( 1/1 ) キーンコーンカーンコーン 「はーい、じゃあ今日はここまでェ。」 学校全体に響くチャイムと共に相変わらず怠そうな声で授業の終わりを知らせる銀髪。俺はひとつ欠伸して日直の号令で席を立ち挨拶をする。 「ちょっと多串くーん。君挨拶に気持ちがこもってない。」 「こめてねーし。」 「あ、教師に向かってそんなこと言うんだ。単位落とすぞコノヤロー。」 「あの点数で単位落とすアホがいるか。」 「やろうと思えばやれる男だよ俺は。」 「職権乱用。」 「理屈男。」 「本当のことを言ってるだけだろ。」 こいつのいうことは大半がジョークなので軽く受け止めずに流す。誰がこんなやつの言うことを受け止めたりするか。ティッシュにくるんでゴミ箱に放り投げてやる。 時計に目をやる。針は4時限目の終わり、つまり昼休憩の時間を指していた。 確かに腹が減った。胃も空っぽだから何かくれと絞り出すように叫んでいる。仕方がない。俺は銀髪に背を向け席へと戻り鞄を持った。 「お、トシ!どっか行くのか?」 売店で何かを買ってきた帰りらしい近藤さんと総悟がいた。両手にはたくさんのパンとパンとパンと...。とにかくパンばかり。そんなふたりに俺は言った。 「あぁ、いつもんとこ。」 「いつもんとこ...?あ!なるほど!」 「あんまりいちゃいちゃしねェでくだせェよ。ついでに死ね土方。」 「聞こえてんだよ!お前が死ね!」 くそ、あいつは一体何が言いてーんだ。俺は廊下を蹴った。 「トシおそーい。」 学校内にある庭のベンチへ行くと凛華は既に弁当を広げもぐもぐと口を動かしていた。どうやら待ちきれなくなり先に食べていたらしい。 「銀髪に捕まってた。」 息を整え、凛華の隣へと座る。そして弁当を広げる。今日もやはりマヨネーズ尽くしだ。自分の母ながらマヨラーの気持ちをわかってくれるとは。 そのマヨネーズの塊を口へと運んでいった。 「また銀ちゃんに?銀ちゃんトシのこと好きだよね。」 「やめろよ、気色悪ィ!」 「えー、なんならもっと言おうかな。」 「それ以上言ったら卵焼きもらうぞ。」 「だ、だめ!わたしの卵焼き!」 卵焼きが大好物な彼女はそれを守ろうと必死に弁当を俺から遠ざける。その姿が意地汚く、けど面白く可愛らしくもあった。 彼女は大好物な物は最後までとっておく方である。始めに嫌いなものから食べて大好物なものは最後にゆっくり味わって食べる。昔から変わらない。 「んーっ!おいしーっ!」 もぐもぐと幸せそうに食べる彼女を見て、笑う。 「え、なに?なんか可笑しい?」 「ククッ、お前ェ。アホだ。」 「あ、あほじゃないもん!」 「いや、アホ......バカか。」 「バカじゃないもん!もう!」 わけがわからなそうにする彼女の頬にそっと手を伸ばす。添えた瞬間彼女の肩は電気が走ったかのようにビクリと震え強ばった。 「え、あ...っと!?」 「ついてる。」 いつの間についたのだろう、彼女の頬には小さな米粒がひとつ。それを親指で乱暴にとる。 俺を笑わせていたそれはいとも簡単にとれ、親指にひっつく。それを凛華の前へと持っていった。 「おら。ついてた。」 「え、嘘!米粒ついてた?恥ずかしい!」 きゃあああ、と顔を真っ赤にさせてじたばたとその場で暴れる。 「ったく、ゆっくり食べろよ。」 馬鹿だなこいつ、ぱくりと指についた米を食べた。 その刹那、隣からびっくりするほどの視線を感じた。びっくりした俺は視線を感じた方を見ると先程よりも顔を真っ赤にさせた凛華が固まっていた。 「な、なんだよ...。」 「いいいい今、な、なにした?」 「は?」 「今何したの!?」 「や、別に、米を食べただけだろ。」 もしかして食べたかったとか?この米粒がひとつを?どんだけ食い意地張ってんだよこいつ。顔を真っ赤にさせた彼女はわなわなと震えて固まっている。 ......ったく、仕方ねーな。 「おら。」 弁当の中身にあったマヨネーズ入り卵焼きを彼女の口へ突っ込む。凛華はびっくりして目を点にしていた。 「!!?!」 「悪かったな。これで我慢しろ。」 彼女の口へ突っ込んだ卵焼きを離し、そして指についたものをペロリと舐めた。ん、うめェ。 「◎◆←§●◆%▲!!?」 口にものを含んでいるため凛華は何を話しているのかわからないが、まあ、とにかく不味くはないらしい。 そういえば凛華の顔が先程よりも赤い気がする。気のせいだと思うが。 隣でひとりで騒いでいる凛華を他所に空を見上げる。今日はいつになく晴れていた。雲ひとつもない。 「綺麗だなァ。」 再び、凛華は騒ぎだした。 おやつを与えすぎないでください 「もぐもぐ......、ちょ、トシ!」 「あ?やっと食べ終わったか。」 「そう!マヨネーズ入りも結構美味...じゃなくて!さっきのはわざと!?」 「わざと?なにをわざとにする必要があんだよ。」 「む、無自覚とはなんて恐ろしい子......!?」 「?......いまいち話が掴めねェ。」 |