( 1/1 ) ピピピッ ポケットに入れていた通信機の音が鳴る。それを取り出し耳に近づけた。 「総悟、俺だ。」 「はいはい、繋がってやすよ。」 「密会に動きが見えた。奴らはどうやら裏口から逃げ出すらしい。」 「そう思って裏口に何人か回していやす。」 「そこは俺が率いる隊が行くから裏口にいけ。」 「へいへーい。」 ブッ、とキレる音と共に隊員と顔を合わせ裏口へ行けるルートへと歩き出した。周りの気配を探りながら慎重に移動していく。 ここは例の密会が行われているビル。そこに俺たちは潜んで大量検挙しようという作戦だ。指揮は土方。一番隊を率いて今回の仕事をしている。 裏口に近づくにつれ皆の息が乱れる。緊張しているのだろう。もしかしたらここで己の命が終わるかもしれないからな。そんな弱い気持ちを持ち続けたままじゃこの先生きていけねーですぜ。 「こちら一番隊。土方さん、裏口着きやした。」 「了解、もうすぐそっちに奴が行く。」 「へい、待機しときやす。」 裏口の奴らと合流し、息を潜めて扉から出るやつを待つ。目を光らせ扉を見つめる。 ギィィィッ カチャッ 扉の開く音と共に腰に差してある刀をゆっくり引き抜く。刀と鞘の擦る音が何とも心地の良い。俺はこの音が好きだ。 「き、貴様は!!!!」 「過激派攘夷志士、山岡松郎ですねィ?神妙にお縄につきなせェ。」 「くそっ!!真選組にバレていたとは!!」 スラリと刀を抜き、奴の後ろから大量の攘夷志士が出てくる。おいおい、こんな情報聞いてねーぞ。検挙する人数が増えちまったじゃねェか。この上なく面倒臭い。 「いけェェェェ!!!!」 奴さんのその言葉と同時に地面を蹴りあげた。 左上から振り上げられる刀を刀で受け止め払い、腹を一直線に斬る。バシュッと音がして男はスローモーションのように倒れていく。この光景も全て見慣れている俺は冷たい目でそれを横見する。 次に後ろから来た奴は蹴り上げ肩を一突き。雄叫びと共に刀がカランカランと地面に落ちる。男は肩を抱き必死に息をしていた。その後大量に塊となってきた奴らの中に俺は突っ込んでいき、 「死んじまいなァ。」 「ぐああああぁあっ!!!!」 致命傷にならない程度に皆一人残さず斬る。斬って数秒後、バタバタと俺の後ろで倒れていく攘夷志士共。暖かい血が頬につくのがわかった。それが気味悪くて袖で擦る。 ペロリと唇を舐め、腰を抜かしている奴に近づき刀を突きつける。男は情けないことにこの暗闇の中でもわかるほど顔を真っ青にし、口を金魚みたいにパクパクしている。 「観念しなせェ。」 奴は「鬼だ」と呟いた後、諦めたように静かに目を瞑った。 「.....はぁ。」 重たい足取りで自室まで歩き、血でベトベトになった隊服を脱ぎ捨てる。汚らしい攘夷志士の血がついたそれを俺は冷たい目で見た。 今回の仕事は案外簡単に事が終わった。もう少し手こずるはずだったが奴さんが馬鹿だったらしい。簡単に罠にハマってくれてこっちも楽に仕事ができた。 カチャッ 手元に置いていた刀が動いて鳴る。後で綺麗にしとかないといけない。そういえば手入れも中々できていなかったから今回ちゃんとしとかないとな。 そんなことを思っていると、障子の前から声がかかった。 「沖田、少しいい?」 「あー、入りなせェ。」 スーと障子が開き、月の光と入ってきたのは凛華だった。声だけでも良かったのが姿を見ると余計安心する。なんだろう、この安心感。 凛華は「失礼します」と言って顔をあげた時だった。