( 1/1 ) 「ーーーー!!」 「ーー!?ーー!!」 「んあ...?」 耳から煩いほどの雑音。それは今までにはないことで俺は何事だと薄ら目を開く。そして同時に激しい腰痛。思わず顔を顰める。 「スー、スー。」 「......そういえば、」 昨日こいつに俺様の布団を貸したから、仕方なく毛布一枚で畳の上で寝たんだっけ。だからあんな腰痛かったのか。 隣で気持ち良さそうに寝ている彼女を見て、笑いが出る。どうやらこいつには危機感というものがないらしい。普通男の人の部屋で寝るのなら多少の抵抗や遠慮はあるはずだ。それなのにこいつはグースカと気持ちよさそうに寝る。マイペースな女だ。 「ーーー!!!」 「!?ーー!」 外は未だに騒がしい。攘夷志士でも乗り込んできたのだろうか。そしたら迷惑な野郎だ。朝っぱらから暇な奴め。 ボリボリと乱れる髪を掻きながら、近くにある刀を手に取り俺は勢い良く振り向く障子を開ける。 ガラッ 「お、沖田隊長...。」 「おはよう、ございます...。」 「...なにやってんでィ。お前ら。」 どうやら屯所全体の騒ぎではないらしい。俺の障子の前だけであった。 そこにいたのは一番隊の何人か。パッと見た感じ知らないやつもいるから多分他の隊の奴らも混じっているのであろう。 彼らはオドオドしながら俺を見て答えた。 「い、いえ!自分は気にしてないんですがコイツが!」 「ばっ!いえ隊長!俺は別に!」 「嘘つけ!すげェ気にしてた癖に!」 「そ、そんなわけねェだろ!」 「...俺ァ朝から五月蝿くてイライラしてんでィ。さっさと答えなせェ。」 片手に持っていた刀からスラリと抜き、そいつらの首元に置く。すると「ひぃぃ」と間抜けな声を出しながらこいつらは口々に答えていく。 「い、いや!沖田隊長が、その、」 「お、女の方を部屋に招き入れたと聞いて!」 「その、少々興味がありまして...。」 あぁ、馬鹿だ。この一言が頭の中を埋め尽くした。今本気でこいつらのこと馬鹿だと思った。いや思うだろ普通。 「あいつのことかィ?あいつは昨日俺が拾って保護しただけでさァ。」 そう言って後ろのやつを指差すが彼らには見えるまい。俺が盾となって彼らの視界を塞いでいるから。 そんなことを知らずにどれだどれだと押し合いこするこいつらをみて尚更馬鹿だと思う。いや、阿呆の方が正しいかもしれない。 「わかったら早く逝け。カス共。」 彼らは顔を青ざめて「失礼致しました!」と一言投げて縁側を走っていった。俺はあんな奴らに起こされたのかと思うと腹立たしくて仕方ない。 後でザキを虐めてストレスを発散しよう。心の中でそう思っていたときだった。 「真選組の、方?」 鈴のような凛とした声が後ろから聞こえる。振り返ると清々しい顔をした凛華がうん、と背伸びをして起きていた。 「悪ィな、うちらの隊の奴らはまだ女に興味があったらしい。」 「男の人はいつだってそんなもんだよ。」 「まあ、ここは男所帯だからねィ。女とは縁が程遠いんでさァ。」 「...へー、そうなんだ。」 よいしょ、と起き上がりせっせと布団を畳む。そこに放り投げる俺とは違って彼女は端の方に寄せ俺に近づいてきた。 「お布団、ありがとう。」 「全くだ。おかげで俺は腰が痛ェ。」 「ごめんね、おかげで気持ちよく寝れたよ。」 「当たり前でィ。俺の布団だからねィ。」 彼女はもう一度「ありがとう」と言うと俺にお辞儀をして、近藤さんはどこか尋ねられた。 俺はここを真っ直ぐ言った所を左に曲がればそこが部屋だと伝えると、もう一度お礼を言いどこかへ消えた。 その走り去る後ろ姿がどこか昨日現れた桜の花びらと似ている気がする。さらさらと流れるように舞い突然消える儚い花弁。 立っているそこから空を見上げると雲ひとつない晴天。しかし春には程遠いい寒さの季節。寒い寒いと手を擦るととても暖かい。 春は、まだ遠い。 儚く、舞い散る 「女中として働く?」 「うん、せっかく置いてもらうからね。何かしないと落ち着かなくて。」 「ふーん、まあ頑張りなせェ。」 「ありがとう、頑張るね。」 |