( 1/1 ) 記憶喪失の疑いがある凛華を保護して数日後、大江戸病院の方から医者に来てもらい凛華を診てもらうことになっていた。 俺らが保護しているのはあくまで記憶喪失のある凛華の居場所がわかるまで。それの捜査が進むのならなんだってやる。 ...はずだった。 「はーい、お嬢さん大丈夫ですよー。」 「ちょっと脳を開いて見せてもらうだけアルからなァ。」 「ひ、開く!?」 「って、違うでしょ!あ、大丈夫ですよー。す、すぐ終わりますからねー。」 「帰れ、万事屋。」 なんとその日に来たのは大江戸病院の方から来た医者なんかではなく、ふざけた医者の格好をした万事屋の旦那達だった。 まあこいつらはこんな日も暇していて実に羨ましい。おれなんて毎日毎日仕事ばかりで少しぐらいは休ませて欲しい、てことで死ね土方。 「なんでお前らが来てんだ!!医者はどうした医者は!!」 「あぁー?あの親父か?あいつなら病院のトイレで伸びてるぜ。」 「なんで伸びてんだ!大方お前らのせいだろ!」 「いやいや、あの爺が下痢してお腹痛い言うから治るようにお手伝いしただけアル。」 「どうやって手伝ったら爺が伸びんだ!馬鹿かお前らは!」 「あーん?馬鹿はお前だろ?多串くーん?」 「(ビキッ)てめ上等だ表でろゴラァァァ!!!」 全く、落ち着きもない野郎達だ。俺は凛華を後ろに下げバズーカを持ち、構えた。狙いは勿論日頃の恨みを込めてあいつに。 「お、沖田?」 「下がってろィ。怪我したくなかったらねィ。」 カチャッ 「死ね土方ァァァァァァ!!!」 「俺限定かよォォォォ!!?」 ドガァァァァン 「...で、仕方なくお前らが来たと。」 プスプスと頭の上から黒い煙を出しながら土方さんはぼそりと呟く。凛華は心配そうにみんなを見ていたが「こんぐらいではくたばらないから平気」と耳打ちするとホッと安心した。 安心するのもどうかと思うけどねィ。 「で、誰この可愛い子ちゃん。誘拐してきた?」 「んなわけねェだろ!総悟が拾ったんだよ。」 「え、総一郎くんの唾付き?」 「総悟です、旦那ァ。」 この旦那の記憶力は本当に恐ろしい。何年同じ連載していると思ってるんだ。そろそろ名前ぐらい覚えて欲しいねィ。 「名前なにアルカ!」 「え、えっと、凛華です。」 「わたし神楽ヨ!仲良くするヨロシ!」 「僕は志村新八です。この天パが坂田銀時です。」 「ぱっつぁん、もっとマシな紹介の仕方あったよね?」 「よ、よろしく、です。」 「ところで凛華さんはどこから来たんですか?」 「おーい、俺の話は無視かコノヤロー。」 志村の弟の話を聞いて凛華は「えっ」と少し戸惑っていた。それもそのはず。記憶喪失しているのだからどこから来たとかわからないだろう。 俺は隣に座っていた土方を押しのいて座り、凛華の代わりに答えた。 「こっちにも色々事情がありやしてね、これ以上聞きたいなら金とりまさァ。」 「総一郎くん、過保護だねェ。」 「そりゃあ、俺が拾ってきたんで責任持って世話しないと。」 「わ、わたし猫じゃない!」 「猫みたいなもんだろィ。」 ガーンと目に見れるほど驚いた彼女を見て俺は笑う。こいつのこういう顔面白いから好きだ。コロコロ表情変わるから見てて飽きない。 「とにかくお前らは帰れ。」 「へーへー、言われなくても帰りますよー。」 「こんな臭いところもう来たくないネ。」 「...(ビキッ)あぁ?」 「そそそそれでは失礼致します!凛華さんよかったら遊びに来てくださいね!」 そう言って志村の弟は凛華に「万事屋銀ちゃん」と書かれた名刺を渡し、さっさと出ていく。土方さんはあいつらがちゃんと出ていったか見張ってくると一言言って部屋を出ていった。 部屋には俺と凛華だけになった。 「...どうして言わなかったの?」 ぼそりとか細く呟く凛華にもう一度聞き返す。 「なにが?」 「どうしてわたしのこと庇ったの?素直に話したら楽なのに。」 「庇ってなんかねェ。ややこしいことになるだろィ、色々と。」 「.......。」 「それにそれは俺が話すことじゃねェ。あんたが話すことだろ?」 「......うん。」 「まあ、少しずつ思い出していけばいいんでさァ。焦らずゆっくり。」 「......沖田。」 なに、と俺のことを呼んだ隣にいる凛華の方を見た。彼女は俺の方を見てにこりと微笑む。 「ありがとう。」 「...あぁ。」 それはあの日見た悲しく儚い笑顔なんかではなく、心から溢れ出ている優しい笑顔だった。その笑顔に心を奪われた、といったらあいつはどんな顔をするのだろうか。 なんてことをひとりで考える。 「凛華、仕事戻らなくていいのかィ?」 「あ、そういえば!洗濯物まだ途中だった!」 やっば!みたいな顔をして凛華は障子を開け小走りに駆けていく。どうやら彼女の仕事は順調に進んでいたらしい。 その時少し後退し障子の隙間から俺を覗き一言。 「サボリも程々にね!」 「...心得ときまさァ。」 早く行きな、そう急かすと凛華は再び笑って障子の隙間からいなくなった。 数秒後、俺はその場にどさりと尻餅をつき溜息をひとつ。そして畳の上に寝転がり手を顔で覆った。何故かは察して欲しい。 「あの笑顔、反則でさァ。」 そう呟いた言葉は煙草の煙のように浮遊していつの間にか消えていく。消えていった後、目を静かに閉じれば再び蘇るあの笑顔。 あれ、俺もしかして、あいつに...。いやいやまだそう決めるのは早い。そうだ、猫に向ける愛情だと思えばまだわかるかもしれない。 なんて言い訳を頭の中で延々と考えていた昼時。 一目惚れなんて そんなまさかなことあるわけないだろィ。 この俺が、凛華に惚れてるなんて。 |