ピシッとまるで石のように固まってしまった。 「どうしたんでィ。」 「お、沖田!ふ、ふ、服ぐらい着なさい!」 顔を真っ赤にして指をさす。改めて俺の姿を確認すると服をすべて脱いだのでパンツ一枚の姿だった。あぁ、道理で寒いと思った。 ちらりと凛華を見ると、俺と目を合わせる度にあちこちにと目が泳ぐ。頬を真っ赤にさせて落ち着かない様子だ。それが面白くて近づいてみる。 「凛華。」 「お、沖田!服ぐらい着なさい!」 「凛華ー。」 「やっ、ちょっと!?」 顔真っ赤にさせながら後退りする凛華を逃がす前と組み倒す。その瞬間に「あぁ、やばい」と頭の中で思った。 パンツ一枚の男が顔真っ赤にさせた女を無理矢理押し倒している。想像できることはひとつしかない。何か?ナニだろ。 「お、沖田....。離して。」 「んー....。」 「ねぇ、沖田!」 じっと凛華を見つめる。見つめた瞬間出ていた文句も次第に無くなり俺たちの間に無言が通る。 暫くすると凛華の体がカタカタと震え始める。あぁ、俺はまたこうやって怖い、鬼のような存在になっていくのか。修羅の道を歩むしかないのか。 一言謝って起き上がらせようとした、その時だった。 「!?」 何を血迷ったのか凛華が俺を引き寄せ、ぎゅっと抱き締め始めた。体が密着したことにより凛華の震えは更に伝わる。 俺が引き剥がそうと力を入れても凛華はそれを許さないとでもいうかのように背中に回した腕に力を入れた。 「おい、何の真似でィ。」 「わ、わかんない...。」 「は?」 「わかんないけど、こうでもしてないと沖田が消えていっちゃいそうで。」 そう言って腕に力を入れ、俺の首元に顔を埋めた。しばらくして首元に暖かいものを感じられる。一瞬でわかった、涙だ。 「なんで凛華が泣くんでィ。」 「わかんない、だけど怖いんだよ。すっごく怖い。」 「俺が怖いのかィ?」 そう言うとブンブンと首を振り、掠れた声でいった。 「沖田の何も映していない目が怖い。」 「......。」 「わたし頑張るから、だから.....。」 「凛華は充分頑張っていやす。」 突然の頑張ります宣言。よくわからないがこの仕事で何かあったのだろうか。俺は何も聞かないでいた。 体を起こしヒクヒク泣く凛華を俺の膝の上に乗せて背中をポンポンと叩く。これじゃあ俺がガキをあやしてるみてーだ。 「おー、よしよし。」 「ガ、ガキ扱いしないでよ。」 「こんなでっけーガキあやす俺ァ大変でさァ。」 「......ごめん。」 「別に。ところで何しに来たんでィ。」 「隊服とかあと着替えを持っていけって言われて...。」 「おう、悪ィな。」 凛華を下ろし、置いてある着替えを着た。その後ろで黙って凛華は血に濡れた隊服を掻き集める。 そして黙って出ていこうとする凛華。その腕を俺は掴んだ。 「ひとりで溜め込むな。俺がいるから。」 「う、うん。ありがとう。」 一瞬驚いていたがふにゃっとした笑顔に戻り縁側を歩いていった。その後ろ姿が無くなるまで見て、自室に戻り倒れ込む。 ゴロンっと仰向けになり何もない天井を見た。 「沖田の何も映していない目が怖い。」 「何も映していない目、ねィ。」 そっと目の前を覆ってみるが、当然視界全体が真っ暗になるだけ。ただ、それだけ。 「......はぁ。」 さっきまで温もりのあった手を見つめ、拳を作る。 もう一度、あの温もりに触れたい。 映すものは修羅と 目の前を映すのは己の修羅の道と 依存症の高い温もりを持った、キミだけ。 |