( 1/1 ) 「目をつけていたビルに突入しようと思っている。」 そう近藤さんが話すと周りはしんっと静かになり視線を近藤さんに集中させる。昼間だというのに隊長はひとつの部屋に集められそう告げられる。 皆何も言わない。近々こうなることはわかっていたから別に驚きもしない。あぁ、ついにきたか。そのぐらいの認識。 資料を一枚、二枚と捲り近藤さんは更に話を進めていく。 「決行は遅くても明日の夜。たった今密会を行っていると山崎の方から連絡が入った。」 「何番隊が出るんですかィ?」 「相手は過激派だ。ここは一番隊に出てもらう。」 「指揮は?」 「トシにとってもらうことにした。」 「ちっ、またか。」 「またかってどういうことだ総悟。」 「そのまんまの意味でさァ、土方コノヤロー。」 罵声を浴びさせる土方さんを近藤さんがなんとか止め、話を進める。 「遅くても明日の夜とは言ったがもしかしたら今日の夜行くかもしれない。一番隊は準備してもらえるか。」 「わかりやした。何人ぐらい必要ですかィ?」 「15〜20人ぐらいで足りるだろ。」 「いや、土方暗殺部隊も含めてもう少し多めで...。」 「おいィィ!!どんな部隊作ってんのお前!?」 ひとり虚しく騒ぐ土方さんを無視し連れていく隊員を考えた。本当は実力のあるやつを連れて行ってちゃっちゃと済ませたいんだが、まあ人間何事も経験とか言うし新人も連れていくかねィ。足手纏いになるけどな。 足手纏いになるくらいなら斬る、一番隊にはそれを伝えている。そいつの足手纏いのせいで大勢が犠牲となって死ぬよりマシだと思っているからだ。それは皆理解してくれた。 真選組に入ったら最後戦場から死から抜け出すことはできない。いつも隣り合わせだ。それは心得てあの日ついていった。だから死ぬことは怖くない。だが簡単に死にやしない。己の限界まで生き抜く。それが俺だ。 「今回は一番隊だけ出てもらうことになっているがもしかしたら屯所にも被害が出るからもしれない。他の隊も気を引き締めておいてくれ。」 「「「うっす。」」」 「以上、解散だ。」 その言葉と共に腰を上げ、部屋を出ていく。薄っぺらい資料を片手に怠く重たい足を動かしながら寒い縁側を歩いていく。 歩く度にカチャカチャと鳴る腰にぶら下げている刀。俺はこの刀で一体何人もの命を奪っていっただろう。そんなこと考えてもわかりやしないのにふと考えてしまう。 その刀を愛刀として今日も明日もこれからも人を斬っていく。あぁ、汚れているってこういうことか。 「沖田....?」 手を太陽にかざしていた時後ろから声がかかる。振り返ると汚い俺とは対照的に真っ白で汚れを知らない綺麗な凛華がいた。 眩しく見えて目が眩む。お前はこんなにも眩しかったのか。俺もお前の目を見つめていたら少しぐらいは汚れってやつはとれるだろうか。見つめてみるがより一層俺の汚れは目立つ。 そんな俺に凛華は俺の頬にそっと触れた。 「顔色、悪いよ?」 「.....気のせいでさァ。」 「無理してない?」 「してない。」 「そっか。」 遠慮がちに頬から手を離し俺を見つめる。美しく真っ白な黒い瞳。汚れた俺の手でなんかでは触ることのできない美しい瞳だった。 「...綺麗だな。」 「綺麗?それは沖田のことかしら。」 「俺は汚ねェに決まってんだろ。この手で何人もの命を奪ってきたんだ。」 グッと拳を握る。資料がぐしゃりと音を立てて手の中で潰れる。それを冷たい目で見ていた。 「......さて、仕事に戻りやすかね。」 にこりと凛華に笑いかけ、横を通って行こうとした。俺は一体どうしてしまったのだろう、訳のわからないことを急に話し出して。凛華も困ったに違いない。 ひとりで悶々と考えていると、後ろから大きな声が聞こえた。 「沖田は沖田だよ!それ以外何者でもないよ!」 その言葉に目を開き凛華の方を見る。凛華は今にも泣きそうな顔で俺を見ていた。泣くのを必死に我慢して拳に力を入れて立っていた。 あぁ、見つけた。俺を見てくれる人。こいつの言葉ひとつで頬が、気持ちが緩んだ気がした。 俺は振り返らず片手を上げて、足を進めていく。先程より足取りは軽かった。 見失わないで 貴方は貴方、自分は自分。 そんなのわかりきっていたことだろう? だけど誰かに確認しないと不安で仕方がないんだ。 |