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月が照らされる頃、笑いながらボロボロ涙を流す凛華を訳がわからずそっと抱きしめた。


ここ数日考えていたことを全部口にしてスッキリして、凛華に自覚してもらおうとただそう思っていたのにこいつの問題はそんな簡単なものじゃなくて。俺は考えを口にしたことに後悔した。



「私、誰かに愛されたかったの。」



そうボソリつぶやく凛華の声に耳を傾けた。相槌を打たず、ただ静かにその言葉に耳を傾ける。



「私ね、愛情とか好きとか受け取ったことなくって。それがどんなものかもわからなかった。それが、こんなにも暖かくて痛くて、でも嬉しくて幸せで。」

「…………。」

「これが、好き、なんだね。沖田。」



顔を上げて再び笑う彼女。その顔を見てやっぱり今言ったこと撤回。直接言ってよかった。安堵の溜息が出る。



「沖田。」

「うん?」

「ありがとう、好きでいてくれて。」

「どういたしまして。待ちくたびれやした。」

「でもほんの少しだよ?」

「それでもすっげー長く感じた。」

「確かに。時間がすぎるの遅そう。」



そう言って艶っぽく息を吐く彼女に欲情する。頑張れ、俺。ここを耐えてこそ真の男。誠の男。俺は決して涎を垂らしてモノを喰らう意地汚い狼ではない。





















「ねえ、散歩しない?」



彼女のその言葉に救われる。俺は快く受け満月の出る夜の道を歩いていった。足元は月光に照らされ歩きやすい。


ただ適当に歩いているつもりだった。でもまるで誘導されたみたいに感じるのは気の所為だろうか。気づけば俺たちが最初に出会った場所にいた。


桜が咲くにはもう少し時間がいりそうだ。



「最近のことなのにもう随分昔のことのように感じられるね。」

「確かにねィ。あん時はびびりやした。」

「私もびっくりした。目の前に人が居たんだもん。」

「そりゃあこっちの台詞でィ。」

「私達同じこと考えていたのね。」



どちらが言うこともなくその場に座る。なんとなくわかっていることを言葉にせず、ただその時が来るまで手を繋いでいた。


ふと空に浮かぶ月を見る。今日は残念ながら満月を見ることができなかった。相変わらずは三日月は中途半端で好きじゃない。おかしな形をしている。



「今日の月は欠けてるね。」

「ああ。」

「肌寒いや。」

「ああ。」

「……ねえ、」

「わかってる。」



今の俺は笑えているだろうか。ちょっと眉間に力入れてるけどそこは勘弁してくれィ。これが笑顔ってやつの精一杯だから。



「私、やるべき事あっちに置いて行っちゃった。」

「……。」

「帰らなきゃって。気持ち気づいた時に思ったんだ。」

「そっかィ……。」



やっと気持ちに分かり合えたのにこうして切り離す運命を持ち合わせた俺は可哀想ってやつか。我ながら苦悩な運命の道筋ってやつを辿っているのだなと思った。


スクッと彼女は立ち上がるとまだ実のついていない桜の木の下へと歩いていく。俺はそれについて行かずそのばかり見守っていた。


彼女が振り向く。



「今度は、あの欠けた月が埋まるといいな。」

「おう。」

「ありがとう、沖田。」

「おう、元気でな。」

「また、ここに戻ってきたいなぁ。」

「その前にやるべきことちゃんとしろィ。」

「……うんっ!」



馬鹿。涙ぐむなって。辛いのは一緒なんだから。


ザアッと少しずつ風が強くなってくる。俺はそれがどう言う意味なのかわかっていた。だから一瞬も目を離すまいと瞬きすらも惜しんだ。


すると凛華は指で自分の足元を指さす。



「どうした?」

「満月の夜、」

ザアアアッ



段々風は強くなり、瞬きの回数が増える。



「桜が咲く頃に。」

ザアアアアッ

「っ、凛華!!」



視界が少しずつピンク色の花びらに染まっていく。それに埋まっていく凛華の名前を必死に叫び続けた。



「また、会いましょう。」



ザアアッと音と共に視界はピンク色に染まり、耳は風の音に支配された。







いつか、その日まで



別れ際に交わされた約束を胸に

青年はその場を立ち去った。



 
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