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「はい、では号令。」


ガタガタッ


「起立ー、礼ィ。」


ありがとうございましたァ、とやる気のない声が響く教室から次々と生徒たちが出ていく。


部活に行くもの、友達とショッピングへ行くもの、はたまたひとりで帰るものと様々。


放課後は生徒たちが最も自由な時といっていいだろう。


私はというと、出ていく人とは対照に席へつく。そしてあるものを開いた。


それには大きく「日誌」と書かれていた。


今日日直だった私は、日誌の中の空欄をサラサラと埋めていく。


書くことは大体決まっていたのでそんなに悩まなかった。


「次も、頑張ります、っと。」


ふぅ、と溜息をつき日誌を閉じた。背筋を伸ばし、パッと目を開く。


「よっ。」


「ぎゃっ!?」


そこには机に顔を乗せた銀時がいた。


部活を抜け出したのかいつものだらけた制服ではなく、ピシッとした剣道着を着ている。


驚きとかっこよさのあまり心臓がドキドキと跳ねる。


「いいいつからここにいたの?」


「んー、ついさっき?」


「なんで疑問形?」


「そっちも疑問形だから?」


「ぷ、な、なにそれ。」


このやりとりがおかしくなり、つい笑いがでる。


「銀時、部活は?」


席を立ち、教壇にある出席簿をとる。それを日誌と一緒に持つ。


「サボってきた。」


「ダメじゃん。」


「つまんねーんだよ、毎日同じことの繰り返しは。」


そう言って教壇にいる私の方へと歩んできた。


「じゃあ毎日刺激が欲しいってこと?」


「……そーだなァ。刺激がほしーな。」


「例えば?」


毎日の刺激(という名の恋)を持っている私にはわからない悩み。その時私は銀時の例えを聞いてみた。


面白半分に聞いただけだった。


「恋、とか?」


真面目な顔で私に言う。その時どんな顔をしたのか覚えていない。


「そう、なんだ。それが刺激か。」


「学生つったら青春、青春つったら恋だかんな。」


恋、銀時は今恋を求めている。それは私との恋ではなく他の誰かとの恋だろう、きっと。


最近自惚れていた。銀時と前よりたくさん喋ってるからって、名前で呼び合ったからって、距離が縮まったと思っていた。


実際、思っていたのは自分だけだったのかな。自惚れちゃだめだったのかな。


そう思うと心が痛んだ。


「……いい恋できるといいね。」


きっとひどい顔をしてる、私はそっぽを向いた。


「じゃあ、早く部活戻りなよ。私、日誌届けに行くから。」


その場から逃げようと早口に用件を言った。しかし、


「凛華。」


がしっ


大きな手で私の腕を掴む。なんで掴んだのかさっぱりわからない私は驚いた顔で銀時を見る。


銀時はいつにも増して真剣な顔をしていた。


「……なんで逃げんの。」


「に、逃げてない。」


「いや、逃げてるね。さっきから俺と顔合わせねーモン。」


「そ、それは。」


「なんで?なんで逃げんの?」


「……言えないよ。」


「それは俺が信用できないから?」


衝撃を受けた。まさか、銀時からそんな言葉がでるとは思わなかった。


「違う!」


私は声を荒げた。


「恥ずかしいからだよ!銀時が信用できないからとかそんなのは絶対ない!!銀時は優しい人、私なんかと明るく接してくれた、私に希望をくれた、私に……教えてくれた、大事な人だから、」


「凛華……。」


「だから、」


そんな、そんなこと言わないでよ。


「信用できないからとかそんな悲しいこと言わないでェ。」


目からはいつの間にか大粒の涙が溢れていた。


銀時が他の誰かと恋をする、よりも信用できない?と聞かれたことの方が余程心にダメージを与えた。


「悪ィ、悪ィ凛華。」


銀時は私の腕を引っ張り、腕で包む。それでも涙は止まらずひゃっくりをあげながら私は泣いていた。


そんな私の背中を彼はリズムよく叩く。


「最近の俺、すげー余裕がねんだ。」


「?」


「すげーネガティブだし、すげー弱気だし。凛華の前では絶対出さねェって誓ったのに……。」


悪ィ、そう言ってまた私を抱きしめた。私も銀時を抱きしめ返す。


「もう、いいよ。」


子供をあやすような口調で言う。


「え、」


「もう、ひとりで悩まなくていいんだよ。」


「凛華。」


「私がいるよ、いつでもいる。だからさらけ出そうよ、辛いことも全部全部。」


好きな人の力になれるのなら我が身を滅ぼしてでも頑張れる、それが恋ってモンじゃない?


ちょっと違うかな。


「……ありがとう、凛華。」


啜り泣く声が私たちを包んだ。
 
 
 
 
 
 
 
君との距離、約ニセンチ







私たちはお互いに涙ぐしゃぐしゃの顔を見合わせた。ついおかしくなって笑ってしまった。

いつの間にか喉につっかえっていたものがとれた気がした。



 
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