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「それでね、そいつを見るとこう心臓がぎゅうって締め付けられるわけですよ。」

「ほうほう。」

「初めは風邪かなって思ってたんですけど、さすがの私もそこまできたらわかるわけですよ。これがなんなのか。」

「へえへえ。あ、そこのコップとって。」

「はい。......そんでですね、色々考えたわけですよ。そいつのどこが好きなのかーって。」

「ほほーう。これうまっ。」

「ちゃんと聞いてます?」



聞いてる聞いてる、と適当な相槌をついていちごミルクを片手にテストの採点をする銀八先生。皆はよく銀ちゃんと親しみを込めて呼んでいる。


銀ちゃんは私の所属している剣道部の副顧問である。マネージャーとして少し話すぐらいでそんなに仲良しってわけじゃないのだがなにか話したい時には必ずここに来ている。


今日は放課後、ここに提出物を持ってくるついでに居座り話を聞いてもらっている。



「つまりあれだろ?私ついに恋したんです、てことだろ。」

「簡単に言ったらそうだね。」

「へっ、勝手に青春してろ。」

「まあまあ。いい人が見つからないからって周りに当たるのは大人気ないよ。」

「いい人が見つかんねェて言ってる男に恋愛話をするお前も中々大人気ねェよ。」

「そうかな?ははっ。」



机の上にあるチョコレートをつまみながら机から目を離さない銀ちゃんの背中を見つめる。部屋にペンを走らせる音だけが響いた。


そんな中、銀ちゃんから口を開いた。



「んで、お前はどうしたいわけ。」

「どうしたいって...。とくにどうもなりたいわけじゃないし。」

「へー。じゃあこのまんまの関係続けんだ?」

「それもそれでな...。なんというか。」

「んだよ、はっきりしねェな。」



どうしたい、と言われても別に彼から告白されて付き合ってと言われたわけでもないし自分が言ったわけでもないし。そもそも付き合う自体がよくわからない。


でも、これだけは言える。



「ちゃんと、気持ちは伝えたいかな。」

「ほー。つかそれ俺じゃなくて本人に言えよ。」

「え、だって恥ずかしいじゃん。」

「青春はね、恥ずかしくてなんぼなの。」



ほら出てった出てった、眉間に皺を寄せた銀ちゃんが私を教室の外へポイッと投げ出した。ちぇ、なにさ。結局人に頼らず自分の事は自分でなんとかしろってことかな。


夕日が差し込む廊下をとぼとぼと歩きながら自分の教室へと足を進める。この後鞄をとって部活に行って、あぁ、そろそろ部室も汚れが目立ち始めてるから掃除し始めないとな。


そんなことを悶々と考えながら、教室の扉を開けた。



「あっ、やっと帰ってきた。」

「あれ、沖田。」



そこには剣道着姿の沖田が椅子に座って待っていた。



「あれ、部活は?」

「凛華先輩が見当たらないんで探してやした。」

「つまりはサボリね。」



ああ、今頃いなくなった沖田に気づいた土方くんはカンカンに怒ってるだろうな。近藤くんか山崎くん辺りが必死に宥めているだろう。申し訳ない。



「それで?何か私に用があったの?」

「用っていうか、凛華先輩の様子を見に。」

「私の様子?」

「そ。凛華先輩の様子。」



そう言った沖田はゆっくりと立ち上がる。立ち上がった彼は座っていた時よりも威圧感があり思わず後ずさりをしてしまった。


しかしその行動がいけなかったのか沖田はジリジリと近づいてくる。嫌な汗が出始めた私もジリジリと後ずさりをする。心臓はバクバクと飛び出す勢いで鳴り始めた。


ついには背中が壁についてしまい、沖田は逃がすまいと手をついて私を覆った。ニコニコと笑う沖田から目を離すことができない。片方壁に肘をついたら先程よりも遥かに距離が近くなる。心臓は更に高鳴る。



