( 1/1 ) 最近見なくなったな、あの夢。 そうぼんやり思い始めたのはつい最近のこと。多分あの夢ってやつに原因があるんだと思う。あの夢はずっと私が責められてて居心地のいいもんじゃないから見ないだけマシだと思う。 だけど、その夢を見てないと私は何か大切なことを忘れてしまうんじゃないかって不安にもなる。体の底から湧き上がる黒い何かを隠そうと必死に蹲る。 これはもしかしたら忠告なのかもしれない。神様か何かの。現実を見ろってね。 「現実、ね……。」 またあの日々へ帰れというのか。毎日責められいなくなれと言われ、存在意義もわかんなくなって、それで、それで。 「凛華ー。失礼しやーす。」 「あ、沖田……。」 いいよとも言ってないのに障子を開ける沖田に呆れて溜息を吐く。こいつは私が誰かを求めてるときに必ず傍にいる厄介者。喜んでいいのかよくわからない。 「沖田、どうしたの?」 「遊びに来やした。」 「そう。」 そう言って蹲る私の背中に寄りかかるように座る。背中から伝わる暖かい温もりが優しくて涙が出そうだった。ただ暖かいだけなのにどうしてこう涙ぐむのだろう。 「凛華。」 「なに。」 「これから話すことは俺の予測なんで、まあ、聞き流してもらっても構わねェ。」 「う、うん……。」 突然何を言い出すのだろう。もしかしたら何か大切なことを言うかもしれないと私の体は無意識に強ばっていく。強ばったことに気付いた沖田は「リラックス」と軽く笑って、言った。 「単刀直入に言う。凛華ってここの人間じゃねェだろ?」 「……。」 「俺はふたつの世界があるとかそんなん知らねェし信じてるつもりもねェが恐らく凛華は違うどこかからきた人間だ。」 「違う世界からねェ。どうしてそう思うの?」 「物的な証拠は住民票。あとは憾だけど雰囲気。独特だし。ま、そこに惹かれたけど。」 「そういうことサラッと言わないでよ。恥ずかしい。」 沖田の言葉ひとつひとつに不安ではない感情がじわじわと溢れ出す。溢れ出ていく度にドクドクと心臓は高鳴り始める。それを少しでも抑えようとぐっと心臓の部分を掴んだ。 「顔赤い。」 どくんっ、再び心臓が大きく高鳴る。顔を近づけてニヤリと笑う沖田に私は少し後ずさりをした。が、叶わず腰を持たれ引き寄せられる。 「これもまた俺の予測。」 どくり、今度は不気味な音で心臓が鳴った。 「凛華、愛情を知らないんじゃねェの?」 その言葉に思わず「え」と言う言葉が出てきた。愛情、愛情、その言葉を頭の中で繰り返す。愛情、愛情、愛情。愛情? 「愛情…………。」 「お前はこの気持ちが何なのかわからないって言ってた。それは普通の人間が気持ちが混乱しててわかんないのじゃなくて、それを味わってないからわかんないんだろ。」 「じゃあ、私はその、」 「簡単に言えばな、好きってことがわかんなかったんだよ。」 愛情?好き?わたしの頭は混乱していくばかり。沖田に言われた言葉がぐるぐる回り頭が痛くなる。つまりどういうことなの? 「ごめん、もう俺待てそうにない。」 少し申し訳なさそうに笑うと沖田は逞しい腕で私を引き寄せた。沖田との距離がゼロセンチになる。 「そういえば、ちゃんと言ったことないよな。」 「なにを?」 「ナニを。」 バッと体を離し、私達は正面を向いた。綺麗な瞳と目が合う。いつも聞こえてこない呼吸音がはっきりと聞こえてくる。 そして艶やかな唇がそっと開いた。 「俺は、凛華のことが好きだ。」 その瞬間、体の底に溜まっていた何かがブワッと勢いを増して溢れ出てきた。 「やめて、お願い、やめて。」 「愛して、私を愛してよ。」 「嫌いにならないで、何でもするから。」 「名前を読んで。抱きしめて。」 「私の目を見て愛してるって、言ってよ。」 「大好きだよって。」 思い出したくもない過去が頭の中に流れ出し、ひとつひとつの場面に私の声が聞こえる。それはどれも「愛情」を求める、「愛情」に飢えている子供の叫び声だった。 そういえば、あの日も飛び出してあの大きな桜の木に出会って。それが妙に私と重なったように見えて仲間ができたように感じた。 お揃いだね、でもこんなお揃いいらないや。愛されたいね。誰かからお前は必要だよってそう言われる人間になりたいね。なれるかな。なれるのかな、そんなやつに。出会えるのかな。 そう思ったら目の前に、 「沖田、がいた……。」 私を愛してくれる人、見つけれた。 かくれんぼお終い 見付けた、見付けれた。 こんなにも近くにいたのに気付かなかった。 |