( 1/1 ) ない、ない、ない。どこにもない。 「......近藤さん。」 「どうしたトシ?」 「俺の剣道着、知らねーか。」 「剣道着?持って帰っていなかったか?」 「あ、あぁ。それをここに置いていたはずなんだが。」 汗でべたべたになった剣道着を家に持って帰り母さんに無理を言って洗わせたのはつい昨日。そしてそれを持ってきたのは今日のことだ。 「俺は知らんな...。総悟!!トシの剣道着知りないか!?」 近藤さんは少し遠くにいた総悟に問うが、彼は静かに首を振る。 「もしかしたら教室に忘れてるかもしんねー。」 とってくる、そう一言いって剣道場の更衣室を出た。 廊下を歩いているとき、どこにやったかと自分に問うが勿論返ってこない。一体俺はどこにやったのだろう。 ガラッ 教室のドアを開け、自分の机に近づく。横には掛かっていない。もしかして机の中か...? 「いやいやいや、入んねーし。」 だが確認することは悪いことじゃない。疑いつつもそっと机の中を覗いた。 「......?んだ、コレ。」 いつも教科書を持って帰る俺の机の中には何もないはず。はずなのに、一枚の紙が入っていた。 きっと何かのプリントを取り忘れたのだろう、そう思って取ったら明らかに違っていた。 「B校舎2階...?」 手のひらより少しでかい紙、その紙に「B校舎2階」としか書かれておらずその他は書かれていない。 俺はそのときピンと閃いた。これはきっと剣道着を隠した奴からの挑戦状に違いないと。 「受けてたとうじゃねェか。」 紙をギリギリと握り潰し、教室から駆け出した。俺の後ろでクスクス笑うやつに気づかないまま。 「ぜぇ、はぁ。」 あれから俺は色々なところを走り回っている。いや、走り回されている。それもこれも全てあの紙のせいだ。 あれからB校舎2階に行くと階段のところに紙が張っており、そこがまた新たな場所を示していた。また新たな場所に行くとまたまた指示が書いてあってと、繰り返されていた。 その繰り返す中、バケツが何個も転がってきたり丸まった紙を投げつけられたりついさっきなんか潰れたマヨネーズを見せられた。絶対許さねー。 「それにしても、なんかいいように転がされている気が...。」 いや、気のせいだ。俺は絶対に転がされてなんかいない、うん。 ぶつぶつ唱えながら再び向かった先は教室。しかも俺のクラスだ。 犯人もだいぶ予想がついてきた。あんなハードルの低いことをするのはコイツしかいねーしな。 ガラッと虚しい音を立てて開くドア。その先にいるやつを睨んだ。 「あ、トシ。遅いよー。」 そこには俺の机の上に座ってにこにこしている凛華がいた。手には大切そうに抱える剣道着。勿論、俺のだ。 「やっぱり凛華か。」 「え!?なんでバレたの!?」 「あんなハードル低い悪戯でわかるっつーの。」 「ええええ!?でも沖田くんにも手伝ってもらったよ!?」 あぁ、なるほど。マヨネーズ潰すとか精神的なダメージを受けさせるようなことしやがったんだな。あのやろー、絶対許さねー。 「ったく、お前も月1程度の悪戯すんな。」 「えー。」 「えー、じゃねェ。」 「でもー。」 「言い訳すんな。こっちは困ってんだっつーの。」 凛華の腕の中にある剣道着を乱暴にとり、凛華を置いて教室を出ようと歩き出したときだった。 「構ってほしかったのになァ。」 ......だから毎回毎回そういうこと言うなよ!可愛すぎじゃねーか!!!だから毎回毎回俺は、 「部活、終わったら校門集合な。」 俺は凛華の歓喜の声を聞こえないふりで教室を出ていった。 悪戯には注意してください 「凛華ー。作戦うまく行きやしたかァ。」 「うん!沖田くんのおかげだよ!ありがとう!」 「......そんじゃ、協力した代わりに。(ニヤリ)」 「勿論!トシの弱いところ教えるよ(ニヤリ)」 |