「凛華先輩、逃げるだなんてひどいじゃあないですかィ。」

「いや、沖田があまりにも、その、威圧感があって。それに、近いし....っ。」

「ああ、だからこんなに顔が真っ赤なんですねィ。」



そっと頬を撫でられる。その撫でられ方が沖田とは思えないほど優しかった。それにびっくりして顔を上げるがやっぱり至近距離なので顔を背ける。


「凛華先輩は本当に可愛いですねィ。」

「っ。」

「こんなに顔を真っ赤にして、目も合わせず」

「ちょ、やめてっ。恥ずかし。」

「肩をふるふる震わせて。守ってあげたくなるような。」

「恥ずかしいってば!」



褒め言葉なのかなんなのかよくわからないが、とにかくそういう言葉をこの距離でこの雰囲気で言われると恥ずかしすぎて爆発してしまいそうだ。


火照てしまった顔を隠すように手で覆うが沖田の手によってそれを制される。



「ほらほらー。隠さないでちゃんと見してくだせェ。」

「見るな!もう馬鹿!阿呆!」

「....んなこと言ってると、」



そっと沖田の親指の腹が私の唇をなぞる様に移動する。それがあまりにもゆっくりしていて、熱っぽくて余計に心臓を高鳴らせた。


覚悟を決めてぎゅっと目を瞑る。


しかし降ってきたのは唇の感触ではなく、クスクスと少し控えめな笑い声だった。少子抜けて目を開ける。



「い、意識しすぎでしょ。くくく。」

「なっ....!!」



余裕そうに笑う沖田を見て、なんだかやられっぱなしの気しかしなくてものすごく悔しい。仕返しを、と思うが何もできないのがまた悔しい。



「凛華先輩、」

「なに?」



そう言うと、ニコリと沖田は微笑む。



「キス、されると思いやした?」

「お、思った...。」

「ドキドキしやしたか?」

「した...。」

「いやでしたかィ?」

「い、いやじゃ、なかった。」



正直に答えると沖田は目を丸くしたが、すぐに微笑んだ。


私は今まで下げていた顔を少し上げた。それを待っていたかのように沖田はまた口を開いた。



「ほら、もう俺のこと好きでしょう?」

「...悔しいけど、好きみたい、です。」



潔く負けを認めた私に降りかかってきたのは手に絡まるごつい手と額に優しく暖かい感触だった。そして彼は少し離れて「俺の完全勝利ですねィ」とドヤ顔で私を見た。それがなんとも悔しいが負けたのは事実なので何も言えない。



「凛華先輩。」

「なんですか。」

「凛華先輩、好き。」

「ちょ、そんな改まって言わないで!恥ずかしいから!」

「先輩、好き、好き、大好きでさァ。」

「ああ耳元で言わないの!もう!」

「いやー、嬉しすぎてねィ。」



好き、好き、好き。耳元に響く小悪魔の囁きにまだ慣れていない私は耳を塞ぐことしかできないのがまた悔しい。栓が抜けたように彼は囁く。



「凛華先輩。」

「もう、今度はなんですか小悪魔くん。」

「今からみんなに報告に行きやしょう。」

「は!?みんなって!!?」

「剣道部。自慢しやしょう。ほら、鞄持って。」

「えっ、ちょ、なんでわざわざ!ちょっと沖田!」



鞄を持って廊下で待っている沖田を追いかける。すると差し伸べられた手。それを私は迷いもせず手に取る。沖田も離すまいとしっかりと指を絡め握り締める。


走るその姿は今まで見たことのない角度からで今までないくらいキラキラ輝いている表情で、その姿を発見できた今心臓は鳴り止まないようでして。


どうやら私はこの小悪魔に心臓を持っていかれたようです。







小悪魔くん



「つーわけで先輩は俺のモンになりやした。」

「それじゃあ意味分かんねェよ!!つかお前らは部活サボっていちゃいちゃしてたってか!!」

「聞きやすか。そん時の凛華先輩の可愛い表情といったら」

「だあああ!!いい加減にして!!」

「それにしても沖田さんよかったですね。部活入部してからずっと凛華先輩のこと気になってましたもんね。」

「え、そんな前からなの?」

「ザキ殺す。」




タイトル:「ほら、もう僕のことが好きでしょう?」


 
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