( 1/1 ) 彼はわたしみたいな平民が近づいてはいけない存在のお方だった。 彼は人の上に立ち、人々を妖艶の笑みと煙管から出る煙を放っている不思議な方。我々平民は何故かその容姿か実績かに惹かれ後ろについていく。それが大概の平民だ。 わたしは中でも例外の平民だった。 いつもより少し低めのヒール靴を履きコツコツと音を立てながら長く豪華な廊下を歩いていく。 廊下を突き進めば大きな扉に両方には難いのいいガードマン。わたしは怯むことなく進み、彼らの前に立つ。 「おはようございます。」 「「おはようございます、苗字秘書。」」 ご丁寧に頭を下げ挨拶をする彼らにわたしも丁寧に挨拶をする。 「社長はどちらに?」 「はい、既に中の方でお待ちしております。」 「どうぞ、お通りください。」 ありがとう、そう一言言い彼らの横を通りすぎ大きな扉のドアノブに手をかけた。 ギィ 最新の防犯扉が重たそうな音を立て開く。 扉を開いた先にはいつもの光景が待っていた。 「高杉社長、おはようございます。」 「......あ?」 目の前に広がる大きな高級ベッドに上半身裸で埋まっている彼こそ高杉セキュリティ会社の社長、高杉晋助様だ。 そしてわたしは無理矢理秘書を勤めさせられた苗字名前である。わたしは他の人とは違う平民らしい。社長曰く「俺に見向きもしないやつはお前が初めてだ」だとかなんとか。おかげで社長に興味を持たれ(目をつけられ)彼の推薦のもとここに就職した(させられた)。 わたし秘書の仕事は低血圧な彼を毎朝決まった時間に起こし、スケジュールを説明して社長の裏のサポートをする。これが主な仕事だ。簡単に言っているが言葉以上に大変な仕事である。 「社長ー、いい加減起きてください。」 「......晋助、」 「名前はご存じですから教えて頂かなくて結構です。いいから体を起こしてく」 「晋助。」 「だから一回教えて頂ければ覚えますから。んなことより早く起」 「晋助。」 「......は、早く起きてください。晋助社長。」 「最初からそう呼べ、馬鹿。」 欠伸を噛み殺しながら体を起こす彼に殺気が湧いたが顔には出さないようにした。全く朝から勘弁してほしい。 「晋助社長、食事はいかが致しましょうか。」 「......おま「朝御飯はしっかり食べたいのですね。なるほど。」」 「だから、おま「今すぐご用意致します。」」 「っち。」 あとは冗談なのか本気なのか(きっと10:0)彼は変態発言行為をする。この前はベッドに無理矢理引き込まれ本気で焦った。貞操に危機を感じたのは言うまでもない。 できあがった食事を社長が席についているテーブルに並べる。社長は並べられた料理をただ黙って食べた。 彼は何故かわたしに料理を作らせる。なんでも庶民のご飯に興味を持ったのとそれを食べて気に入ったのだとか。おかげでこちらはいい迷惑。 「お食事中ながら失礼致します。今日のスケジュール確認です。」 「...ん。」 「あ、これ美味しいですか?これは簡単に作れるポテトサラダなんですよ。」 「......おー。」 「お口に合いますでしょうか?」 「......いんじゃねーの。」 「ありがとうございます。それでは早速スケジュール確認を。」 社長が気に入った食べ物を食べたときは少し唸る。その時は必ず感想を聞くようにしている。味付けとか微妙な調整が必要なことが知りたいからだ。 「ーーーーとこのようになっております。」 「......。」 「なにかご質問はございますか?」 「...いつになったら抱かし「無いようですね。」」 「っち。」 お前の頭の中は年中ピンクか!とツッコミたいがそんなことをしたら確実に何かが崩壊しそうなので心の中だけで叫ぶことにした。 「それでは着替えを、」 「すぐ終わる。待ってろ。」 バサッと音と共に舞う漆黒のシャツ。彼は器用に袖を通した。どうやらまたここで着替えるらしい。わたしは黙って後ろを向いた。 これもいつものこと。 そして、 「行くぞ、名前。」 ものの数秒で着替えネクタイを器用につける彼はわたしの横を通りすぎる。このときに見える社長の横顔は完全に仕事モードだ。 「......はいっ!」 その顔を見てふいに頬が緩むわたしは彼の少し大きな背中を追いかけ、隣に並ぶ。 これもいつものことである。 充実エブリディ 毎日ぶつぶつ文句言ってるけど、 なんだかんだ充実した毎日を送っています。 これからもお仕事、もっと頑張れそうです。 >>> あとがき こ、これ甘いですか甘いのですかっ!? なんかわかりにくいツンデレーションが誕生しました。 いやいやいやその前にこれは甘いのかという...(泣) さちこさんごめんね!こんなになっちゃって! でもこの設定気に入ってます(だからどうした) さちこさん、リクエストありがとうございました! |