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「う、うぇぇ。ぐすっ。」

「......。」

「ひ、ひーん。」

「......はぁ。」



鼻から垂れる液を頑張って外に出さないよう、音を立てながら吸う。目には溢れんばかりの涙。もうすぐで溢れだしそうなのを流さないよう袖の裾で拭う。


俺はそれを隣で見て、ひと溜息ついた。


彼女はどうやらテストで散々な点数をとってきたらしい。まあ、それも自業自得だ。


こいつは特別に頭がいいわけでもない。寧ろ下から数えるほうが早いくらいだ。


そんなやつが今回のテスト何に浮かれていたのか、ノー勉というなんとも恐ろしい挑戦をしたものだ。


まあ、結果は察した通りで。しかも今回は恐ろしいことに銀八に呼び出され恐ろしい量の課題を出されたという。一体どんな点数をとってきたんだ。


今日は試験明けで部活は休みだったので一緒に帰ることになったが、ずっと半泣きの状態。まあ、自業自得だから慰めるとかは考えていない。



「...ったく、いつまでも泣くな。」

「う、うん。」



返事をしつつも下を向いては肩を震わす。その時見た肩は華奢で少しでも力を入れたら壊れそうな程だ。



「あのよォ、どんだけテスト悪かったんだよ。そんな泣くぐらいなら最初からやれ、馬鹿。」



そう言ったあと凛華の顔を伺うと、曇っていた。ひどくショックを受けた、そんな顔をしていた。


その顔を見て、さすがに言い過ぎたと思った時はもう遅かった。凛華は下を俯き、また肩を震わせた。



「ふふっ...。」

「は?」



俺の隣から漏れた声は嗚咽なんかではなく、笑い声だった。



「あははは!違うよトシー!」

「は、はあ!?」



さっきまでボロボロと泣いていたやつは大声を出して笑っていた。こいつは表情がコロコロと変わる忙しいやつだ。



「試験なんかどうでもよかったの。逆に課題で済まされてよかったって思うくらい。」

「じゃあ、なんで...。」

「だ、だって...。」



ボロッとまた出てくる。なんなんだこいつは一体。



「え?え?なんだよ!?」

「ト、トシがさ。」

「あ?俺?」

「し、試合負けちゃったから。」

「......あぁ、あれか。」



そうあれは試験のちょうど2日前。それほどでかい大会でもわけないが油断をしているつもりもなかった。


あと一本、あと一歩というところで隙を相手につかれやられてしまった。相手も仲間も俺も意外な出来事だった。


あの後近藤さんにも「気にするな」とは言われたがさすがに1日は引きずった。引きずったところで何もないことはわかっているが気持ちが切り替えることは出来なかった。


だがこいつは何日も何日も引きずっているらしい。



「気にすんな、何もお前が泣くことじゃねーだろ。」

「......違うの、わたしがトシのかわりに泣いているの。」

「お、俺のため?」

「そう...。ぐすっ。」



顔をあげた凛華は目や鼻を真っ赤にして涙目で俺を見上げた。それが俺の何かを擽ることをこいつは知りもしない。



「ったく、それで試験も集中できなかったってわけか。」

「べ、別に。ただ、トシの涙がわたしのところまできて!」

「俺を使っていい訳か。」

「ち、違うもんっ......!」



ぐすっとまた鼻を啜り上げる。その姿を見て、自然と口角が上がる。



「な、なんで笑ってんのよ。」

「...いーや、別になんでもねェ。」



睨みあげる凛華の留守の右手を握る。電気が走ったように凛華は飛び上がったが俺は気づかないふり。


魚みたいに口をパクパクさせて混乱する凛華を引き寄せ、そっと呟いた。



「ありがとな。」



声にならない返事をしつつ、夕日の道を歩いていった。







泣いた時は優しくあやしてください



「トシってさ、」

「あ?」

「......むかつく。」

「は?なんで?」

「一枚上手な感じがして。」

「そりゃお前が馬鹿だからだろ。」

「!?」



 
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