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痛い。非常に痛い。
わたしは今、腿の筋肉痛に悩まされている。何故こんなに痛いほど筋肉痛になったというと、この前滅多に使わない筋肉を最大限に発揮し学校まで行ったからだ。
その時筋肉は悲鳴を上げていたにも関わらずわたしはそれを聞かないふりをして走り続けた。結果、後にこの痛みを味わうようになってしまった。なんてことだ。
「凛華。帰るぜィ。」
「......うん。」
そんな痛んでいる様子をニヤニヤと見て楽しんでいるのがわたしの彼氏、沖田総悟。今日は部活が休みらしく一緒に帰ることにした。
今日の朝も渋々自転車に乗せてもらったが、わざと砂利道を通って筋肉痛の腿に余計な刺激を与えられた。地味な苛めだが非常に悪どい。
まだギシギシと痛む腿を無理矢理動かし、夕日の指した教室を沖田と出る。
「まだ痛むのかィ?」
「おかげさまで。」
「いやいや、当然のことをしたまででィ。」
「今の嫌味込めて言ったんだけど。」
「誉め言葉にしか聞こえない。」
「耳腐ってるよー。」
校舎を出て自転車置き場へと向かう。
その時にふと思い出された教訓。その教訓が頭の中をぐるぐると回り喉へと行く。これは試すべきだ。
自転車置き場に辿り着き、奥に埋もれた自転車を沖田は顔をしかめながら(多分面倒くさいとか思ってる)周りの自転車を蹴飛ばしながら自分のを取り出す。
「ふぅ、取れた。」
ひと溜め息ついてあの自転車に跨がる。
「凛華行くぞー。」
「......沖田。」
「なんで......ィ。」
わたしは沖田のシャツをくいっと引っ張り、涙目で彼を見つめる。沖田はぎょっと驚いた顔をしたまま固まっていた。
「腿、痛い。」
「......泣くほど?」
「沖田が苛めたから。」
「お前が乗らねェって言ったんだろ。」
「本当に、置いてかれるとは思わなかった。」
ぐすっと鼻を鳴らせ下を向く。わたしの肩に乗せられた彼の手に力が入る。
「そんなに意地悪するんなら、嫌いになっちゃうよ...?」
そう、ここまでは全て作戦。その作戦もわたしが今実行している教訓のひとつ「嫌いになるよとほのめかしてみなさい」である。
わたしは沖田のことだ、だ、大好きだからそんなことは絶対言わないと思っていた。しかしいい加減沖田も苛めを懲りてほしい、その願いを込めて言った。
断じて本心じゃないから!!!
「......ふーん。」
そっとわたしの肩から手が離れる。その肩は寂しそうに小さく震えた。
その瞬間後悔した。わたしは今やってはいけないことをしてしまった。大好きな沖田をひどく傷つけてしまうことを平気に言ってしまった。
サァと血の気が引く。もしわたしが言われたら絶望どころではすまされない。
「お、沖田!ごめ、」
謝ろうと顔を上げた、次の瞬間だった。
「!」
ドアップになる彼の顔。焼けるほど熱い唇。重なる吐息。折れるんじゃないかってくらい力強く掴まれた肩。
気づいたら、キスをされていた。
「お、きっ...!」
「凛華。」
「は。く、くる、しっ。」
酸素を求めることすら許されないわたしは黙って沖田の吐く二酸化炭素を取り入れていた。酸素不足か頭はぼぅっとして体にも力が入らない。
「......はっ。」
やっと離れたお互いの唇。崩れ落ちそうになるわたしを支える彼。その時わたしはただただ肩を上下に揺らしていた。
自転車はカラカラと空回りしながら倒れている。沖田は自分の愛自転車よりもわたしを選んだ。そんな彼が口を開いた。
「お前が俺を嫌いになれるわけねーだろィ。」
「え......?」
「見てみろィ。」
指をさされたのは彼のシャツをしっかりと掴むわたしの手。もうしわくちゃになるんじゃないかってくらいしっかり掴んでいる。
「こんなに必死に掴んでんだ。離れるなんて無理だろィ。」
「わ、わかんないじゃん...。」
「お前、俺のこと大好きだろィ?」
「そ!そりゃー!そ、だけど...。なんでそんな確信があるの?」
わたしから離れ、倒れた自転車を立て直す沖田。わたしは夕日に照らされてなのかよくわからないが顔が真っ赤に違いない。見えなくてもわかる。
「そりゃ、俺もお前のこと大好きだからでさァ。」
久しぶりに、いやもしかしたら初めてかもしれない。彼からその言葉が聞けるだなんて思わなかったわたしはその場でフリーズしてしまった。フリーズが溶けたのは再び沖田が名前を呼んだとき。
どうやらわたしはこう見えても幸せ者らしい。
嘘でも無理です
「ねー、沖田。」
「あ?なんでィ。」
「......好きだよー。」
「......そこは大好きだろィ。」
「大好き。」
「はっ、知ってらァ。」
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