( 1/1 ) 日本には春夏秋冬がある。その四季折々で楽しむ行事やら景色などがある。その代表の一つと知られているのが「桜」である。 桜は日本人だけでなく外国人にも人気で、桜を見るだけに訪れる観光客も少なくはない。しかしその桜は年に一度、様々な条件が揃っていないと咲かない繊細な花である。 ここ歌舞伎町にも桜の木はいくつもある。そのひとつにでかいが桜が少ししか咲かないことで有名な木がある。図体はでかい癖して実が少ししかならずあまり人気ではないらしい。その木で花見をしようとする者は誰もいなかった。 そんな木の下に俺はいる。昨日もいた。さらに言えば一ヶ月前もいた。 あれから何年も満月を見て、この木になる桜を眺めてきた。噂通りこの木には桜が少ししかならない。だが愛おしい。 俺は身体も頭の中も大人になり、彼女と過ごした日々を今や思い出として時々思い出している。若い俺の行動を思い出すと色々恥ずかしくてままならない。 今凛華はどこにいて、何をしているか全くわからない。電波なんてもので連絡を取れる圏内にいるわけもなく、ただこうして最後交わした約束を信じて昔も今も待ち続けている。 よくもまあ、俺も待っておけれるなと思う。 寝転がっていた体を起こし、少し高いこの位置から歌舞伎町を見る。そこからは桜の並木道の方がぼんやりと明るく楽しそうな歌声や笑い声が聞こえてくる。今頃真選組の奴らもあっちにいるに違いない。楽しそうだな、と羨ましく思う。 「そんなこともあろうかとっ!」 ドンッと効果音と共に出てきたのは「鬼嫁」と力強く書かれた瓶。中は勿論鬼嫁という酒だ。これは俺の中で一位二位を争うほど好きな酒である。 それをお猪口に入れクイッと飲む。喉が焼けそうなこの感じがまたなんとも堪らない。 「……おーい、凛華ー。」 結構待ち続けたほうだと思うがな。そろそろ出てきてもいい頃じゃねェの。まだあんなことやそんなことしてないし、いちゃいちゃしたりねェし抱き締め足りもしねェ。何もかも足りない、凛華不足。 土方さんに一度言われたことがある。「もう捨てられたのではないか」と。まあ有り得ないことでもねェが、確証はないがそれはないわと否定してきた。呆れて溜め息吐いてた姿がまた面白かった。 もしかしたらもう戻ってこないかもしれない。そう思ったがそれはそれでもういいかもしれないと思う反面、昔の凛華の姿を追いかけている自分もいる。随分ゾッコンのようだ。 そういえばあいつがこっちに戻ってきたらこのお酒一緒に飲めるんじゃねェの。いいな、酒を一緒に交わすのは。 その時、ひらりと桜の花びらが1枚お猪口に入る。 「あらら、珍しいこともあるもんでィ。」 「本当ね。」 その声に一時停止した。 「こんな小さなお猪口の中に入るなんて珍しいこと他ないわね。」 再び聞こえるその声に今度は笑いが込み上げてきた。 そしてゆっくりと後ろを振り向くとそこにいるのは、少し大人びた彼女の姿があった。笑っている姿は会った時の寂しそうな感じではなく、物事をやり遂げスッキリした笑顔に変わっていた。 「ご一緒してもいいかしら。」 「どうぞ。そのために酒を温めておいたからねィ。」 「あら、それは楽しみね。」 クスクス笑う凛華のお猪口にトクトクとお酒を注いでいく。 「凛華、おかえり。」 「ただいま、待たせてごめんなさい。」 「本当でィ。これから覚悟しとけよ。」 「勿論、腹を括ってきたわ。」 「ははっ!」 「それじゃあ、再会を祝して?」 「「乾杯!!」」 桜三月木の下 桜の木の下、再び空を眺める。 そこにあったのは満月ではなく少しかけた月。 これからその欠けた月の部分をこいつと一緒に探していこう。 桜三月、空の下で。 |