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「と、いうわけなんでさァ。」

「いや、どういうわけだよ。」



星が煌めく真夜中、俺の始末書を代わりにしていた土方さんと心地よさそうに姉御の夢を見ていた近藤さんを起こして客間に呼び出した。


ふたりには説明するより実際に見てもらった方が早いと思い、早速俺の拾った人間を見てもらった。ふたりはただ口をあんぐりと開けたままだった。



「説明も無しにこいつ見せられてもわかるわけねェだろ。」

「そこは感じとれよ、土方。」

「感じとれたら苦労してねーよ。つかなんで呼び捨て?ねえ、お前斬っていい?斬っていいよね?」

「近藤さん、こいつ巡回してたらそこらへんに落ちていました。」

「近藤さんにはきちんと説明すんだな!」



ぎゃあぎゃあと騒ぐ土方さんを無視して俺は近藤さんと向き合った。彼はうーんと唸り俺を見る。


そのこは誰だ?目がそう言っている。俺はそれに素直に答えた。



「彼女は姫路野凛華、歳は18歳。記憶喪失の可能性がありやす。」

「どうして、そう思うんだ?」

「...初めは攘夷志士だと疑っていやしたが、こいつの懐何も隠れてねェし丸腰なんでさァ。それに人の言葉を簡単に信用する馬鹿だから間違いなくありえやせん。」

「ばっ、馬鹿って...!」



そこで初めて彼女が言葉を発した。キョトンと近藤さんは彼女を見てガハハと大声で笑い出す。その笑い声に彼女はビクリと肩を震わす。



「こりゃぁ、相当気に入られてるなお嬢ちゃん!」

「え、え、え?」

「近藤さん、こいつかなりおもしれーんでィ。」

「お、おもしろい...?」

「そうかそうか!よかったな総悟!」

「へィ。」

「??」



何がなんだかわからない、そんな彼女の顔がまた面白い。こりゃあ弄りがいがあるな。いい玩具を見つけた。



「まあ、記憶喪失の疑いがあるんなら保護しなくてはならないな。」

「しかし近藤さん、もしもの場合があるぞ。もしもこいつが...」

「さっき疑いの話をしただろーが、土方コノヤロー。」

「万が一の場合だ、総悟コノヤロー。」



くそ、とイライラした表情を見せた土方さんは手元にある煙草を手に取り火をつける。ちっ、煙臭くってかなわねーや。


その時たまたま目に入った凛華、彼女は土方さんのその姿をじっと見ていた。



「...煙草苦手か?」

「いえ、浮遊する煙を見ていただけです。」

「は?」

「ふわふわと浮かんでいって、跡形も無く消えていく煙を見ていたんです。」

「...あぁ、そう、か......?」



やはりこいつは面白い。天然なのかはたまたドがつくほどの馬鹿なのか、ほわほわした生き方しかしてねーのか。本当、面白いやつだ。見ていて飽きない。



「とにかく保護という形で上には報告しておく。総悟、書類よろしくな。」

「だってよ、土方。」

「いやいや、頼まれたのお前。つか斬っていい?すごく腹立つから斬っていいよね?」

「さぁ、凛華行きやしょう。土方が暴れる前に。」

「まだ話終わってないんだけどォォォォ!!てか原因お前だから。」



なーんにも聞こえやせん、片耳を塞いで凛華の手を取り部屋を出ていった。



「いやいや待て。こいつどこで寝かせる気?」

「部屋が空いてないんでィ。俺の部屋しかねェだろ。」

「なに堂々と言ってんのこいつ。お前狼になるだろ。」

「そこまで俺ァ飢えてやせん。俺の部屋を貸してやるんでさァ。」

「...ならいいけど。」

「じゃあ、失礼しやす。」



スパンと障子を閉め大股で歩いていく。後ろの彼女は腕を掴まれながら走っている状態だ。ちらっと見ると追いつくのに精一杯の顔。最高にたまらない。


そして俺の部屋までたどり着き荒々しく障子を開け、彼女を無理矢理中に入れた。彼女はコケないよう必死に体のバランスをとった。


そこで押してコケさせても見たかったが、まあまた今度でもいいや。



「ここが俺の部屋でさァ。」

「は、はい。」



凛華はキョロキョロと辺りを見回し、隅の方でちょこんと縮こまるように正座した。



「なんでそんな隅なんでィ。もう少しこっち来なせェ。」

「な、なんか、申し訳なくて。」

「なんでィ、さっきまで保護っていいねとか言ってた癖に。」

「とりあえず泊まれる場所探してたからね。」

「だからってむさ苦しい真選組に来るのも面白れェがな。」

「まあ、ここには沖田もいるし。」

「俺ァ随分信用されてんな。」

「わたしの記憶の中では一番新しい人で、今のわたしに居場所を与えてくれた人だもん。」

「...変なやつ。」



やっぱこいつ変なやつ。いや、面白いやつに訂正しておいてやろう。


もし俺が今ここでこいつのことを襲ったらこいつは裏切られたと歪んだ顔をして俺を睨みつけるのだろうか、それはそれで面白い。


が、やっぱり今日は疲れたからそんな体力すら残ってない。全く夜中に人騒がせなやつだ。



「おい、お前畳の上で寝ろよ。俺の布団で、」



そう言いかけて後ろを振り向いた時だった。既に敷かれている布団の上でスヤスヤと心地よさそうに眠るのは人騒がせなやつ。


ったく、こいつはどこまでも人騒がせなやつでィ。


しかし今回の俺は優しさというものがあったらしい。彼女を抱き上げ足で布団を捲りその中に彼女を入れるなんて優しさを発揮した。


そんな優しさを今しているとも知らずに彼女はスヤスヤと眠っている。それが憎たらしくて鼻を摘むと「ふぎゅ」と間抜けな声が出ると同時に笑いが出る。



「おやすみ。」



そういうと、彼女の瞳から一筋の涙が零れ落ちた。







彼女の居場所



その涙を親指で掬い取り、彼女の頭を撫でる。

するとまた、彼女から一筋の涙が零れ落ちた。



 
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