々沖田総悟を眺めているらしい。


最近まではひっそりと活動していたが規模が徐々に広がった為ついには部活化して放課後活動しようかと言う話まで持ち上がっているとにかく恐ろしいファンクラブである。


そんなファンを虜にしているのが、この付き纏ってくるこいつなのである。



「あ、忘れてた。先輩、おはようごぜェやす。」

「お、おはよ...。はぁ。」

「あれ?顔色悪いですねィ。大丈夫ですかィ。保健室行きやすか。行きやしょうか。」

「いや、大丈夫だから。てかあなたと保健室行く方が危ないから。」

「ちっ、先輩の貞操もらえるチャンスだったのに。」

「なんてこと言ってんの!!」



そんな彼の中身は残念なドSである。そりゃあ恐ろしくドSであり苛めることは俺の生きがいみたいな感じで。俺のものは俺のもの、あんたのものは俺のものみたいなどこぞのやつと同じ態度のでかさ。


そんなやつに何故わたしが絡まれているのかというと自分でもよくわからない。部活は同じだがそこまで話したこともなくお互い普通の関係だった。


はずなのに、



「凛華先輩、授業サボるでしょう?」

「え、なんでサボる前提なの。肯定してんのよ。」

「俺と朝の時間過ごすのと授業どっちが大切なんでィ!」

「比べる必要もないわボケ!」

「せ、先輩。俺の方が大事だと...。」

「あんたの思考大丈夫!?脳味噌見てもらったら!?」

「俺の脳味噌は凛華先輩のことで埋め尽くされていやす。」

「気持ち悪いわ!!」



こいつに朝も昼も放課後も絡まれているせいか疲れがドッとたまる一方。家に帰ったらベッドに倒れる、そんな習慣が身についてしまった。


一体どうしてこうなってしまったのだろう?わたしが過去の自分に問うてみたいことである。



「先輩の中の俺の存在ってランキングで表すとどれくらいなんですかィ?」

「え?そりゃあ勿論最下位でしょうよ。」

「どれくらい下?」

「こーんくらい。」



そう言ってわたしは縦に腕を伸ばし沖田の最下位具合を相手に見せる。


わたしは頑張って頑張って腕を伸ばして沖田の最下位は最下位の中でも下なのだと思い知らせた。


それを顎に手を当てながら上から下へ、下から上へと見てそしてニヤリと笑った。その笑顔がこれまた不気味で背中に嫌な汗が垂れる。



「凛華先輩。」

「は、はい...?」



苦笑いが上手ではないわたしが苦笑いをして沖田を見る。彼の笑顔の仮面は剥がされないままわたしに近づき、そっと耳打ちをした。



「先輩の1番になってみせやすから。」



そういってひらひらと手を振りながら去っていく彼をわたしは呆然として見ていた。







後輩の宣誓布告



「は、はぁ!?」

「ちょ、凛華!あんた今なんて言われた!?」

「え、一番がどうたらとか...。」

「凛華!あんた!!!」

「あいつわたしの一番になってどうするんだろ?」

「はあ?」




タイトル「先輩の1番になってみせます」


 
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